1-4 Parkって、昔はParcだったらしい②
事故でも起きたのだろうか。
アルバイト中だった
まあ、殺しても死にそうにないから、きっと平気だろう。
「何かあったのかな?」
妹は不安そうな顔でそう言う。
「これって……」
この爆発音で、ある事が頭によぎる。ミレンナ―の仕業だろうか。
「胡桃沢どうすんの?」
「行くしか……」
「……俺も、柚葉避難出来たら、行くから」
妹の安全が第一だが、胡桃沢を置いて先に帰る訳にはいかないだろう。
「お兄ちゃん……」
心配そうな顔で、妹は少し震えている。
「大丈夫だから。じゃあ、またね。」
胡桃沢は柚葉を安心させるようにそう言い、走り去っていった。
「とりあえず、避難するか」
安全そうな場所へ……、一旦園の外まで行けば大丈夫だろう。
園の外に着いた時には、たくさんの人で溢れていた。
「よー、大丈夫だったか?」
そこには、ももっく……、下半身だけ着ぐるみの大和が立っていた。
「まあ、なんとか…… ごめん、妹頼んでいいか」
「どうかしたのか」
先ほどまでのおちゃらけた様子とは打って変わり、大和は真剣な表情で言う。
「胡桃沢がまだ園の中にいるんだ。」
「了解。まかせとけ」
信頼できる友人に妹を託し、そうして俺は再び園の中へ向かっていった。
黒い煙が立ち上る方へ急ぐ。
少し走った先で音が聞こえてくる。
視線の先に魔法少女姿の胡桃沢が、ミレンナ―と思われる怪物と戦っていた。
小学校で戦っていたものとは異なり、その怪物は両手に鋭い針を携えた、人を模したかのような姿だった。
「来ないで!!」
胡桃沢の叫び声が聞こえた……と同時に、まだ遠くにいたはずの怪物が目の前に立っていた。
数十メートル先にいたはずの怪物の右腕が、自分の胸を貫くように迫る……
その瞬間――ポケットが光った。
ポケットの中の魔法の手鏡が、庇うように割って入り、怪物の一撃を弾き返す。
その一瞬の隙を突いて、胡桃沢はミレンナーを葬り去った。
「ごめん……」
ミレンナ―の動きに反応できなかった。
何もできず、邪魔をしてしまっただけだった。
「いや、こちらこそごめんなさい。ミレンナ―が思ったより強くて、……助かったわ」
汗を流し息を上げながら、胡桃沢はそう言う。
「まだ、向こうに逃げ遅れた人いるみたいだから急がないと」
「……分かった」
二人で、煙が上り続けている場所へ向かった。
爆心地へ近づくにつれ、悲鳴が聞こえてくる。
視界の先では、アトラクションの一部が無残に崩れ落ち、裂けた構造材の隙間から火の手が噴き上がっていた。
避難はまだ終わっていない。逃げ遅れた人々が、助けを求めて叫んでいた。
そして、その場に胡桃沢とは別の……もう一人の"魔法少女"が立っていた。
「そこで何してるの!?」
「…………」
返事はない。
その魔法少女は一言も発することはなく、こちらを睨みつけていた。
年齢は同い年くらいだろうか。
胡桃沢がピンク色の衣装の魔法少女であるのに対して、彼女は黒い衣装に身を包んでいる。
身長は胡桃沢よりも少し高く、顔立ちも相まってモデルのような雰囲気を感じさせた。
そして彼女もまた、胡桃沢と同じように、ランランによく似たパートナーを傍らに従え、そこに立っていた。
『彼女が、この騒動の原因かもしれない。
唯が彼女を引き留めているあいだに、君は逃げ遅れている人々の救助に専念したほうがいいだろう。』
ランランがそう告げる間に、黒い魔法少女は胡桃沢へ襲い掛かってきた。
とりあえず、俺はランランの指示に従うしかなかった……。
だが、瓦礫に挟まれて動けない人を救う方法が思い浮かばなかった。
『それを使え』
ランランがそう言うと、魔法の手鏡から、半透明の
「これって……」
『その程度の瓦礫なら、それで除去できるだろう』
ランランの言う通り、覆いかぶさっている瓦礫をこれで少しずつ削るように除去し、人を助けることができた。
「ありがとうございます……」
そうして、一通り逃げ遅れた人たちを避難させる事ができたが、胡桃沢のほうは、どうなっているだろうか……。
【胡桃沢Side】
初めて見る自分以外の魔法少女。
「はあ、はぁ……」
突然襲われた後、防戦一方だった。
体が思うように動かない。こんなはずじゃ……
「Ivy」
黒い魔法少女がつぶやく。
彼女から放たれた黒い光が蛇のように這いずり、四肢を削る。
血が手足を伝って落ちていく……。
耐えられない程の痛みではないが、時間の問題だった。
「Fire――!!」
ステッキから光を放つ。
私の光は宇宙に溶けていくように、彼女の光に遮られ、相手まで届くことはなかった。
もう勝てる気がしなかった……。
なんで私がこんな目にあっているのだろうか。
心が砕けそうになる……。
***
胡桃沢が戦っていた場所へ急いで戻ると、そこには無傷の相手を前に、魔法少女の衣装は破れ欠け、手足から血を流す胡桃沢の姿があった。
致命傷ではなさそうだが、立っているのがやっとだと一目で分かるほど消耗している様子だった。
魔法の手鏡から再度、剣を引き出し構えて、黒い魔法少女の前に立つ。
少しでも時間を稼いで、何か反撃の糸口を探り当てようとしたが……。
「はあ……」
黒い魔法少女は小さくため息をつき、俺たちに一瞥をくれると、そのまま去っていった。
……とりあえず、命は助かったのだろうか。
なぜ彼女が去って行ったのかは分からなかった。
安心したのも束の間、胡桃沢はその場で倒れて、変身が解け元の服装に戻っていた。
「おい!!」
「大丈夫……少し、疲れただけだから……」
彼女はいつもと変わらない冷静な声でそう言ったが、手足の痛々しい傷口からは、血がにじみ出続けていた。
「病院……、救急車呼ぶから」
「大丈夫……。救護室でいい。」
病院に行きたくない理由でもあるのだろうか。
深く追及する余裕はなかった。俺は胡桃沢に肩を貸しそのまま救護室へと急いだ。
救護室には誰も居なかったが、救急箱が置いてあり、そこには包帯や消毒液などは一通りそろっているようだった。
胡桃沢は、自分で手当てを始めた。
その手つきに迷いはなく、手慣れているように見える。
あまり、じろじろ見るものではないだろう……。視線を逸らす。
「大丈夫か?」
「……」
返事はない。
「いつも、こんな感じなのか?」
「他の魔法少女に会ったの初めてだから……」
気丈に見えるが、彼女の目は涙を堪えているように見えた。
楽しく過ごしていた日常が一変した。
彼女はこれまで、ずっと一人でこんな思いをしてきたのだろうか。
「ミレンナ―倒すのって、夜中やってんの?」
「夜中が多いけど。何?」
「……手伝うよ。ミレンナ―倒すの」
「……役に立たないでしょ」
「稽古つけてよ。ちょっとは頑張るから」
今日は、胡桃沢が戦うのを見守るしかなかった。
彼女が魔法少女になった理由はともかく、このまま役立たずで終わりたくない。そして女の子が傷つくのをみたくなかった。
「……ありがとう。」
数年ぶりに会った彼女は、昔の面影もなく、どこか人を寄せつけない雰囲気をまとっていたが、今だけは昔の彼女に出会えた気がした。
「とりあえず、なんか羽織れそうなもの持ってくるよ」
今の状態のまま、帰るのは酷だろう。
お土産屋コーナーにでも行けば、上着ぐらいあるだろうと思い、救護室をあとにした。
売り場には、この園のマスコット・ももっくがプリントされた上着が並んでいた。
店員は避難したのだろうか、一人もいなかったが、とりあえず代金をレジに置き、胡桃沢のもとへ戻った。
彼女に上着を渡し、そして妹達と合流した。
帰り道、電車に揺られながら家路につく。
大和はまだ安否確認などで手が離せず、帰れないらしい。今は胡桃沢と妹と、三人きりだ。
辺りはすでに日が沈み、薄暗くなっていた。
胡桃沢と妹は疲れ果てたのだろう。二人は寄りかかって眠っていた。
車内には人影もなく、聞こえてくるのは電車の走行音だけ。
自分も疲れていたのだろう。
電車の揺れが揺り籠のように眠気を誘い、瞼はゆっくりと閉じていく。
そして意識は、夢の中へと落ちていった。
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