来たぜ!王国!!
濃い霧の中を足元のレンガ道を頼りに進む。
カチャカチャカチャ。
前を歩く兵士の甲冑が音を鳴らす。
「なあ、こっちで合ってるのか?彼これ三十分は歩いたぞ。」
「はい!もうすぐ出れるはずです!」
まだ会って間もないが、彼は根拠のない元気な返事をするタイプだと思う。なんでもかんでもイエスと言ってしまう損な性格だ。
かつての自分を思い浮かべながらそんな事を考えていると、目の前に森には分不相応な赤色が見えた。近付くにつれ、形がハッキリしている。鳥居だ。神社でよく見る鳥居である。ストーンヘンジと鳥居、少々混ぜすぎな気もするが異世界なのでそれが普通なのだろう。
人二人分の小さな鳥居を抜けると、その刹那に霧が消え、草原が視界に広がる。
「これは……」
日本では見ることのできない広大な自然の景色がそこにはあった。
「……本当に異世界なんだな。」
私がファンタジーに圧倒されていると若い兵士がそそくさと歩き、手招きをする。
「さあ、あちらに馬車を停めてあります。王城へと急ぎましょう!」
馬車に乗っている間に色々と話が聞けた。
まず、勇者とは魔王と呼ばれる災厄に勝る力を持った存在であること。勇者は魔王が生まれると召喚されるということ。そして、この世界には多種多様な人種がおり、主に我々の世界で云う人間のゼクス、美人長命なエルフ、剛腕なドワーフ、様々な獣の特徴を有した獣人に、体内に魔石を有した亜人とまあ、よくある異世界だと知った。
それで私を呼んだのはテストリア王国というゼクスの国らしい。ゼクスってなんだ?言いづらいな。
あと魔王についてだが、どうやらいまいち分かっていないらしい。まあなんとかなるだろう。勇者なのだから。
そう楽観視していた私を殴りたい。
そこは王座の間。髭面の険しい顔をしたジジイが権力を見せつけるかのように大きな椅子へと腰を掛けていた。
「貴殿が勇者であるか。我が名はテストリア・アーク・シュワルツ・アルコーン三世である。名を聞こう。」
「ええええ、えっと
私は緊張しながらそう答えた。仕方ないだろう。何十人もの貴族のような恰好をした人達に囲まれているのだから。こんなに人に注目されたのは小学校の演劇以来だ。
「いきなりのことですまないが許してほしい。世界の命運がかかっておるのだ。」
「命運?」
彼は事の発端を教えてくれた。
それは一週間前。国お抱えの大予言者が世界に災いが降りかかると予言した。そして、それを鎮められる勇者は一週間後のどこか神聖な場に召喚されると。それを知ったアルコーン三世は世界各地に兵士を送り勇者を探したらしい。
なるほど、だから兵士があの若い彼一人だったのか。
さて、長く退屈な謁見を終えると私は訓練所へと向かった。異世界モノの定番なら訓練中に姫様と会って……ムフフフ。そういえば謁見では姿を見なかったな。大抵は王の隣にいるイメージだが、いたのは今、私を訓練所へ案内してくれている面の良い長髪の騎士団長だった。
「この先が訓練所です。少々ここでお待ちください。まさか召喚されてすぐに訓練なさるなんて思ってもいなかったもので、新兵たちが訓練中なんです。いきなり勇者様が来ると驚きますので。」
彼にそう言われ、私は廊下で待った。西洋風の柱、見慣れない装飾に目を奪われていると背に気配を感じる。
「みつけた。」
それはあの時の少女であった。
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