【ラスボス全員口説くまで終われない異世界転生】本編開始100年前に転生した。愛すべき主人公の為、今のうちに世界滅亡フラグを壊してあげよう。

不明夜

第1話 初手魔王を口説きに行くとして

 自分の不注意からトラックに轢かれ、吹っ飛んで、ガードレールを飛び越え五回転。その後の記憶はあまりないけど、まあ間違いなく死んだねアレは。

 ……トラックの運転手には悪い事をしたな、と思う。


 そんな訳で俺、にのまえ秀人ひでとは死んで。

 さも当たり前のように、第二の人生が始まってしまった────


「今日の十戦はこれで終わり。よく懲りないわね、貴方……さ、帰った帰った」


 ────というのが、今から約一年前の話である。


「では、また明日。……ところでー。回復魔法なんてものを使って頂く事は可能でしょうか!? 今日も今日とて情け容赦無く両足が砕かれてるんだよね俺! どう帰れと言うのでしょうか!」


 慣れてしまった足の痛みに耐え、体感気温マイナス二十度の雪山で倒れる俺。

 そんな哀れな生物を外気温よりも冷たい目で見下すのは、の白髪美少女。黒いボロ布を何枚も羽織り、二メートルにも迫る巨大な大剣を背負っている。……つい先程、俺の足を砕いた凶器だ。

 雪よりも白い肌、蒼い瞳、黒く太い山羊の角、どれも見慣れてしまったなあ。

 そして、どれだけ見慣れてもカワイイ。ありがとう異世界美少女。


「……は~~~。仕方ないわね」


「助かります、ラト師匠。いやあ、これで通算何連敗なんですかね、俺」


「2840回。……まだ師匠じゃないわよ、口を慎みなさい。そもそも、私に一撃当てたら弟子入りさせてあげるって約束でしょ。まだ駄目よ、まだね」


 やっぱり甘いんだよなあ、この人。原作じゃラスボスとして堂々と世界を滅ぼしてたのに。ここから百年で何があったんだか。

 ラトによる回復を受け、武器代わりの木の棒を、杖代わりにして立ち上がる。

 こっちの方が正しい使い方かもしれないな。


 ────さて。少しばかり語ろうか。

 この世界について。この一年、俺が何をしてきたかについて。


 ◇


 所謂、ゲーム世界への転生。これで七割がた説明できる。


 俺ことにのまえ秀人ひでとは約一年前、前世で数万時間は遊んだMMOオンラインゲーム『シナスタジア・オンライン』の世界に転生した。

 ジャンルはアクションRPG。

 オンラインを名乗っているけど、皆で集まってワイワイ遊ぶってよりは、数ヶ月周期で更新されるメインストーリーをソロで楽しむゲーム。

 ちなみに。俺が死ぬ数日後に十周年で、バージョン10へと突入する筈だった。

 クソ、死ぬ程楽しみにしてたのに、まさか死んでしまうとは。

 

 話を戻そう。

 今世における俺の身分は平民、出身地は北のタクティル帝国。

 転生時点での年齢は十五歳で、ちょうど成人した直後。いやあまさか、成人式の最中に転生し、テンパって大観衆の中コケるとは思わなんだ。


 でまあ、問題は現在の年代で。この世界はシナスタジア暦によって管理されていて、これは現実の暦グレゴリオ暦とほぼ変わらないんだが……

 『シナスタジア・オンライン』本編はシナスタジア暦2000年に開始する。

 

 なのに、現在は1901年だ。本編の約100年前、という事になる。


 ────俺、本編開始前に寿命で死ぬやんけ!!!!!!!!!!


 気が付いた俺は実家で叫んだ。母には「ついに気が狂ったのね……」と言われ、実家から放り出された。どうやら今世の俺は随分とヤンチャ坊主だったらしい。


 実家からは勘当、コネ無しカネ無し今世の記憶無し。

 唯一あるのは原作知識、でも百年前じゃ七割がた使えない。

 それでも、やるべきことだけはハッキリと分かっていた。


 


 何を隠そう、俺の推しは主人公(仮)ちゃん。自分のアバターなので当然金髪ツインテ美少女なのだが、彼女は哀れにも現実時間で十年以上、作中時間だと訳あって数千年以上の苦難の旅路を歩むことになる。

 なんて可哀想なんだ。

 俺が救わねばならない。


 だから、世界滅亡フラグを全部壊してあげようと思う。


 バージョン1。混沌の魔王ラトによる世界征服未遂。

 バージョン2。かつて封印された魔神エイルによる世界水没未遂。

 バージョン3。西の大国ビジョンによる世界を巻き込んだ自殺未遂。

 ちなみに、全部主人公が一人で何とかした。流石チート系主人公。

 

 ……面倒だから言及はここまでにしておくけど、この手の世界滅亡フラグは俺が知ってる限り残り6個。そこにプラスして、まだ見ぬバージョン10がある。

 毎バージョン新しい厄ネタが世界へ投下されるわんこ滅亡形式、いざ転生するってなると実に最悪だ。

 本編開始時には既に全部手遅れで、導火線に火の付いた爆弾が並んでいる状態だったけど、百年前の今ならばまだ何とかなる。


 そして、今。

 俺は世界を救う第一歩として、混沌の魔王ラトを口説きに来ている。

 ラトの闇堕ちは、設定資料集Part1によると1905年。雪山に籠もり一人で修行していたラト、そんな彼女が生涯で唯一とった弟子が……ある戦いにより死んだせいで起こったらしい。

 

 悪いな設定資料集にも名前のない弟子よ、俺が先にラトを口説き、面倒な兄弟子ムーブをしながらお前のことを守ってやる!!!


 と、思い立って山を登り。


 ◇


「……寒い。死ぬ、やばい、死ぬ!!!」


 凍死しかけて。

 いやあ、たまたま薬草の採取スポットを見付けて助かったよ。


 ◇


「あァッスノーウルフ!!!『性能開示ステータスオープン』……レベル35!? 死ぬ、俺レベル3!!!!!」


 普通にモンスターに殺されかけて。

 忘れていたけど、この山ってバージョン1じゃ高難易度マップだった。

 

 ◇


「よう、やく、見付けた……俺を弟子にしてください!」


「誰?」


 一ヶ月もの間、薬草を生で口に詰め込みながら、弱ったモンスターをぶん殴ってランナウェイ全力で大逃亡の日々。

 山から降りても行く場所はないし、ドロップアイテムの肉は生でも美味しいし、隠しパッシヴの【環境耐性:氷】も勝手に手に入ったけど、それでも過酷な雪山生活。

 

 ……それがようやく終わるかと思ったのに、普通にフラれて振り出しに戻る。


 その後は毎日ラトを追いかけ回し、雪山でジャンピング土下座を続けていたら、弟子にする条件を出してくれて今に至る。


 挑戦回数は一日十回。もし一発でも攻撃を当てたら、弟子にする。


 なんて分かりやすい。終わったらちゃんと回復してくれるオマケ付き。

 これなら数日で弟子になれますわガハハ、混沌の魔王ラトなんてウィークリーミッションで再戦して十秒で殺ってる相手だしな、と思っていた過去の自分を殴りたい。

 

 ◇


「……俺も強くなってきたんだけどなあ。差、ぜんっぜん埋まらねえや」


 何処かへ去るラトの背中を注視して、性能ステータス開示オープンする。

 眼前に現れるのは見慣れた黒のウィンドウ。

 過去、ゲームで使えたシステムのうちの幾つかは、魔法として扱えるのだ。


◇────────────────◇

【求道者】ラト レベル 50

[メインクラス]邪剣士 [サブクラス]なし

体力 100000/100000

精神 9900/10000


筋力 980  俊敏 2300

耐久 400  魔力 1500

信仰 000  幸運 1400  


[大剣]魔剣ダーレス・不成ならず+100

[服]ボロ布

[アクセサリ]装備なし


[メインスキル]

【星征アゼダラク】【星刻デ・マリニイ】

【星映マグナマター】


[パッシヴスキル]習得数:30

*タップして詳細を見る

◇────────────────◇


 レベルが50なのは良心的……というか原作準拠で感動するが、ステータスに情け容赦が無さすぎる。俊敏、というステータスは足の早さや手先の器用さを表すものだが、コイツに1000の違いがあるとまず攻撃が当たらない。

 2300というのはバージョン9なら鼻歌混じりに到達できるステータスだが、生憎ここには復帰勢向けの経験値ダンジョンも、配布で貰えるクソ強武器防具もない。


 そんな哀れな俺のステータスが、


◇────────────────◇

【称号なし】NO NAME レベル 20

[メインクラス]放浪者 [サブクラス]なし

体力 900/2320

精神 1000/1000


筋力 300  俊敏 400

耐久 110  魔力 50

信仰 100  幸運 320  


[剣]木の棒

[服]ボロ布

[アクセサリ]装備なし


[メインスキル]

【運頼みの一撃】


[パッシヴスキル]習得数:3

【転生者】【環境耐性:氷】

【空腹慣れ】

◇────────────────◇


 こちらです。

 この世界に来てから一度も名乗っていないせいか、NO NAMEになっているのがアイデンティティ。さっさと名前を付けたいけど、カッコいい名前も思い付かないし、前世の本名は恥ずかしいし。

 かつてのプレイヤーネームは、主人公(仮)ちゃんのものだから使えない。

 

 小話は兎も角、全ステータスがゴツいラトに一撃当てなきゃならない訳だ。

 ま、こっちには数万時間分の原作知識がある。

 勝てない勝負を続ける程に馬鹿じゃない。


 勝率は、具体的に言うと0.001%だ。

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