第40話:畑の宝探しと山盛りの野菜


 季節は十月下旬。


 朝晩の空気がひんやりと肌を刺すようになり、吐く息も少しだけ白さを帯び始めた頃。


 私たちは裏庭の畑の前に並んでしゃがみ込んでいた。


「ねえエリス姉、これ本当にできてるの?」


 モコが心配そうに、枯れかけた葉っぱを指先でツンツンとつつく。


 夏にみんなで開墾し、種を撒いた根菜たち。地上の葉はすっかり茶色く萎れて、地面にぺたりと寝そべっていた。


「ふふ、大丈夫だよモコ。根菜はね、葉っぱが枯れてからが本番なんだ」


「本番?」


「そう。葉っぱの栄養が全部、土の中のお芋に移動した合図なの」


 私はスコップを構え、ニカっと笑ってみせた。


「今日は待ちに待った収穫祭だよ!」


「しゅーかくさい! お芋食べる!」


 モコの尻尾がブンブンと振られ、枯れ葉がカサカサと音を立てる。


 少し離れた場所で腕組みをしていたピコが、やれやれといった様子で近づいてきた。


「……で? 闇雲に掘り返すつもり? まだ小さい芋まで掘っちゃったら台無しじゃない」


「……ん。見えない。掘るまで、わからない」


 トトも首をかしげている。確かに、地中の様子は見えない。普通なら、試し掘りをして運任せに収穫するところだ。


 でも、私には「目」がある。


「ふふん、そこで私の出番です! 今日はゲームをしようか」


「ゲーム?」


「名付けて『一番大きなお芋を掘った人が勝ち』ゲーム!」


 私はスッと息を吸い込み、意識を集中させた。瞳の奥に熱が集まる感覚。


『構造把握(アーキテクト・アイ)』!


 カッ!


 視界から色彩が抜け落ち、世界が青白い設計図へと書き換わっていく。


 枯れた葉の茎が、地面の下へと伸びるラインとして浮かび上がる。土の粒子が半透明になり、その中に埋まっている「塊」が、青いワイヤーフレームのようにくっきりと透けて見えた。


(……見える!)


 土の中で丸々と太ったジャガイモたち。さらに奥には、立派に成長した大根のシルエット。


 まるで地面がガラス張りになったみたいだ。


「よし……右端の畝(うね)! モコの前にある株、それが当たりだよ!」


「ここ!? よーし、モコが掘る!」


 モコが四つん這いになり、前足……じゃなくて両手で猛然と土を掘り始めた。 ザッ、ザッ、ザッ!


 犬かきのような凄まじいスピードだ。


「あった! なんか硬いのあった!」


 モコが泥だらけの手で掴み、勢いよく引っこ抜く。 スポンッ!!


 土飛沫と一緒に飛び出したのは、私の握り拳二つ分はある巨大なジャガイモだった。


「でっかーい!!」


「……すごい。一番、大きい」


 トトが目を丸くして拍手をする。


「次はピコ! あなたの足元のやつ、深くて長いよ!」


「はぁ? アタシは別に……」


 文句を言いながらも、ピコは素早く短剣の柄で土を崩し、丁寧に掘り進める。


 やがて現れたのは、真っ白で太い大根の頭だ。


「……あら。意外としっかりしてるじゃない」


 ピコが葉の付け根を持って、グッと力を込める。


 メリメリッ……ズボォッ!!


 気持ちのいい音と共に、立派な大根が姿を現した。真っ白な肌に、黒い土がついているのがなんとも美味しそうだ。


「ふん、まあまあの出来ね」


 ピコはすました顔をしているけれど、ピーンと立った尻尾が嬉しさを隠せていない。


「……ボクも」


 トトが私の袖をクイクイと引っ張る。


「あ、ごめんごめん! トトちゃんはね……あそこの変な形の葉っぱの下!」


「……ん」


 トトが小さなシャベルで、慎重に土を避けていく。 サクッ、サクッ。


 几帳面なトトらしく、芋を傷つけないように優しく周りから攻めていく。


「……取れた」


 トトが掲げたのは、まるで二本の足が生えたように枝分かれした、変な形の人参だった。


「あはは! 走ってるみたい!」


「……ふふっ。逃げる人参」


 トトも珍しく声を上げて笑った。


  † † †


 それからはもう、宝探しの時間だった。


 私が「あっち!」「そこ!」と指示を出し、三人が競うように土を掘り返す。


 冷たかったはずの空気も、夢中で動いているうちに忘れてしまった。額にはうっすらと汗が滲んでいる。


 ザクッ、ゴロン。 スポンッ、ドサッ。


 土の匂いと、収穫したばかりの野菜の青臭い香り。それが混ざり合って、なんだかとても豊かな匂いがする。


「ふぅ~……。掘った掘った!」


 一時間後。


 畑の横には、泥つき野菜の山が出来上がっていた。


 自分たちで耕した固い土から、こんなにたくさんの命が生まれたんだ。そう思うと、胸の奥がじんわりと熱くなる。


「ねえエリス姉! これどうやって食べるの? 焼く? 煮る?」


 モコが採れたてのジャガイモを両手で持ち、涎を垂らしそうな顔で聞いてくる。


「そうだねぇ。今日は寒いし、トトちゃんが作ってくれた深いお鍋で、具沢山のポトフにしようか」


「ぽとふ! お肉も入れる!?」


「もちろん。奮発してベーコンも入れちゃおう!」


「やったー!!」


 モコの歓声が秋の空に吸い込まれていく。


「……泥、落とす」


 トトが井戸から汲んでくれた水桶に、野菜を浸す。 ジャブ、ジャブ。


 冷たい水で洗うと、野菜たちは鮮やかな色を取り戻していった。ジャガイモの黄金色、人参の橙色、大根の白。


 まるで宝石みたいだ。


「……手、冷たい」


 トトが赤くなった指先をこすり合わせる。


「帰ったら、すぐに火を焚いて温まろうね」


「うん」


 私たちは重たい収穫カゴをみんなで分け合って持った。


 ずっしりとした重み。それは、この土地で生きていくための確かな糧の重さだ。


 夕暮れが迫る中、家から漏れる暖かな灯りを想像して、私は自然と早足になるのだった……。

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