現代社畜、死にゲー世界に農民転生!一揆軍に加担し死にゲー知識無双!!
匿名AI共創作家・春
第1話 序章社畜、死す。
「――はぁ、やっと終わったか」
深夜一時過ぎ。都内の築三十年、ワンルームのアパート。
重い鉄扉を開けた坂谷村雨(さかたにむらさめ)(五十五歳)は、革靴を脱ぎ捨てる気力すら残っておらず、玄関の三和土(たたき)に片膝をついた。
鼻孔をつくのは、自身の加齢臭と、満員電車で染み付いた他人の汗、そして格安タバコの臭い。
視界がぐらりと揺れる。こめかみの奥で、不整脈のような鈍い痛みが警鐘を鳴らしているのがわかる。
今日の業務は、地獄などという生易しいものではなかった。
二十代の部下がやらかした発注ミス。その尻拭いのために、村雨は取引先の若い担当者に九十度の角度で頭を下げ続けた。腰椎が軋み、脂汗が床に落ちるまで。
帰社すれば、上司からは「コンプライアンス順守」と「残業規制」、そして「売上倍増」という矛盾した命令(オーダー)を同時に叩きつけられる。
まさにクソゲー。それも、仕様書(ルール)が存在せず、開発者(経営陣)の気まぐれで即死イベントが発生する、質の悪いクソゲーだ。
「……だが、こっちは違う。こっちには『理屈』がある」
村雨は軋む膝を叩いて立ち上がると、コンビニ袋から愛飲しているストロング系のロング缶(度数9%)と、半額シールの貼られた唐揚げを取り出す。
ネクタイを緩め、部屋の祭壇――配線だけは幾何学的に整理された大型モニターと、最新ゲーム機の電源を入れた。
ブォン……という起動音と共に、漆黒の画面に禍々しい筆文字が浮かぶ。
和風ダークファンタジーARPG『獄道(ごくどう)』。
世界累計一千万本。その異常な難易度で、数多のプレイヤーの精神をへし折ってきた「死にゲー」の金字塔。詳しく説明しよう!獄道とは……アクションRPG 『獄道 -GOKUDO-』
「業(カルマ)を斬り、奈落を抱け。」
1. 基本データ
ジャンル: 和風ダークファンタジー / 死にゲーアクションRPG
難易度: 極辛(※開発者曰く「クリアさせる気はあるが、甘やかす気はない」)
キャッチコピー: 「死こそが、唯一の師である」
特徴: 圧倒的な「絶望感」と、それを乗り越えた時の「達成感」。そして救いのない「マルチバッドエンディング」。
2. 世界観・ストーリー
舞台: 極東の島国「日ノ本(ひのもと)」。
時は戦国末期。長く続いた戦乱の穢れにより、冥界との境界が崩壊。「妖(アヤカシ)」と呼ばれる異形が溢れ出し、人間を喰らい、成り代わる地獄と化している。
あらすじ:
___人と妖の間に生まれた半妖の少年「ムラマサ」は、どちらの世界からも拒絶され、孤独に生きてきた。
しかし、唯一心を許した幼なじみの少女が、領主によって「妖を鎮める生贄」として連れ去られる。
無力なムラマサは、古寺に封印されていた禁忌の刀「獄焔刀(ごくえんとう)」を抜き、自らの人間性を薪(たきぎ)として燃やす契約を結ぶ___。
それは、修羅の道(=獄道)への第一歩であった。
3. ゲームシステム(村雨の攻略知識の源泉)
① 「獄焔(ごくえん)」システム
主人公は右腕の義手と刀から「黒い炎」を放つことができる。
リスク: 獄焔を使えば使うほど、画面左下の「浸食ゲージ」が上昇する。
ゲージが最大になると「妖化暴走」し、操作不能となりゲームオーバー(自我の喪失)。
しかし、強敵を倒すには獄焔の使用が不可欠というジレンマ。
② 戦闘スタイル:剣戟と弾き(パリィ)
敵の攻撃力は極めて高く、雑魚敵の攻撃でも2~3発で死ぬ。
「弾き」: タイミングよくガードすることで体幹を削り、一撃必殺の「介錯(フィニッシュムーブ)」を叩き込むのが基本戦術。
村雨はこのタイミングを「フレーム単位」で記憶している。
③広大なマップ探索と「鬼仏(おにぼとけ)」
広大で立体的なマップは、ショートカットや隠し通路の塊。
チェックポイントである「鬼仏」でのみ、休息とレベルアップが可能。ただし、休息すると倒した雑魚敵がすべて復活する(死にゲーのお約束)。
NPCはみんな狂う。助けても最後は死ぬ。そこが最高なんだよ。「誰も幸せにならない」ことが『獄道』の評価点であり、批判点でもある。
【状態異常:穢れ】
特定のエリアや敵の攻撃で蓄積。最大になると最大HPが半減し、回復アイテムの効果が無効化される。
5. 主人公「ムラマサ」の正史(ゲーム内での結末)
プレイヤーの選択により分岐するが、どれもハッピーエンドとは言い難い。だが、それがいい。人生にハッピーエンドなんざない。死ねば同じだからな。
修羅エンド: 全ての敵を殺し尽くすが、ヒロインも救えず、孤独な破壊神として永遠に戦い続ける。最高かよ…。
妖王エンド: 妖の側に堕ち、人間を滅ぼす魔王となる。最高にクールな悲劇だな。
人柱エンド(トゥルー?): ヒロインを救う代わりに、自らが新たな「封印の楔」となり、永遠の苦痛の中で石化する。もはや芸術的な救いようない悲劇。神ゲーだわ。
以上が神ゲーにして死にゲーであり俺のオアシスである獄道の解説であった。
「さて……今夜こそ、あの『隠しボス』の乱数調整を解析する」
カシュッ。
小気味よい音と共にプルタブを開け、化学的なレモンの香りがするアルコール度数比較的高めな液体を喉へ流し込む。
強烈なアルコールと炭酸が、空っぽの胃壁を焼くように落ちていく。脳の前頭葉が痺れ、仕事の憂鬱が強制的にシャットダウンされる。この瞬間だけが、坂谷村雨という個体が「生」を実感できる時間いわゆる儀式だった。
使い込まれたコントローラーを握る。手汗で滑らぬよう、指先を乱雑にズボンで拭う。
村雨の濁った瞳に、鋭い光が宿った。
画面の中、半妖の主人公「ムラマサ」名前が似ているから人一倍思い入れあるキャラが、画面の半分を埋め尽くす異形の鬼将軍と対峙している。まさに絶望に抗う雄姿だ。
一撃受ければ即死。回復アイテムはもはやとうに尽きている。
「右、右、溜め攻撃……からの、ディレイ(遅延)!」
カキンッ!
金属音と共に火花が散る。村雨の指先が、コンマ数秒の遅れもなくL1ボタンを弾く。その所作は流れる水の如し。
五十五歳の動体視力は、とうに衰えている。老眼で文字も霞む。十代のプロゲーマーのような神がかった反応速度などない。その時間より勤務時間のが長いから。
だが、村雨には「経験」と「知識」があった。
何十年もの間、社会という理不尽なシステムに耐え、上司の顔色を観察し、リスクヘッジを徹底してきた「社畜の生存本能」が際立っていたかもしれない。
(部長の感情的な叱責に比べれば、この鬼の攻撃には『予備動作』があるだけ慈悲深い)
(取引先の無茶振りに比べれば、この理不尽な判定(ヒットボックス)には『安全地帯』があるだけ良心的だ)
死ぬ。リトライ。
死ぬ。リトライ。
死ぬ。リトライ。
死ぬ。リトライ。
死ぬ。リトライ。
死ぬ。リトライ。
死ぬ。リトライ。
ロード時間の数秒間に、缶チューハイを雑にあおる。口から滴るアルコールを拭う間もなくコントローラーを握り、画面を見据える。
二本目、三本目。四本目五、六、七本目___。
血中アルコール濃度の上昇幅と共に、脳のリミッターが段階的に外れていき、思考ノイズが消え世界が「敵」と「俺」だけに収束していく。所謂ゾーンである。
「見えた……! 第三フェーズ、乱舞攻撃の四発目。振り下ろしの硬直に6フレームの隙!」
PDCAサイクル。計画、実行、評価、改善。
人生というクソゲーシナリオをなぞりつつ魂をすり減らして培ったそのプロセスを、村雨はこの無慈悲なファンタジー世界に叩き込んでいた。それはストレス発散に繋がっていた。例え画面上の分身ムラマサ(ゲーム主人公)が死にまくってもな。
そして、ついにその時は訪れる。
ズズ……ンッ。
画面の中で、巨大な鬼が膝をつき、光の粒子となって崩れ落ちた。
画面中央に躍る『悪鬼討伐!』の紅い文字。
「……よし。……よぉぉしっ!!」
深夜のワンルームに、おっさんの枯れた、しかし熱い歓喜の声が響いた。
脳髄で脳内麻薬(エンドルフィン)が炸裂する。指先が小刻みに震え、視界が揺れる。
これだ。この達成感だ。
どれだけ残業しても評価されない現実と違い、この『獄道』の世界は、流した魂の血と汗と時間の分だけ、確実に「正解」を返してくれる。
「よし、祝杯だ。今宵は、最高の酒が………!」
村雨は震える手で、とっておきの八本目――度数12%の限定醸造缶に手を伸ばした。
その時だった。
ドクン、と。
心臓を内側からハンマーで殴られたような、暴力的な稲妻のような衝撃が迸った。
「が、っ……!?」
視界が、テレビの砂嵐のように白く弾ける。
モニターの光が急速に遠ざかる。
手からコントローラーが滑り落ち、フローリングにゴトリと乾いた音を立てた。
(あ、れ……? 息が……まさか……死? リアルか? ああ……やり直……せ……るわ……け、ねえか………)
呼吸ができない。肺が鉄板で押し潰されたように動かない。
心臓が、早鐘を打つのを通り越して、不規則に痙攣しているのがわかる。
急性アルコール中毒。あるいは、過労による急性心不全か。
冷たい床に顔面から崩れ落ちる。受身も取れなかった。
痛みは一瞬だった。
すぐに意識は暗転し、泥のような深い闇へと沈んでいく。
遠くで、ゲームのクリアBGMだけが、やけに鮮明に聞こえていた。
(まだ……DLCの……裏ボスが……ああ……やり直…したい………。)
無念があったとすれば、それだけだった。
五十五年の人生。家族も持たず、出世もせず、ただひたすらに会社と家の往復ですり減らした人生。
だが、坂谷村雨は最期に、確かに「勝利」を掴んで逝った。
――午前二時、永眠。
死因、急性心不全及びアルコール中毒。
ワンルームの孤独死。
だが、彼の魂の火は、まだ消えてはいなかった。
彼が愛し、攻略し尽くしたあの地獄(ゲーム)の底で、白く、静かに燻り始めるのだった。
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