ブレイブマン・イレギュラーズ

@pricke

第1話 勇者召集

まず始めの日にラビィリアスは帝都ギルザリアを火に包み、市民約9万8000人を殺害。その後、伏した皇帝メイヘムの冠を強奪。明けの朝、帝都ギルザリアの防壁から約20キロ圏内に謎の瘴気を蔓延させ、翌日の夜には魔物と呼ばれる変異種が生態系を築き上げた。4日目にして、ギルザリア市民に酷似した魔物が皇国ザレン・王都フレスタット・孤城レアルタリア・聖村ベイカニック・群諸島リーリアスへ宣戦を布告。一晩の緊急会合により、翌日5日に帝都ギルザリアを崩都ギルザリアと命名。六天同盟から崩都ギルザリアを追放し、皇国ザレンらは五天同盟を再結。ガリエル暦1426年11月17日13時47分、宣戦布告を受諾。同刻、差出人であるラビリィアスを崩都ギルザリアの王と認定。こうして、人類史上最短で最も凶悪な王が産まれた。


フレデリック=オズ著書『魔王ラビリィアスについて 上巻』一部抜粋。


「……。」


最低限の質素な部屋。それ以上の感想を抱くことはできなかった。足をつける石畳は砂埃がなければそれで良く、壁に備え付けられた蝋は明かりを灯すことさえできればそれで良く、1枚の紙切れを乗せた机は四足という体裁さえ守っていればそれで良い。そんな思い遣りも技巧もない独房スレスレの構造。ぎこちなく机を囲う面々も同じ感想を抱いているのだろうか。


「……一応、確認なんですけど。」


静寂とも沈黙とも違う、質の悪い居心地の中で、遠慮がちに手が挙がった。


「私たちって、崩都の王様の討伐を任された義勇兵ってやつなんですよね?」


その言葉に首を縦に振る。もっともおずおずと銘を打ってだが。


「その任務の一端として、崩都の王って人が乗っ取った帝都とその周辺状況の確認をしてこなきゃいけないんですよね?王都フレスタットの代表として。」


「……あぁ、そう聞いている。」


一際低い声がその事実を裏付ける。そんな裏付けられた事実がもたらしたのは再びのソレ。


「……。」


「……っ、あー……。」


机を挟んで真正面に立つ男は気まずさから逃げるためなのか、何かを発しようと口を開いては、意味もない言葉を紡いで空気を飲む。


「何かあるのならば、仰ってみては如何でしょうか?」


中性的な声がそんな男の背中をおす。


「あぁ!?……っぁ、その……ははは。」


しかし、押された背中は余りにも小さく、何よりも余計な事をしやがってという表情を隠すことなく男は顔を顰めた。


「……。」


「……。」


ジロリと全員の視線が男にむき、男は不器用にしかめた顔で愛想笑いを浮かべ俯くが、やがて思い切ったように息を吐いて、吸う。


「あ、あぁ!!もういいや!!もう良いよ!言うよ、言ってやるよ!けどな怒んなよ!怒んなよ!?俺だって言いたくて言いたいわけじゃねぇんだからな!」


だんまりが響いたのか、或いは自分を含む視線に耐えきれなくなったか、男はヤケを起こしたように大口を空けて最低限の部屋で絶叫した。


「差別されてますよねぇーー!!亜人差別ゥゥゥゥゥ!!ボクタチが人間じゃないからって明らかに捨て駒にされてますよねぇ!!」


それはどこまで行っても悲痛な叫びだったのだろう。部屋の中で十分すぎるほどに反響する言葉を受けて、皆の顔が青く染まっていくのが目に見えてる。


「言っちゃえば視察して死んでも情報はいるっちゃ入りますからねぇぇ!!本命は絶対にアレでしょ!?クソ王様のクソご子息の方でしょ!!そっちに金割いたものの、形だけの偵察だと同盟にヒビがはいるからなんちゃってで集められた部隊ですよねぇ!!」


絶叫の後に静寂が訪れることはなかった。吐いた息を取り戻すようにぜぇぜぇと男が喘いでいたから。


「ちな辞退ってオケマルなん?」


「ダメバツでしょうね……すでに任命式も済ませてしまったので。」


辞退すれば国賊にでもなるんじゃないですか?と諦めたように女が笑った。


わらわとしては辞退するつもりはない。……扱いに不満がないと言えば嘘になるが。」


と致しましても、辞退するつもりはございません。是は暇ですので。」


室内で一番背が高い者に同調するように、中性的な声が続いた。


「2:2……拒否権はないにしても、お二人はどうですか?」


「レイシスト共にこき使われるのは御免だぜ。」


やっと息を整えたのか、それとも絞り出したのか男は辟易とした様子で反対の意を示す。


は如何でしょうか?」


「……僕は、」


全員の視線が集まるのを感じる。特段ここでどう答えようが、最終的には皆諦めておしまいなのだから適当でいい。心底そう思うが、率直に感想を口にするのなら……


「なんか、逆に倒しちゃっても良いんじゃないかなって。ご子息の顔に泥塗れるし、倒しちゃえば国も粗暴に扱うわけに行かなくなっていい生活できそうだし。」


まぁ、それを餌に釣ってるつもりなのだろうが。


「……ほぅ。」


「……。」


「え、えーとその、とりあえず自己紹介とかします?改めてっていう感じにはなりますけど、一応同僚?になるわけですし。」


口走ったことにより訪れる沈黙を嫌って、口早にまくし立ててしまったが、存外愚策というわけではなかったようだ。


「それな!!っぱ、名前知っとくの大事っしょ!じゃあじゃあウチからでいー?」


明るくはつらつとした様子の女は勢いよく翼を上げる。狭い部屋で上げられたもんで、隣にいた女は鼻先をなぞられてか、身を捩ってくしゃみを繰り出す。


「ウチはぁ、チヨコっていいまーす。種族は鳥人種ハーピーで、北のめっちゃ寒い所から来ましたぁ。職業は狩人かりゅうどでぇ趣味はぁ干し肉を作ることとぉ火薬の配合でぇーす!おねしゃ〜す。」


鳥人種ハーピー

人種と近しい構造を兼ね備えた亜人種。両腕が飛行を目的に発達し翼状に、また腿から足先にかけて鳥と酷似している構造になっていることが特徴。北部と南部に生息域があり、南部には半鳥種バードロイドと呼ばれる頭部が鳥骨格の種族が住む。


「じゃあ、次は私が。私はヘカーテと言います。種族は森人エルフって種族で、森の中で暮らしてました。前職……といいますか、趣味でネクロマンサーをやってまして、それでお金を稼いでました。よろしくお願いします。」


森人種エルフ

自然豊かな地域に生息する希少種。極めて閉鎖的なコミュニティで生活をしており、外界との接触が少ない傾向にある。亜人種の中でもずば抜けて長命であり、老化が遅いことが特徴。長命の原因は自然との超常的な共存が有力視されている。


「次は是でございますね。是はシディと名乗ります。種族は……なんでございましょう?是は身体が蝋であること以外は人間と変わらないので、擬人種ゴーレムに分類される可能性が高いで御座います。是は食事も睡眠も不要でしたので、職や趣味はなくただ放浪していました。以上でございます。」


擬人種ゴーレム

無機物が魔術的、或いは技術的に意志を会得した場合に分類される種族。極めて希少性が高く、多くの場合は高い知性を保たないが稀に人種と同等、或いはそれ以上の知性を有する。また、非常に分類が曖昧なため確実性は低い。


「次は妾だ。名をヒバナと言う。種族は鬼人オーガ族。といってもリーリアスの小島にのみ居を構える種族だ、知っているものは居ないだろう。腕っ節の強さだけが取り柄の種族と覚えてもらって構わない。それから、妾以外の鬼は腕が2本だ。それに加えて、体躯は人間と大差ない。妾は背が高い。」


鬼人種オーガ

郡諸島リーリアスに属する小島パライソに生息する少数民族。独自の生態系と信仰形態が特徴的であり、心身共に強靭な個体が多い。戦や争いをよく好む傾向にあるという俗説が唱えられているが、如何せん情報が少ないため詳細は不明。


「俺の番か。俺ぁ、ルーシフェル。こう見えても天使エンジェル様なのでぇ〜す!」


天使エンジェル

詳細不明。世界を創生した神の側仕えを自称する種族。実際には存在しない種族とされており、生き過ぎた信仰が洗脳状態を招いているとされている。予断だが、関わらないほうがよい3種族のうち、3位、捕食種イーターに次いで2位である。


「……んな目で見んなって。ジョーダン、ジョーダンですよ!俺は無体寄生種ゴース・パラサイト。俗に言うミミックですよミミック。けど、寄生先の奴が天使を自称してたんだからしゃ〜ねぇ〜だろ?それと勘違いされがちなんだけどな、意外と寄生条件はシビアなのよ。無理くり乗っとるとかはねぇから安心してな。」


無体寄生種ゴース・パラサイト

体を持たない寄生種。その実体は極小サイズの虫、精神に巣食う病、精霊、妖怪……詰まるところ詳細不明である。寄生種パラサイトの亜種だと唱えられているが、昆虫と酷似した寄生種とは余りにも実体が不明なため、関係性のない種族であるとも唱えられている。過去多くの学者がその影を追いかけたが、今だ歴史に名を残した者はいない。


「……。」


「……あン?次はお前だぜ?」


「……あっ!腹痛ですか?自己紹介って緊張しますよね。」


「誰でも隠したい出自もある。妾は名前だけ聞ければ構わん。」


「是もヘカーテ、ヒバナに同意であります。是は80年前に配慮を学びました。」


「あー……ごめん。ウチ田舎育ちだから知らない人との接し方よくわかんなくて。変な空気作っちゃったよね?マジ無理しなくていいし!言いたくなったら言う的な?」


皆々の優しい視線が肌に刺さって仕方がない。見た目が様々であれど皆善い心を持っているのだろう。だからこそ、乾いた舌を動かすことはとても苦痛であった。


「……っあの!」


震え出す足を無理やり叩いて、拳を握って声を絞り出す。


「ぼ、僕の名前はローディアス……です。その、馬車を手配して運送とか送迎とかで生計立ててました。趣味は星をみたりご飯を食べることで……」


息を吐いて、吸う。


「その、しゅ、種族は、」


やがて飲んだのは唾か不安か。


「そ、存在者エンティティ……だったりして。」


「「「「「は?」」」」」


存在者エンティティ

関わってはいけない種族1位。そもそも種族であるかすら怪しく、その実態は闇の中。見るな触れるな話すな寄るなそしてなにより関わるな。

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