旧都市研究部部室から発見された怪談集

梶ノ葉 カジカ

はじめに

 みなさんこんにちは。


 電子音楽部〈Plastic-modern〉のヤタムキです。


 さて、あなたはいま椅子に座り、画面を覗き込んでこの文章を見ているわけですが、机にポツンと置かれたノートPCしかない部室に驚いているかもしれませんね。


 そして「なぜ電音部が怪談の展示を?」と思われていることでしょう。


 本来であれば、今回の文化祭では恒例の新曲の発表とミニライブを開催予定でした。


 しかし家庭の都合、音楽性の違い、制作スピードの違い、価値観の違い、ピキ・ボレイ部に専念したいなどの様々な避けがたい理由により、誠に遺憾ながら私以外の部員が脱退してしまいました。


 急遽私のソロ曲を制作していましたが、相次いでありとあらゆるすべての機材が故障・紛失・焼失・没収の憂き目に遭い、新曲の発表とライブを断念せざるを得ませんでした。


 楽しみにしてくれていたみなさん、本当にごめんなさい。


 かんしゃくを起こした私が部室で暴れまわっていたところ、部室の隅の〈開かずのロッカー〉の扉がピタゴラスイッチ的に開くという奇跡が起きました。


 その中はなんと人が入れるほど広く、隣の空き教室のロッカーまでつながっていました。


 我らがスーパー顧問・日本一の日本史教師・音楽史上最高のサポートドラマー丹治たじ先生に確認したところ、一〇年ほど前にいまの電音部の部室を使っていた〈都市研究部〉が不正に作った仮眠スペースだろうとのことでした。


 これらの怪談は、そのロッカー内で発見されたものです。


 先生によれば、都市研究部が生徒たちから募集したものだということでした。


 電音部本来の活動とは離れますが、移転が決まっている本校と歴史を共にした地域の貴重なエピソードとして発表することにはとても意義深さを感じます。


 電子音楽とはある意味で最も人間味のある音楽ジャンルであると自負する私にとって、歴史や人の営みというものは既にテクノなのです。


 この辺りの懐の深さがお皿をこすって飛び跳ねることしか能のない某自由音楽部とは一味違うんですよね。


 都市研究部が怪談を募集していた理由について先生は覚えていないとのことでしたし、当時の部員が連絡できる状態にないためわかりません。


 おそらくは今回の私のように、地域の文化や歴史への理解を深めるためだったのではないかなあと思います。


 怪談が書かれたり印刷された紙束は残念ながら劣化が激しくボロボロになってほとんど読めませんでした。


 しかし私は見逃しませんでした。PCの下書きメールボックスを掲示板のように使ってアーカイブしていたってことをね。


 いくつかの怪談の後に当時の部員のものらしきコメントが残されています。よく意味が分からないものもありますが、当時の生徒の活動が見える気がしてエモいのでそのまま載せました。


 一部データが破損していてすべてのデータを取り出せませんでしたが、できるだけ元のまま載せて、つながりそうな部分はそれっぽくこちらで補完しました。


 普段から作詞をやっているので文章力には自信がありむす。


 さらにこれらの募集に使われたポスターの下書きらしいデータも残されていたので、あわせて見られるようにしておきました。


 どうやら怪談の編集作業は何かの理由で中断してしまったようで、メールボックスに届いたままの投稿も発見されました。


 なお募集の文の中に“展示に使用”とあったり、プレ展示の感想メールなどがありますが、文化祭で都市研究部によって怪談が展示されたり、別のどこかで発表を行った記録はありませんでした。


 先輩からのバトンを受け取ってお蔵入りになった怪談を発表なんて少しワクワクしませんか?


 しかもなんだか、不穏なワードがちらほらと出てきます。


 いったい彼らの身に何が起こったのでしょうか……?


 最後に感想欄があるので、ご自由にお書きください。


 読んだあなたが感じたすべてが、この展示の意味になります。


 そういう理由で今回の展示となりました。どうぞゆっくり見ていってください。私はロッカーの中にいます。



 電子音楽部〈Plastic-modern〉 部長 八田向望

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