戦略ゲームオタクの俺が異世界で天才将軍に誤解される件
外人だけどラノベが好き
第1話
[クエスト:共和国を10年間守り抜いてください!]
[報酬:元の世界に帰還させる。]
俺はただ、ステータス画面の言葉だけを信じて戦っただけだった。
戦略ゲームがクソうまかったという理由だけで、戦略ゲームの世界に憑依した俺にとって、家に帰る方法はクエストをクリアすることしかなかった。
だから、国を守った。
「将軍! 敵が無限に押し寄せてきます! どうしますか!?」
「どうするもこうするもあるか、クソが! 絶対に守り抜け! 俺が先頭に立つ! 全員俺についてこい!」
家に帰りたいという一念だけで命懸けで守ってきた国が、滅びていく。
それでも俺は、命懸けで国を守った。
国を愛しているから?(×)
ふざけたこと言うな。家に帰りたいからだ(〇〇〇〇〇〇〇〇〇)
ところが……。
「ふふ、ついに其方を我が足元に跪かせることになったな」
「はあ、クソッ……負けたか……」
結局、9年目になる年に、俺は戦争に敗れてしまった。
1勝199敗。「お前クソ雑魚じゃん」という名言がある。
今まで199回負けた奴が、たった1回勝っただけで相手を嘲笑する時に使われる言葉だ。
まさにその通りになった。今まで数十回も防ぎきった帝国の侵略に対し、最後の一回の戦闘で敗れた俺は、小国の将軍という理由だけで次の機会を得られず、国が滅びる様を見届けるしかなかった。
「共和国は、最初から其方を受け入れるには小さすぎる器だった。これ以上時間を無駄にせず、帝国へ来い」
「クソ食らえ」
クエストが「帝国に行け」と言うなら話は別だ。
だが帝国に行ったところで、家に帰れるわけじゃない。それならいっそ、ここで死んだ方がマシだった。
なぜかって?
今日の朝も、あのクソみてえな汲み取り式便所(ボットン便所)を使ってきたからだ。クソみたいな中世時代。
こんな様を見ながら生きるくらいなら、死んだ方がマシだ。死ぬわ、マジで。
「殺せ。不快だから」
具体的に何が? 汲み取り式便所が。
その言葉に、女皇帝アデルハイト・フォン・アルカディアは顔を赤らめた。
よほど腹が立ったのだろう。
ところが、周囲を取り囲む敵将たちの反応が少しおかしかった。
「ぐすっ……」
「ううっ……」
あろうことか、ハンカチを取り出して涙を拭き始めたのだ。
なんで?
ここは怒る場面じゃないのか? お前らの主君が罵倒されたんだぞ?
主君が罵倒されて悲しいのか? まあそれは分かる。だが、俺を殺そうと前に出る奴が一人もいないのはおかしい。
すると案の定、俺の前に立つ侵略者であり女皇帝であるアデルハイトまで涙を拭い始めたのだ。
「それほどまでに……それほどまでに、その亡国が愛しいか!」
「はい?」
何言ってんだこいつ?
「余が! 世界で最も広大な領土と強力な権力を持つこの身が、直々に其方に手を差し伸べているというのに! 其方は最後まで滅びた国に忠誠を誓い、操を立てようというのか!」
「……はい?」
いや違いますけど。何言ってんだよクソが。
ただ汲み取り式便所が嫌でこう言ってるだけなんですけど。
「いや、そうじゃなくて……ただここが不快(クソ)なんですよ」
俺は最大限正直に言った。亡国に対する忠誠心? そんなもん欠片もない。俺はただ、この忌々しい中世ファンタジー世界観とおさらばしたいだけだった。
そんな俺の絶叫にもかかわらず、女皇帝アデルハイトは感銘を受けた顔で俺を見つめた。彼女の青い瞳が潤んでいく。
「そうか……其方の心、ようやく理解した。ここ、というのは、其方が全てを捧げて守り抜いた末に散っていった祖国。その儚き廃墟のことを指すのだな……」
「いや、そうじゃなくて、この世界。ワールド」
「シーッ。これ以上言い訳をしなくてもよい」
女皇帝は白い手袋をはめた指で、そっと俺の口を塞いだ。彼女は優雅な手つきで、横に控えていた騎士団長を呼んだ。プラチナブロンドの美人騎士団長、俺の首を何度も刎ねそうになった優れた名将。ロウェナが目元を赤くしたまま近づき、皇帝に跪いた。
「陛下、お呼びでしょうか」
「薔薇騎士団長ロウェナ。その高潔な忠臣を丁重にお迎えしろ。埃一つでもつけようものなら、貴様の首を刎ねるぞ」
「御意! このロウェナ、命に代えても将軍を護衛いたします!」
騎士団長は尊敬の眼差しで俺を見つめた。その視線があまりにも重すぎて、とても直視できなかった。呆れたな、ただクールに殺してくれよ……。
帝国の将軍たちは、相変わらず鼻をすすっていた。
「くっ……あれこそが真の武人の姿……!」
「皇帝陛下の猛攻を9年も防ぎきった名将は格が違うな!」
「身体は敗北しようとも、精神だけは屈しないとは、武人の鑑だ!」
気が狂いそうだった。こうなると、俺が何を言っても奴らは自分たちの都合の良いように解釈するに決まっている。俺は全てを諦めてうなだれた。
とりあえず連行されて、いい暮らしをさせてもらいながら、隙を見て自殺した方が早いかもしれない。汲み取り式便所を使い続けるよりはマシだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます