第7話 変化
オークの数が増え、剣だけでは対処できないと判断したミホスは炎を主体とした攻撃に変えていた。細い帯のように噴出する炎が舐めるとオークの顔が黒く焼けただれ、そのまま顔が砕け散っていく。首を失った身体はカタカタと揺れるとそのまま大地に倒れ込んで動かなくなった。
だが、ミホスの吐く炎が急に大きくなった。
視界一杯に噴出した炎にぎょっと目を剥くミホス。狙った場所よりもずいぶん広く焼けてしまい、木に燃え移った。彼は慌てて口を閉じて仕切り直す。しかし、その後も炎は彼の言うことを聞かず、悪鬼とともに強すぎる火力で広い範囲を焼き尽くした。
自分の力を持て余すかのようにミホスはしきりと首を振る。実はこの変化、彼自身が一番うろたえていたのである。
とうとう、火が燃え移った周囲の木々が本格的に燃え始めた。ここしばらく雨が降らずに乾燥した木々に炎が次々に燃え移っていく。
オーク達は平気だが、木々の煙に巻かれてミホスははげしく咳き込み始めた。
その隙にオークに囲まれた彼は四方から切りつけられるが、木立の影から飛び出したシュリンが腰の剣を引き抜くと目にも留まらぬ剣さばきで次々に一刀両断し、ミホスを救い出した。
その時。
二人は急に地を這ってきた電撃に撃たれて跳ね上がる。
ミホスの炎と同じようにライカの電撃は今までよりずっと強力に変化していた。オークだけを狙ったはずが強すぎる雷撃が地面を伝わって周囲に波及し、木々をなぎ倒す。そして味方にまでもその衝撃が伝わっていた。
オーク達も電撃に身を震わせているが、どう見てもミホス達のほうがダメージが大きい。ミホスとシュリンはぐったりと地面に倒れていた。
「よせ、ライカ。強すぎだ」
木の陰からヘリットが叫んでも上空で雷をまき散らすライカには届かない。
しかし、急に電撃が小さくなってライカの空中姿勢が崩れた。
龍の雷撃はかなり体力を消耗する技だ。その上、身体が耐えられる以上の雷撃を放ってしまったことで彼自身も雷の衝撃を受けてしまって飛行に支障を来したらしい。
空中で龍の動きが止まり、そのまま木々をなぎ倒しながら地響きを上げて地上に激突した。
黒焦げの外観からぷすぷすと白い煙が上がる、ライカは二、三度けいれんするとミホス達の横で人間の姿に戻った。
雷撃でよろめいていたオーク達がよろよろと立ち上がって、ミホス達に迫る。
や、やられる。
助けに行かないと。
ヘリットは左腰に付けたお飾りの短剣を探る。だが、手に触れたのは腰から垂れ下がった縄だけ。そういえば短剣はさっきミホスに取り上げられていた。
「ミ、ミホスのところに走ってか、か、彼の剣をひ、拾って、た、た、た、戦う……」
「震えてますよ。無謀なことはやめてください、あなたが死んだら僕も死ぬんです」
快復したオーク達が無表情で、倒れているミホス達を串刺しにしようとばかりに剣を振り上げた。
考えている暇は無い。
どうせ、このままだと自分も死ぬんだ。
見返してやる。
死ぬときくらい、聖獣家の誇りを持って。
獏家もそれなりに頑張ったね、と言われるように――。
「ヘリット、あなた手ぶらでしょ。血迷わないでっ」
「離せっ」
ヘリットは獏男をふりきって立ち上がる、そして自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「ぼ、僕は、ヘロヘロ獏じゃないっ」
次の瞬間、彼は大声を出して駆けだした。
「ああ、ま、待ってくださいよ――っ、僕も行きますよお」
白目を剥いて、何かわめき立てながら走ってくる男がいる。
振り上げた剣を止めて、オークの視線が一斉に声の方向に向けられた。
「そいつらに手を出すな、ぼ、僕が相手だ――っ」
ヘリットは訳もわからず夢中で両手を振り回しながら叫ぶ。
悪鬼達が剣を振り上げたまま固まる。
「ば、獏神だ」
「獏だ」
「獏が来た――っ」
その目には今までにはなかった感情が浮かび上がっていた――すなわち底知れぬ恐怖が。
ヘリットの背後には金色の光をまとった大きな獏神が空中に浮かび上がっていた。
ヘリットは夢中でミホスのところに駆け寄った。そして倒れ込むように地面に落ちていた剣を拾い上げる。
「うぉれがあいてどぅあああああっ」
やけくそで叫びながら、彼はへっぴり腰で剣を振り上げた。
「え?」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔を上げると、そこにはただ森が広がっているだけだった。
あれだけいたオーク達は一匹残らず姿を消している。
静けさを取り戻した森には煙が漂い、ただパチパチと木々のはぜる音だけが響いていた。
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