捨てられ聖女のタンス無双 ~荷運びなんて地味? とんでもスキルで呪いだって癒やしてみせます~
あずま八重
第1話 思わず手にしたイイ話
祖母の遺影に手を合わせていたら、自室が知らない部屋になっていた。
石壁、石床、石天井。そして、どこかカビ臭いそこには人がたくさんいる。
「聖女召喚、成功だ!」という歓喜の声に混じって戸惑う声があるのは――私の前にあるのが〈タンス〉だったからだろう。
神殿、といった
聞けば、この世界における聖女は、〈祭壇〉と共に召喚されるものらしい。だが、いくら祈ったところで所詮はタンス。期待された〈聖なる力〉とやらは発動しなかった。
「聖属性の物質には違いないが、やはりただのタンス」
「25でその幼い容姿。本当は魔女じゃないのか?」
「聖女じゃないなら、ただのゴミだ」
そうして3日目、私は王家に捨てられた。
「勝手に喚び出しといて何よ! 支度金くらいよこしなさいよ!」
城門に向かって叫んだところで、門番さえ反応しない。
ため息を漏らしつつタンスに振り返る。まぁ、今の私の財産には違いない。
白い桐製のそれは、幅は縮んでいるが確かに私のものだった。3段の中身は見知ったものばかり。八つ角には補強の金具、取っ手の付け根には飾り金がある。他に記憶と違うのは、裏に背負い紐がついていることだ。
そこをヒョイと持ち上げ、難なく背負う。
「城の人は数人がかりだったのに、私は軽々持てちゃうのよね……」
肩より拳1個分はみ出るくらいの幅で、丈は肩から腰のあたり。奥行きは、肘から手首くらいだろうか。祖母からもらって愛着はあるが、一緒に召喚されるならもっと他にあるだろう。
城下町へ下りてタンスの中にあったものを売ってはみたが、王都の物価高の前にはあまりに
――あれから半年か。
思いを馳せながら扉を開けると、いつもの喧騒とむさ苦しい空気が私を包み込む。ヒロウゴッツの冒険者ギルドは今朝も大盛況のようだ。
クエスト掲示板は、討伐依頼・護衛依頼・採取依頼の順で張り紙が多く、そのどれもが賑わっている。
私は一番閑散としている〈
「今日も街なかの依頼ばっかり……ん?」
と、1つの張り紙に釘付けになった。
「〈オルカの泉〉への往復、約5日を同行する女性ポーター募集。たくさん持ち運べる方、大歓迎。報酬は……金貨3枚!?」
思わず上げたうわずった声に、慌てて口を押さえる。
――これだけあったら、下宿の滞納金を完済しても三食付きで数ヶ月は遊び暮らせる!
即座に依頼書をはがして隠し持つ。
ポーターは稼げる職業ではない。安定して稼げるのは、大店や上位パーティーと専属契約をしている人だけ。フリーはもっぱら街なかの安い依頼を掛け持ちするしかなく、場合によっては割に合わない重労働のことも多い。
始めたのだって、単にタンスがマジックバッグになっていたからだし、凶暴な魔物相手に直接戦わなくていいからだ。
でも、せっかくの異世界。街の外へ出て冒険心は満たしたい。
それが叶う依頼な上に圧倒的な報酬。飛びつくのは道理。しかも、これを機に専属契約してもらえるかもしれないのだから、多少の危険だって覚悟の内だ。
「あなたが依頼を受けてくれたポーター?」
指定された待ち合わせ場所で皮算用をしていると、背の高い、赤毛ショートの女性に声をかけられた。少し吊り目の美人で、白い皮の胸当てが目を引く。
「……あまり持てそうには見えないな」
心なしか漂ういい香りから意識を戻す。小柄だと言いたいのか、童顔のせいで若く見られているのか。あごを撫でながら上から下まで眺めてそんなことを言った。
依頼人との顔合わせは、何度経験しても緊張する。笑顔で対応していたら舐められてばかりだったから、表情はやや固めで、自信のある受け答えを意識して行う。
「見た目に似合わずたくさん持てますよ」
「大容量マジックバッグは持ってるのか?」
「もちろん!」
「ポーター歴は?」
「半年ですが、冒険者ギルドからは銅1級をもらっています」
「ポーターで銅1級? じゃあ自分の身は自分で守れるってわけか」
「はいっ、安心してお任せください!」
納得してくれたのか、実際に見ればいいと思ったのか。依頼人は「そうか、期待してるよ」と軽く笑って手を差し出してきた。その手をガッシリ掴み、私も笑顔で応える。
「フリーのポーター、キリコです」
「ステラだ。冒険者ランクは銀2級。普段はソロで活動しているんだが、今回は少し遠出したくて募集をな。よろしく」
翌日。5日分にしてはやけに多いステラの荷物を預かった。
「軽々と持ってくれるね。頼もしいよ」
一般的なマジックバッグとは異なり、重たくならないので助かっている。
準備を整え北門へ向かうと、顔見知りの門番がいた。
「お、タンスのねーさん。今日は珍しくパーティー組んで外出かい?」
「んっふっふーん。いいでしょー?」
「そいつぁーよかった」
朗らかに笑って、門番がステラに顔を向ける。
「お連れさん。この人、シッカリしてるようでポヤポヤしてるから、その辺のフォローおねがいします」
「ちょっ……なんてこと言うのよ」
「そうか。善処する」
「ステラさんまでー」
門番に手をふり、街道に出る。少し進んだところで、前を歩いていたステラが振り返った。
「知り合いか? ずいぶん親しそうだったな」
「この街に来たばかりのころ、すごくお世話になったんです」
王都の物価から逃げてきてすぐ、私は財布をスられた。それを取り返してくれたのが、そのとき見回り番をしていた彼だった。いま居候させてもらっている下宿も彼の紹介だし、ポーターを始めるキッカケをくれた上に独り立ちするまで世話を焼いてくれたのも彼だったりする。
「あの人が居なければ、今ごろ路頭に迷っていたかもしれません」
「なるほど。それは大恩人だな」
目をほそめるステラに、私は大きく頷いた。
街道を行く道すがら、今日の予定を確認し合う。
「森までは半日ちょっともあれば着くが、進入前に野営しようと思う」
「戦闘はステラさんおひとりなんですから、シッカリ休憩も取らないとですね」
街道の周辺は草地のまばらな平原だから、魔物との遭遇率はそれほど高くない。森での疲労度に比べれば大したことはないにしろ、私では戦闘の役に立てないのだし、休息は多めに取ってくれないと逆に困る。
「休憩か……」
複雑そうな顔でステラが呟いた。
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