魔法少女はメタルを聴く

@honomura_fai

第1話「かぼちゃ女にだまされた」①

ぶすっと頬杖をついている。


この席からかなり距離のある壁際は、一面がガラス張りになっていて、わたしの目線からは、パーティションや天井に切り取られて、小さなガラスの長方形に見える。


長方形には空が映っている。

ただ、空である。


今日はほんのり白っぽい青。

それはなんだか、水晶のようにすべてを見透かす、知的インテリア体のように見える。

じっと見つめていると、遠い日のわたしの声が聞こえてくるようだ。


だいじょうぶ、だいじょうぶ、

恋愛なんていつでもできるじゃない。

みんな急ぎすぎなんだよ、と。


――はじめて男の人とつき合ったのっていつなの?

――それがね、ちょっと遅くて、19なの。


とか言ってみたい。

そのほうが完全に可愛いからだ。


大人っぽく見えるらしい長めのストレートヘア、本当は楽だから着ているシックなカジュアルスーツ、今の恰好からは想像がつかないだろうが、かつてのわたしは夢見がちな少女であったのだ。


その彼女はこうも考えていた。


……でも、できれば二十歳までには経験したいかな。


うん、だいじょうぶでしょ。

だってこのあとに控えているのは、巷で「確実に人生の最盛期となる」と言われている、出会い多きキャンパスライフなんだから。


(それはそれで悲しくもあるけれど……)


わたしはそのことを疑いもしなかった。

そう思って、ここまできた。

思えば遠くへきたもんだ。


目の前の電話が鳴る。

とる。


「はい、DBJでございます。――えっと、どちらの佐藤でしょうか? ――申し訳ございません、佐藤はただいま外出しております。――ええ、ええ、失礼いたしまふ」


切る。

ちょっとかんだ。


まあいいや。

わたしにプロ意識はない。


ここは都心の一等地にある高層ビル。

その、高層階のワン・フロア。

そのフロアに入っている株式会社DBJのオフィスに、わたしはいる。


大きな会社ではない。

きて半年になるが、いまいち何をしている会社かわからない。

事務用品の販売なのか?

まあどうでもいいけど。


ここでのわたしの役割は、ひとことでいえば雑用。


けど骨の折れる仕事はたいてい男性社員がやってくれるので、やることといえば、電話を取り次いで、パソコンで簡単な作業をして、お客様がきたときにはお茶をもっていって愛想よくするくらい。


五時半にさっと帰る。


さて――、


そんなわたしは魔法少女である。


正確には、その一歩手前。


…………。


もう一度言おうか?


うん、魔法少女だよ。


聞き違いじゃないから。


……なにか、文句があるだろうか。


ええ、26歳ですとも。それが何か?

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