騙された魔法少女が騙そうとしてくる件
苦瓜
1-1 思い出
春の温かな日差しが、シルクのようにやさしく僕らを包んでいた。
こんな陽気の中で昼寝でもしたら、どれほど気持ちよく、幸せな気分になれるだろう。
普段なら、きっとそんなことを考えていたはずだった。
けれど今日に限っては、そんな気分にはなれなかった。
満開の桜の花びらが、静かに舞い落ちるその中で、ひとりの女の子が泣いていた。
「……行きたくない」
少女は僕にしがみつき、声を押し殺して泣いている。
その小さな手を引いて、この場から連れ去ることができたなら……
どんなによかっただろう。
「……唯ちゃん、絶対に連絡するから」
けれど、海外へ行ってしまう彼女を、まだ八歳の僕にはどうすることもできなかった。
「これ、僕のたからもの」
「……大切にする」
僕にできたのは、それだけだった。
一緒に遊園地へ行ったとき、お母さんに買ってもらったその遊園地のマスコットの小さなぬいぐるみ。
それを彼女に渡すことくらいしか、できなかった。
女の子は、その宝物を大切そうに胸に抱きしめた。
「絶対、私のこと忘れないでね」
「うん……。唯ちゃんに笑ってもらえるように、世界一のお笑い芸人になるから」
最後に、彼女の泣いた顔を見たまま別れるのは嫌だった。
少しでも笑ってほしくて、とっさに思いついた言葉を口にしてしまった。
「じゃあ……世界一になったら、結婚してあげる」
「……うん」
彼女の瞳にはまだ涙が浮かんでいた。
それでも確かに、やさしい笑顔を向けてくれていた。
そうして僕たちは約束を交わし、
女の子は桜の舞う中、父親に手を引かれながら、僕の前から旅立っていった。
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