俺にだけ無意識えちおねムーブしてくる清楚系ハーフアップ美人家庭教師(♂)との誰にも言えない超ド健全授業:全問正解のご褒美はふたりだけの秘密

貴葵 音々子🌸カクヨムコン10短編賞

第1話

 白井マシロ、高校一年生男子。

 小中学校から仲の良い友だちからのあだ名は『初期設定』。理由はルックスも成績も運動神経も、何もかもが普通だから。ゲームのキャラメイク画面でよく見る初期顔を思い浮かべてみてほしい、見た目もスペックもだいたい俺になる。


 自他ともに認めるド普通な人生を送ってきた俺は、最近うかつに相談できない悩みを抱えていた。




 ◆◇◆




「――全問正解。ふふふ、よくできました、マシロくん」

「ど、どうも……」


 赤ペンで宿題の丸つけをしていたアオイさんのライトベージュハーフアップヘアーが、LED照明の光を浴びてキラキラと眩しく輝いた。

 場所は俺の自室。親がお値段以上の家具屋で揃えたシンプルな部屋だ。


 アオイさんは近所の有名難関大学に通う二年生。

 毎週金曜日の夜、家庭教師のバイトとしてうちに来る。


 家庭教師と言っても、プロが所属している企業から派遣されているわけじゃない。


 アオイさんは昔から同じマンションのひとつ上の階に住んでいるご近所さんだ。

 でも俺が中学生になって部活を始めてからは会う機会も少なくなって、すっかり顔を合わせなくなっていた。


 そんなある日、深夜の工事現場で警棒を振っていたアオイさんを俺の親がたまたま見かけて声をかけたのが、家庭教師バイトのきっかけだった。


 ご両親を事故で亡くし、色々と苦労しているらしい。日中は大学の授業をみっちり受けて、夜はバイトをいくつも掛け持ちする毎日。夏には近年の酷暑もあって、疲労で数日入院までしたとか。


 その話を聞いて、親が俺の家庭教師をやってくれないかと持ち掛けたのだ。深夜バイトを減らせる程度の月謝を渡すための口実だ。

 アオイさんもそれに気づいていたから最初は悪いと思って断っていたが、「共働きで夜も家にいないことが多いから、アオイくんがたまに来てくれたら助かる」と説き伏せられて、今に至る。


 そういった経緯で久々に再会したアオイさんは、なんというかこう、せ、清楚系ハーフアップ美人になっていた。男の人に美人って言うのはちょっと違うかなって思うけど、それ以外の言葉が思い浮かばない。


 今まで積み重なった苦労が透けて見える幸薄な憂い顔。

 痩せ気味なせいで全てオーバーサイズの服。

 昔から変わらないおっとりした喋り方。


 読者人気が高いラブコメの負けヒロインかよ。ヒーローじゃなくて俺が幸せにしてやる系二次創作がわんさか作られるタイプのヒロインかよ。……ごめんね気持ち悪いよね本当にごめんねアオイさんああああああ……!


 そんな清楚系ハーフアップカテキョ美人お兄さんが無意識にえちおねムーブをかましてくるので、俺は非情に困っているのだ!!!


「宿題で全問正解したら特別なご褒美あげるって約束、覚えてる?」

「オボエテマセン」


 嘘です。先週の金曜日、アオイさんは帰り際にそんなことを言っていました。俺はご褒美の内容が気になってその日眠れませんでした。


 特別なご褒美。何やら含みがありまくりな魅惑のワード。でもそれを受け入れたら最後、俺の中の性癖が今度こそめちゃくちゃにされそうな気がして、とっさに首を横に振った。我ながら往生際が悪い。


「遠慮してるの? かわいいね、マシロくん。本当は気になって仕方ないくせに」

「んぐぅっ……!」


 アオイさんが薄い唇に手を当て、くふくふと小さく笑う。オーバーサイズのカーディガンが萌え袖になっていて、俺は頭を抱えた。くっっっそあざとい。


 ああそうだよ。特別なご褒美が気になって仕方なくて、しっかり勉強してちゃっかり全問正解しちゃったよ! だけど怖いんだよ! 俺まだ女の子とキスも済ませてないのに、久々に再会した年上の清楚系ハーフアップカテキョ美人お兄さんに三半規管バカになるくらい振り回されるのが怖いんだよぉ!


 大体さ、アオイさんも悪いと思うんだよね! 意味深な言い回しばっかりして、俺をからかってるんじゃないかな!? だって家族にアオイさんの印象を聞いても「爽やかな好青年ですごくいいお兄ちゃんだよね」って言うんだよ!? つまり俺にだけえっちなおねえさんムーブしてるってことでしょ!? 健全な男子高校生の純情を弄ぶなんてけしからんくない!? めっちゃえちおねじゃない!?


 ひとり悶々と葛藤してる俺の気なんて微塵も知らずに、アオイさんは飲み水用のペットボトルが入ったコンビニ袋を漁り始めた。


「今日、モモカちゃんも塾でいないって聞いてたからさ」


 モモカは俺の妹で、中学三年生。高校受験真っ只中で、塾も気合が入っている。両親の仕事が終わる深夜まで塾に缶詰めなのだ。


 つまり、今この家には俺とアオイさんのふたりだけ。しかも今の発言から察するに計画的犯行である。……えっ、本当に何されちゃうの、俺!?


 あたふたする俺にアオイさんは妖美に微笑むと、コンビニの袋から取り出したをちらりと見せつけた。


「誰にも内緒のイケないこと、しよっか」


 ――ごきゅり。


 ぶっとい生唾を飲み込んだ俺の喉から、でかい音が響いた。

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2025年12月23日 12:05

俺にだけ無意識えちおねムーブしてくる清楚系ハーフアップ美人家庭教師(♂)との誰にも言えない超ド健全授業:全問正解のご褒美はふたりだけの秘密 貴葵 音々子🌸カクヨムコン10短編賞 @ki-ki-ki

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