【正式連載化】RE:i 2 私立あかつき学園 絆のスパイと夏 The summer Of Shadow

サブサン

プロローグ 夏の迷い

 2018年 8月初旬――北関東、郡真県あかつき市――10:00。

 北南と東は、霧島連峰に囲まれた自然豊かな風景。

 北から西南へ、霧島川が静かに流れている。

 その流れを遮るように、解体途中の橋が立っていた。


 ――そして仮架橋。


 ――ドドドドドドド!


 作業員や工事車両がひっきりなしに出入りし、作業音を轟かせていた。


 ――霧島橋再建工事――


 その様な告知看板が、両対岸に置かれていた。

 

 橋は学園への唯一の出入り口――。川の東側にある学園――それが私立あかつき学園である。

 学内には喧騒がこだまし、生徒達は様々な青春を謳歌している。

 

 ――夏休み!部活終わったら遊ぼ!

 

 ――校舎の完成は来年だってさ。まさか、学園がテロ組織の標的になって壊されるなんて……。

 

 ――あれから3か月か……。仮校舎は冷房効かないよな……。


 ――麻倉さん。先月から休学で大阪に行ったって……。大丈夫かな?


 そのあかつき学園の夏――。


 生徒たちの人数は少ないが、夏の部活動として半数の生徒達が練習に励んでいた。


 ――ブロロロロロ!


 仮架橋を一台の青いバイクが疾走する。


 ――ギラッ!

 

 ふと、霧島川から陽光がきらめいた。 

 水面で反射した光が、車体にプリントされたロゴを一瞬浮かび上がらせる。

 

 ――HAMASAKI浜崎重工SHINOBI――250R。

 

 ライダーである小柄な女子は、青いヘルメットと学生服を身にまとい、黒いリュックを背負っていた。

 バイクが仮架橋を通過し、校門前に向かう。

 

 校門前には看板が立て掛けられている。

 ――私立あかつき学園。仮校舎。


 校門の向こうには。簡易なプレハブの仮校舎。

 少し南には、フェンスで囲まれた建築中の校舎が見えた。



 ――キッ!



 ブレーキ音が軽く響く。

 そして、バイクが校門前で停止した。

 ライダー女子がヘルメットをおもむろに脱ぐ。

「ふうっ……間に合った!」

 彼女は碧唯あおいひなた。高校2年生。

 一人は明るい茶髪のショートカット。

 身長は150cmと小柄だ。

 ひなたはキーを右手で素早く回した。


 ――ギュルルルルル……。

 

 そして、エンジン音が止まる。

 ひなたは首を軽く振り、屈託のない笑顔を校門に向けた。

「お待たせーっ!」

 

 その先には――。

 女子と男子。校門前に二人の生徒が並んで立っている。


 男子生徒は、寺本亮てらもと りょう

 身長178センチ。

 少し癖のあるこげ茶の短髪に、少し細身で引き締まった身体。

 彼が女子生徒に声をかける。

「来たな!ひなた、またギリギリだな――」


 そして、女子生徒がうなづく。

 彼女は土師京子はぜ きょうこ

 身長158センチ。

 黒髪のロングヘアに、白いヘアピンをつけている。

 頭頂部でシニヨンにしているが、後ろ髪も長い。

 だが、前髪はしっかりと上げられ、額が露出していた。

「だよね……」

 京子の声は小さく――静かだった。

 返事の間に、わずかな“間”が混じっていた。


 ひなたが屈託のない笑顔で言う。

「亮はサッカー部終わり?」

「ああ――腹が減ったぜ。」

 そして、ひなたが続けて笑顔のまま京子に視線を向ける。

「京子は?練習一人で行かせてゴメンね。家の用事で……」

 京子が虚ろな目をひなたに向けた。

「……水泳部――辞めてきた……」


 ひなたは目を見開き、驚きの顔を見せる。

「えっ?!どうして?」

 亮も驚きを隠せない。

「京子ちゃん?」


 京子は目を伏せ――無為な表情で地に視線を落とした。

「……」

 すると、彼女が小さくつぶやく。

「話があるの――少しね――」


 亮が京子に視線を向ける。

「俺もいいかな?」

「――」

 京子は黙ってうなづきを漏らす。


 ひなたは悲し気な表情を京子に向けた。

「聞かせて……」

「じゃあ……歩きながらでも……いいかな?」

「ええ……」


 三人は仮架橋を渡り始める。

 亮と京子はゆっくりと歩き――ひなたはバイクを押しながら京子に視線を向けていた。

 背後であかつき学園が少しずつ遠ざかっていった。


 ひなたの視界に――京子の虚ろな表情が写る。

 周囲の景色が白黒に反転し、京子の姿だけが色を発していた。

 その色は、美しくない色だった。

 まるで“誰かの感情”が上書きされたような、濁った赤。


 ひなたは、その違和感を胸の奥で拾った。


 ――共感力――。


(歩幅が乱れてる――それにあの表情……見た事ないわ)

 彼女の鋭い感性が、何かの予感を感じさせていた。

(京子――何があったの?)

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