第10話 二人の夜。〜ソラの場合

◇◇◇

 

 辺りはすっかり暗くなり、今夜この神社で一晩を明かすと決めたユウと私──ソラは、境内にある建物の中で、唯一扉が開いていた倉庫のような小さい納屋で休むことにした。


 夕方のうちに境内の湧き水で身体を洗う、髪も洗った。当然シャンプーもリンスも無いので水だけで。


 長い髪がネックで洗いづらく、しかもパサパサになってしまったけれど、こんな状況だから今は我慢するしかない。


 それとタオルはユウが用意してくれた。あの商人? アライグマさんから何枚か買っておいたらしい。さすがに普段使っているタオルとは違う雑な肌触りだったけど、これは本当に有り難かった。彼の機転に感謝しかない。


 ついでに身につけていた下着も水で洗った。カバンに詰め込んでいた制服はどうしようもなかったけれど、それでも部分的に汚れを落とすことはできたと思う。服のシワはもう諦めている。


 そうそう、ユウに水浴びの間は絶対に覗かないでと釘を指しておいたけど……うん、少し心配だった。彼もあれでエッチなところがあるし……まぁ、男の子だから仕方ないのかな?


 私は、メイクもなし、まだ乾ききっていない髪をヘアゴムで一箇所にまとめ、シスター服(結構気に入っている)はそのままに、下着だけは、例によってアライグマさんから購入したごわごわしたタンクトップもどきと大きなトランクスみたいなものに穿き替え、身支度を一通り済ませてからユウが待つ小屋へと向かった。


 ギイと軋む木の扉を開けると、何故か彼が狭い部屋の中心で座禅を組みながら何かブツブツと言っていた。スマホのライトで照らされたその姿は少し怖い。でも私を見るとすぐ、サササッと部屋の隅っこに行ってしまう姿はとても滑稽で思わず吹き出してしまう。


「ええっと……、あ、そ、そうだソラ、水は冷たくなかった?」

「うん。大丈夫……でもやっぱりシャワーが恋しいかも」

「だ、だよな。そのうち風呂ぐらいなんとかしたいけど…………っ!?」


 話しながら、苦労して水気を切った制服のブラウスやスカート、下着のシワを伸ばし、無造作に大きなカバンの上に並べていると、ユウはそれを見て急に言葉を詰まらせた。私はそこでやっと気づき、即座に洗濯物(特に下着)をカバンに押し込んだ。


(──後でこっそり軒下にでも干してこなくちゃ……ね)



 バッテリー残量が少ないユウのスマホから、若干余裕がある私のスマホにライトをバトンタッチした。それでもその乏しい明かりだけでは暗くて怖い。もしもこの何もない薄汚れた殺風景の部屋に私一人きりだったら、きっと不安と恐怖心で耐えれなかったと思う。


 

 何もない、静かな時間が過ぎた。


 私たちは壁を背にして二人並んで座っている。


 彼は昼間と違い口数が少なくなっていた。多分ここに来て不安になっているのだろう。ここは思い切って私から話しかけるべき? でも一体何を喋れば良いかすぐに思いつかない。


 でも──。


「あ、あのね、ユウ」

「へ? ど、どうかした?」 

「うん……私、そう言えばユウにちゃんとお礼を言ってなかったと、思って──」


 この変な世界に迷い込んで、私はユウに助けてもらってばかりだ。それなのに彼にまともなお礼すら言ってなかった。だからここで口先だけではない、心からの感謝の気持ちをユウに言いたい。


「ユウ、私をここまで助けてくれて感謝しています。本当にありがとう」


 何の前触れもなく、突然私が深々と頭を下げたものだから、ユウは顔を真っ赤にして、思った以上に慌てふためく。


 そういう彼の自分を飾らないところはちょっとだけいいな、と思う。

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