空の傭兵

猫町大五

第1話

 西都のトンブリ丁といえば、有名なのはホルモン焼きである。

 そこいらの食肉をタレにつけ、部位の別なく焼き、食う。これに米など合わせれば、栄養十分で安価の上、何より美味い。

 物価高の最近、昔からあったこれらがにわかにブームを起こし、内々から外々から消費量が増えた。今では首が回る範囲、あらかたホルモン焼きの巣窟だ。逆に、そうでなくては首が回らないのだが。

 その裏手の裏手、路地奥の焼物屋『無頼庵』は、あまりの立地の悪さに客の姿はまばらどころでない。看板も暖簾もなく、見てくれも崩れかけの長屋とくれば、地元の民も寄り付かないのは道理だろう。

 カウンターのラジオが鳴った。


「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。

 西都南方、南三番港に敵機多数との情報が入りました。近隣の皆様は不要不急の外出は避け、地下への……」


「そんなの言われてもねえ。そうか、向こうは地下じゃないのか」

「稼げるかね」

「行く気かい」


 ホルモン焼きを平らげた男に、店主は呆れたように言った。


「あそこは防空がしっかりしてる。表立って警報など、そう出ない」

「防空艦が?」

「やられてはいない」

 つぶやくように言った。

「落としきれなかった、ないしは数が足りないか。恩賞金くらいは出るかね」

「……裏手。突き当たりの階段から、三十番の出口」

「どうも」


 男は店をあとにした。

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