序章壮途編

第一話陽射し





 澄み渡る早朝の空を眺める。そこに広がるは満点の青。そこには雲が悠々と流れている。

 空を泳ぐ雲には不自由というものがない。それらはまるでひとつひとつが自由な旅人の様に、どこにも縛られず、風に身を委ねていた。

 人と同じで、大きな流れの一つの様に、ただただ空を泳いでいるんだ。

 

 そこから覗く様に浮かぶ太陽から、陽射しを浴びる少年は棒立ちをしながら空を眺め、心の奥底から静かな安堵を感じている。


 始まりの朝が来る。


「んっ、ヨイショ。ほっほっほ」


 彼の名前は、ラウル・ラルロルグ。長い間切らずに伸ばしっ放しにした髪を靡かせながら、後ろ髪を両手で持ち、束ねている。

 ヘアゴムで括り、人より少し長く伸びた首を出して息を呑む。彼の心は、かの空の様に澄み渡り、晴れやかだった。

 パッと見は、小柄な子供に見えるその体型。しかし、よく見ると鍛え上げられたその身体。

 Tシャツに浮き出る筋肉が物語っている。屈伸運動をして、深呼吸をする。

 動きには無駄が無く、しなやかである。


「あぁ、いい天気。うまい空気。いい気分やな。今日はいつもより良く動けそうや」

 

「ラウル。準備運動は終わったか?」


 そう言うは、老体の男性。名はムサシ・カゲヤマ。かつて名を馳せた武術家であり、ラウルを鍛え、育てる親代わりでもあった。

 老体ながらに確かに鍛えられた体付きをしており、腕や身体から見える筋肉からは、老体とは思えない体付きをしている事が伺える。武術着を身にまとい、帯をしっかりと締めてラウルの表情を覗き、静かに構える。


「ああ、バッチリや」

「ウイッチもかなり高まってる!」


 ウイッチ……それは力の総称。戦闘の際に使用したり、補ったり、幅を広げる為の力とその術の事である。


「ならかかって来い」


「おし」


 その声を皮切りに、二人のルーティンである朝稽古が始まる。

 ラウルは地を蹴り、走り出す。ラウルの拳が鋭くムサシの顔面に襲い掛かる。しかし、ムサシはそれを軽く受け止め、勢い良くラウルを投げ飛ばしてしまう。


「うわ」


 投げ飛ばされ、地に叩きつけられながらも、ラウルは咄嗟に受け身を取り、地に両手を置き、跳ね起きる流れでムサシへ蹴りを突き出す。

 ムサシは後方に軽く下がりつつそれを避ける。ラウルはそれを追いかける様に裏拳を繰り出す。ムサシはそれを腕で防御し、ラウルの腹を殴る。


「ふぐあっ」


 そのままムサシはラウルの足を、蹴り転げさせ、地に落ちる寸前の背中を蹴り上げる。


 サッと後ろに下がり、ラウルの表情を覗く。


「ガァッ……ハッ……!」


「まだまだじゃの。動きにムラがあり過ぎている。全身を使って闘い、勝利を掴め」


「ハァハァ……!! どうしたらいいんや……」


「答えは自身で見つけろ。すぐ求めるな。考えろ」


 厳しくも、どこか暖かさを感じる言葉をラウルに投げ掛ける。


「ハァハァ……ハァハァ……ハァハァ……」


 肩で息をしながら、嬉しそうに笑う。

 少し闘っただけなのにこの息の荒さ。ダメージ量の問題か。


「ほれ、少し休んだら薪を探して来い。朝飯を食うぞ。その後少ししたら次は棍を使った修行じゃ」


「ハァハァ……ハァハァ……フヒィー……了解」



 少し寝転がって、休んだ後ラウルは近くの森へ入り薪を探しに向かっていた。


「いやぁ、爺ちゃんやっぱ強えなあ」


 そう言いながら、先程の手合わせを思い返し、反芻した。


「……あそこでもう少し反応を……の前に、手数も……。それに、動きも……あー、全部やないか……」


 キョロキョロと辺りを見渡しながら、木々を見て触って行く。


「薪に丁度良い木は……」


 木々を見て触り、丁度良い木を探しているのだ。

 ひとつ、ふたつ、みっつと、複数の木を見て触り、何個目かで丁度良い木を見つける。


「お、これが良いな」


 その木に向かって、気合を込め、拳を握る。握った拳を腰に落とし、拳にチカラを込める。


「つぁーー……! だりゃぁ!」


 木の幹へ向かって拳を突き出す。すると、当てた箇所を中心に、割れ目が入り木が折れ、倒れ始める。


 ドゴォン……!!


 木の茂みが、他の茂みに擦れる様に当たりガサガサと揺れる音がする。

 木の枝に留まっていた小鳥や虫達が、次々と飛び去って行く。


 チュンチュン……。

 バサバサ……!


 倒した木を両腕で持ち上げ、軽く空へ投げる。

 そこに目掛けて、飛び跳ね、高速で拳を無数に突き出し当てて行く。

 握り拳には、チカラを集中させながら。


 すると細切りになり、丁度良い大きさの薪へと変貌を遂げる。

 地に着地し、薪の山をテキトーな数毎に腕に持ち、家の近くまでそれぞれを走って届ける。

 何度か往復した頃には、残り数個程度までになっており、残り全てを手に持ち、走り出そうとしたその瞬間だった。


 遠くの方で、何やら人の声が聞こえたのは。


「キャーーー……!!」


 甲高く、響く声……。音の響き的にそんなに遠くはない。


「方向は……よし東の方やな……」


 その場に、持っていた薪を置き音の方向へと足を動かす。近くにあった木を見て、即座に登り出す。


「ほっ、ほっ、ほっ!」


 枝に乗り、更に上にある枝に向かって飛び跳ねる。

 両腕でしっかりと掴み、グルグルと回転し、要領を乗せて大ジャンプし、遠く離れた木々の枝に飛び移る。


「でぃりゃあ〜!」


 その勢いを乗せたままジャンプを繰り返し、木々を飛び移り、声が聞こえた先へと向かって行く。


「声的に、動物やないな? つーことは……人間ってわけか……? こんなとこに俺ら以外の人間が居るのは珍しいな……」



 声が聞こえたその先に居たのは、三人の若い女性達と、それを取り囲む十人程度は居るであろう男性陣。

 高く聳え立つ木々の上から、高みの見物をしながら、彼らの様子を観察する。


「キャアァアァ……! 離して……!!」


「グヘヘ……こんなとこで女を見つけられるなんてなあ」


 下品に満ちた言葉を女達に浴びせている。


「カシラ! この女共、中々の上玉じゃありませんか?」


「おっほほ、確かにな。なかなかにいいカラダしてんじゃねえか……?」


(……オンナ……? いいカラダ……? 何言ってんや? アイツらは)


 男達の会話を聞きながら、不思議に思いながら女と言われる者たちをよく見てみる。

 それぞれ、髪はそれなりに長い。身体はヒョロヒョロとしていて、細く弱々しい。

 腕は当たり前に薪より細く、薪より簡単に折れそうだ。


(しかし、辺りにいる奴らは屈強なカラダしてんな。パッと見の印象やが、アイツら結構強そう……?)


 辺りを取り囲む男共を見て、何となく強そうな感じがして、何となくワクワクするラウル。

 それもそうだ。彼らは、鍛え上げられた身体付きをしており、それなりの戦闘力を有している。

 しかし、それぞれは剣を有しており、それらを装備して構えている。


「……武器持ってんのか……それに、数もいっぱい居るな……ステゴロで行くのはちと、きびいか? 仕方ないな……」


 枝の先へ行き、丁度良い太さと長さ、頑丈さをした枝を探す。

 幾つかを触り、これだと思った枝を手先に力を込めて手刀の形を取り、枝を切り落とす様にへし折る。

 不要な部分も削ぎ落とし、自身の身長より、少しだけ長いくらいに調整。

  見事に即席の棍を作り出す事に成功する。


「おーし、こんなもんで……おっとあかんあかん。あのオンナってヤツらが殺されてまう。よーし……!」


 地に向かい、飛び落ちる。

 地の先には、女の髪を掴み、顔を覗き、頬を舐める男が居た。


「グヘヘ……! オメーはこの俺が可愛がってやるからよ……! 楽しみにしてろよ……?」


「う……うぅ……」


 一人の女性は苦虫を噛む様な表情で、涙を浮かべ男を睨み付ける。


「あ、おい! その女は俺も狙ってたんだ!」


「早い者勝ちだ、バカヤロー」


 そう言い、ヘラヘラと笑う男の頭に向かって回転しつつ棍を振り翳す。


 ドゴォッッ!!!!


「フゴ……グガ……!?」


 不意打ちをかまして綺麗に頭をカチ割る様にぶん殴る。勿論力加減をして、殺さない程度に。

 即座に棍を構えて周りに居る男共を見る。


「な、なんだ……!? 何者だ!?」


「キサマ……!!」


「…………!!」


「え、え、え……!? な、なにこの子……??」


「お前らこそ何してんねんこんなとこで! 俺はラウル・ラルロルグ! 世界最強を目指すガキや! よっしゃ全員まとめてかかって来い!」


 大きく開く目を輝かせ、男共に対して軽い自己紹介をしながらそう言う。怒ってなどいない。全くの笑顔である。

 これから強いヤツと闘えるかも知れない喜びに震えてさえいる。

 男共からしたら、突如空から降ってきた子供が目の前に現れたのだ。

 そんな子供が、一丁前に棍を構えてコチラを見ている。腹が立って仕方が無いだろう。


「……おいコラ、ガキ……俺の部下を仕留めたツケはデケェぞ……?」


 男達のリーダー格に思える男は、驚きの中に怒りを隠せないでいた。


「お? デカいんは身体だけやないんか!」


「グヌヌ……! 舐めた口吐きやがって!!」


「舐めるか! 不味そうな顔しやがって」


「……このガキ……殺す!」


「殺す……? 人は殺したらあかんのやぞ?」


 ラウルはニヤリと笑い、棍を構える。


 リーダー格の男は、ワナワナと震え上がらせ、持っていた剣を構え、ラウルに斬り掛かる。ラウルは、それを避け、腹へ蹴りを突き出し男を軽く吹っ飛ばす。


「ぐあ」


 背後からの斬り掛かりも綺麗に避けて、旋風を起こす様に激しい回転蹴りを隣に居たもう一人の男へぶつける。


「ンダァ!!」

 

 そのままの流れで棍を振り回して、二、三人まとめて殴り飛ばす。

 

「ガッ」


「ウガッ」

 

 軽くジャンプし、木を蹴り、その勢いを乗せた飛び膝蹴りをかます。


「アガァッ」


 突如左方向から、剣を振り翳す音を聞き取り、即座に棍で跳ね返す。


 カキィイイィインンンッ……!!


「ヌァッ!? な、なんで……! それただの木の棒だろ……!?」


「その鋭利な金属にそのままぶつけると、斬られるか折られるのは分かってるから、折られん流れに任せて跳ね返したんやで」


「どう言う事だよ!」


「えー、やからその金属の鋭利やない方向をぶん殴ったんや」


「なっ、こいつあの一瞬で剣身を殴ったってのか……!?」


「お前ら思ったより強くなかったからそろそろ終わらすで」


「……な」


 瞬時に棍を構え直し、男共の元へ走り、十人を一斉に攻撃しているかの如く華麗かつ迅速に一撃ずつの攻撃をする。

 そのままその一撃に気絶し堕ちた男共を見て、軽く溜息を溢す。


「あーあ、見掛け倒しかよ」

「興奮し過ぎてウイッチ読むの忘れてたわ」

「あー、悪い癖やな」


 ぐーぎゅるる……!


 大きく鳴る腹の虫を聞き、力が抜ける。


「腹減った……」


 そう呟きながら、家の方向へ振り向かう。

 すると、女三人組に声をかけられる。


「あ、あの……」


「んあ? あぁ、そういや忘れてた。悪い悪い」


 彼女らの顔をじっくりと見ながら、観察をする。如何せんラウルは、この村に生きる女以外の女を見るのが産まれて初めての事であった。


 一人は、直毛で背が高め。綺麗な顔立ちをしており、一般的に見たら美人と囃されるであろう容姿をしている。スタイルも良い。

 怯えた表情が、いつしかラウルという小柄な子供に対する驚愕の表情になっていた。


 もう一人は、襟足辺りで髪を束ねている。一人目と比べたら、小柄である。胸も控えめである。

 もしかしたらラウルと歳が近いのかもしれない。

 ラウルの顔を見て、ニコニコと笑っている。

 どこか悪い気はしない。


 最後の一人は、ツンとした表情をしており、髪を下ろしている。すこしパーマ掛かっているのか。どこかオシャレさを感じる髪型をしている。

 胸は大きく、少し筋肉質で、健康的な体格をしている。

 愛嬌は無いが、悪いヤツでは無さそうだ。


 ラウルは腕を組み、なにか考え事をし始める。


「なあ」


 途端にラウルは女性陣に声を掛ける。


「は、はい。あ、あの……まずは……ありがとうございます……」


「助けてくれてありがと!」


「……ありがとう……」


「いや、それは闘いたくてやっただけやから気にせんでええんやけど……」


「た、闘いたくて……?」


「生身の人間と闘うのなんか、爺ちゃん以外初めてやからどんなもんかワクワクしたんやけど。あいつら弱かったなあ」


「よ、弱い……? あいつら盗賊でしょ……? それなり以上には強いはず……?」


 もう一人がそう言う。


「そうなん?」


「……少なくとも私ら三人だと太刀打ち出来ない」

「数も十人程度は居た。私でも数人とやり合ってる間に他の数人にやられる事は想定出来る」


「まぁ、お前ら弱っちいもんな」


「この子供……口悪い……」


「口悪い?? 口に良い悪いとかあるんけ? ……いやそんな事より。あいつらの会話聞いてて、お前らがいいカラダしてるって言ってたんや」


「な、子供と言えどやはり男……!?」


「や、優しくしてね……?」


「ケダモノめ……!」


 各々斜め方向にラウルを睨んだり、見たりしながらラウルの表情を覗く。


「なぁ、お前ら旨いんか?」


 輝かしい笑顔に垂れた涎。一緒に鳴る腹の虫。

 どうやら「いいカラダ」という単語に対して、この女達を食えるのかと勘違いし、受け取っていたらしい。


「……え、う、うまい……?」


「なにが?」


「何の事だ……?」


「ラウル」


 後方から声がする。声の主は、ムサシであった。


「あ、爺ちゃん」


「何をしておる?」



 女性三人組を連れ、ラウルはムサシと共に家へと戻った。


「朝飯の時間がズレるじゃろ」


「いやぁ、なんか強そうなヤツが居ったから……弱かったけど」


「ラウル、見聞のウイッチを怠ったな?」


「なはは……反省します……」


 苦笑いするラウルに、微笑し頭を撫でる。


「これからは常に意識する様にしろ」

「それとこんな山に人が来るなんて滅多に無いはず。お主らはどこから来た?」


 ムサシにそう問われ、背が高い女性は声を出す。


「あ、私達はヤルロー地方から来ました……」


「ヤルロー?」


「あ、申し遅れました。私はヤルロー地方のリャカコーン領を治める貴族の娘、エルラ・クォーズと申します」


「クォーズ……?」

「……イクル人か」


「はい。そうです。そしてこの二人は、私の妹。アルラとカルラです」


「アルラです! よろしくお願いします!」


 元気いっぱいに挨拶をするもう一人の小柄な女の子。

 その一切の曇りのない瞳には輝かしい光が感じられる。


「……カルラ……よろしく」


 覇気の無い声でそう答えるは、最後の一人の女性。やはりどこかツンとしている。


「……イクル人が何も無いこの山に何の用だ」


「なあ、爺ちゃん。イクルとかやららーとか何の事を話してん?」


「ヤルロー地方のリャカコーン領を治めるイクル人じゃ。この山の下の世界のずっと北東に行った先にある場所に住んでいる人間達の事じゃ」


「……ほ、ほう……? 村の下……? 世界……?」


「今すぐ理解しろとは言わん。黙って聞いていなさい」


「……へ、へい」


「じ、実は今……」


 エルラ、アルラ、カルラはの三姉妹は、ヤルロー地方のリャカコーン領を治めるイクル人である。

 しかし彼女らは、イクル人の中でも、イクルの人々を統率する貴族の娘達であったのだ。

 そしてエルラは事の発端を静かに語り出す。リャカコーンの地で現在紛争が起こっている事を。

 リャカコーンという地は元来美しい緑が広がるグリーンフラワーワールドと呼ばれる観光地として、世間に知られている地である。

 木々に野原に花畑。イクル人はそれらを平穏に、育て、維持する事を生き甲斐にしている種族としても有名である。


 そんな平和そのものである地で、今現在紛争が行われている。原因は、一言で言うとグリーンフラワーワールドの強奪。


「……私達は穏和でおとなしい種族です。闘いは苦手で……」

「ですが一応武器を持って、戦闘には挑んではいます。しかしいつまで持つか……」


「恐らく敵は一気に攻め込まずジリジリと攻め込まれているであろうから、いつかはジリ貧にはなるだろうな」


 エルラの言葉から、状況を分析したムサシは、現状からの近い未来を簡単に予測してしまう。


「……はい」


 拳を強く握り、唇を強く噛む。彼女の表情からは、グリーンフラワーワールドを奪われるかも知れない未来より、その前に奪われた平穏に悔しさが感じられる。


「口振り的に攻め込んできている敵が分かった。ブラックグリーン軍団だな?」


「……そ、そうです!」


「フン。やつらめ……性懲りも無く……」


 ブラックグリーン軍団。世界最悪の悪行軍団であり、世界征服を狙う軍団でもある。

 彼らに世も手を焼いている模様。各地に存在するポリーズと呼ばれる警察隊も手を出せない程に軍事力を拡大している。

 彼らの狙いは、明らかにグリーンフラワーワールドを手に入れる事である。その事は誰に聞かずとも明白かつ明確な事である。

 その地を手に入れ、観光地として軍の資金稼ぎを目論んでいるのか。はたまた別に狙いがあるのか。

 何にしても、彼らの行なっている行いは、悪行そのものである。


「なぁ、強いん? そいつら」


 今まで黙って聴いていたラウルは、輝かしくニコニコとした笑顔の中に、隠しきれない興奮の中、ムサシに尋ねる。


「……強いかどうかで言えば強かろうな」


「え! マジで!? よーし闘いに行こうや!」


「……いや。待て」


 目を閉じ、しばし集中する。

 北東地域に向けて、意識を飛ばす。

 しばらくして、目を開けたムサシは口を開く。


「……読み難い……がデカいな。ここまでデカくなってるとは思わなんだ」


「デカくなってるって、強くなってるって事?」


「あぁ。しかし質が良いわけでは無さそうだ。量を束ねているだけの様だ。つまりは量で圧倒する戦略を取っている様だ」

「……よし、ラウル。修行内容を変更する。やつらを懲らしめに行くぞ」


「お! イェーイ! やったー! ウォー!」


 ラウルは両腕を上げて、歓喜の声を上げる。


「……こ、こいつら……本当に大丈夫なのか……?」


 流れる様に会話をする彼らに割って入る隙が無かったカルラは、そう口を開き、不安と心配の気持ちを吐露する。


「あ、でもここからリャカコーン領まで歩いて半年以上は掛かりますよ!?」


 アルラは、焦りを催しながら言葉尻を強めてそう言う。


「お前ら何を使ってここまで来たんじゃ……」


「わ、私達はリャカコーン近くを馬車を利用して逃げようとしたいたのですが……」

「道中襲われたりして、荷馬車は壊れ、馬は逃げ……」

「……不思議な場所に到着し、彷徨っていたら、気がついたらここに……」


「……不思議な場所……?」


 彼女の言葉に引っ掛かりを感じるムサシ。


(もしや転送の……?)


「なーに。俺と爺ちゃんなら、走って行きゃ、そこまで大した時間も掛からずに辿り着くやろ?」


「儂とラウルだけならな。しかしこやつらも連れて行かねばならん。ここで待たせる訳にもいくまい」

「仕方ない。下山した所に村がある。そこで馬を借りて向かおう」


「お! 下山すんの?! 初めてや! 楽しみやなあ。馬は前に迷い込んで怪我した馬を馬刺しにして食って以来で、乗るのは初めてや! ウー、ワクワクして来たぁ!」


 ラウルはそう言いながら再び両腕を天に翳し、喜びを表現する。


「……愉快な子」


 その様子を見るカルラは、優しく微笑んだ。

 そうして始まる物語。彼らの旅立ちが、後に世界を揺るがす大きな闘いの幕開けになるとは、この時はまだ誰も知らなかった……。

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