いちごと星に祈る少女

カンガエル(?)

いちごと星に祈る少女

マヤちゃんはいちご畑で一つ一つていねいに、いちごをそうっと見て、

「よかった。よくそだってる」

そういって、一つ一つの「よかった」を見て回っていました。

あしたはケーキ屋さんのおじさんが、マヤちゃんのいちごをケーキのクリームの中に入れたり、ケーキの上にのせたら、ケーキの出来上がりです。

ケーキ屋さんのおじさんが、どうしてもマヤちゃんのいちごで、ケーキの出来上がりにしたくて、あしたやってきます。

そしてマヤちゃんは、そうっと、いちごをつみはじめました。

「みんなとケーキの上で、わたしのいちごが会えますように」

みんなといちごが会う日はクリスマスです。

みんなのよろこぶ顔が見たいなあ。

そう思って、もう一つ、もう一つ、といちごをつんでいきました。

次の日です。

ケーキ屋さんが馬車にのって、マヤちゃんのいちごをうけとりにきました。

「ことしはどうだい? また良いいちごに会えるかな?」

マヤちゃんは、

「はい!たくさんのいちごが、かごにいっぱいとれました」

「ホォーー・・そばで見てもいいかい?」

「ケーキ屋さんのおじさん、どうぞ」

二人はかごいっぱいのいちごをよ~くみた。

宝石のようなキラキラしたいちごが輝いています。

まるで、満天の星空のようないちごです。

「これは・・すごいね」

「ケーキ、作ってくれますか?」

「ハイ。がんばってつくらせてもらうよ」

マヤちゃんは、ことしのいちごがかごいっぱいにつんで、とれたことがうれしかったのです。

マヤちゃんの、おとうさんとおかあさんは、町で働く、働き者です。

町の人達からは二人のことを働き者といってくれました。

けれど、その時のことは、

「よく思い出せない・・」

けれど、たしかに町にはおとうさんとおかあさんが向かっていきました。

ケーキ屋さんのおじさんの馬車のような、立派な馬車でしたが、その時に、

「クリスマスには帰ってきてねーーー!!」

「待っていてねーー!」

「帰ってくるぞーー!」

と約束しました。

それでマヤちゃんは思い出しました。

「暖炉のまきは、もうわってあるから大丈夫。火を付けるだけだから」

でも早く気付いてよかった、とマヤちゃんは思いました。

また「よかった」に会えました。

まきは雪が染み込むと、しばらくもえないのです。

ケーキ屋さんのおじさんは馬車をカタコト、カタコトとゆっくり進ませました。

「ケーキ屋さんのおじさん、頑張って下さい!」

「ホーーーーイ!」

マヤちゃんは、ケーキ屋さんのおじさんを見送ると、すぐに家の裏に向かいました。まきは少しだけ雪がかかっていただけでした。

とにかく家の中にまきを運びました。

「まきは、雪がとけてしみこむと、重い!」

でも、頑張ってマヤちゃんは運びました。

もう夕焼けです。まきに気付いてホッとしました。

暖炉の近くにランプがあるのでそうっと、ろうそくにあかりをともしました。

マヤちゃんはテーブルのろうそく立てにおきました。

テーブルの上がほんのり明るくなりました。

コン、コン。

ドアを優しくノックする音が聞こえました。

あのノックの音はケーキ屋さんです。

「マヤちゃん!スープ鍋と、パンのかごと、お魚料理の鍋と、お肉料理の鍋を忘れてたよーー!」

「そうだった!」

いちごのことばかり考えていたので、いちごの代わりにケーキ屋さんのおじさんから料理を受け取るのを忘れていました。

ゴトン! ゴトン! ゴトン!

大きくて、上から見ると丸く、パンがいっぱいに入った大きなかごを三つ、縦長の温かくて大きなお鍋を三つくれました。

ケーキ屋さんのおじさんも忘れてしまっていたようです。

でも、お互いにわすれたことに気付けたのです。

気が付けないままなら大変でした。

マヤちゃんは、また「よかった」を見つけました。

「これでどうかな?」

ケーキ屋さんのおじさんはえっへん、と胸を張りました。

「ありがとうございます。メリークリスマス!ケーキ屋さんのおじさん!」

「こちらこそメリークリスマス!アンド、ハッピーニューイヤー!マヤちゃん!」

そうしたらケーキ屋さんのおじさんが、

「まきに火がついていないととっても寒いよ?」

気付いてくれました。

ちょうどマヤちゃんも困っていた時です。

「まきが雪にかかってしまって。おじさん、火をつけられますか?」

「大丈夫。少しずつだけど、まきを燃やす前に、まきを温めればいいんだよ」

ケーキ屋さんのおじさんはケーキをいっぱい焼ける窯を持っています。

ず~と、火があつくないとケーキは焼いて、出来上がりになりません。

マヤちゃんは、また「よかった」を見つけました。

ケーキ屋さんのおじさんの知恵でランプの近くで、まきを温めました。

細いまきから暖炉にくべていくと、

パチ、パチ、モア、モア、モア・・・

まきに火がつき始めました。

「このままゆっくり、まきをくべながら言うよ? 鍋の重たいのから棒にかけておくんだ。 いち、にいの、さん!」

ガチン!

棒に鍋をかけました。

あとはゆっくりコトコト煮ていきます。

もう一つの鍋も、

カチン!

もう一つの鍋も、

カチン!

としたら、料理からほんわりとしていきました。

「でも、熱過ぎはダメだからね。その時は鍋をこちらに寄せて、いすに一つ一つ置いていけばいいんだよ? 大丈夫かい?」

「はい」

マヤちゃんは、もっと教えて欲しくても、おじさんがケーキを配っていないのが心配です。

ケーキ屋さんからの手作りケーキです。

誰のケーキも、誰かに食べてもらいたくて作る、手作りケーキです。材料を作る人の苦労があります。たくさんの材料を集める苦労もあります。その材料でケーキを作れる作り方も、道具の使い方も心を込めて作る心も必要です。作り続けないと、一つのケーキもよく出来上がりません。

一つのケーキは何時間もかけて作ります。

そして出来上がったケーキは、甘~いお城みたいです。

「じゃあ、がんばってケーキを配ってきます。マヤちゃん? 今夜はお祈りしないと」

「お祈り・・」

何故かその時マヤちゃんは泣いてしまいました。

「私、お祈りします!」

ケーキ屋さんのおじさんは、

「がんばりすぎないでね。すぐマヤちゃんの家の近くに、うちのケーキ屋があるから、一緒に食べるかい?」

「いいえ。大丈夫。おとうさんとおかあさんが、今夜帰ってきそうなんです」

「そうか、そうか」

ケーキ屋さんのおじさんはマヤちゃんが、もうなかないように必至におじさんも泣くのを我慢しました。

ケーキ屋さんのおじさんは、マヤちゃんに、

「おじさんが行っても大丈夫かい?」

「うん。またね!ケーキ屋さんのおじさん!」

「ホーーーーイ!!」

ケーキ屋さんのおじさんは馬車に乗り、またカタコト、カタコトと歩くように次の家に向かいました。

マヤちゃんは全部思い出しました。

どうしても一度暖炉の火を消さないといけません。

暖炉のまきがもえている所を燃えない棒でかきわけるようにひろげて、もえているまきをひろげるようにしたら、そのまきの灰をまきにかけていきます。そして、じゅうそう(じゅうそう、という粉について下に書いておきますね)という粉をかけて、ちょっと待つと暖炉の火が消えます。実は、火には水や砂を一気にかけてはいけないのです。もえているまきの灰に一気に水や砂をかけると、灰がモア~~と辺りにとんでしまいます。とんでしまう灰がまだとても熱いので、とんだ灰でやけどをしたり、火事になってしまいます。

そうして暖炉の火が消えたら、あつでの手袋をして暖炉の奥の石を引き出しました。

「よーいしょ!」

ゴトン!

と石が取れて、マヤちゃんの横に置きました。

「あった!」

それは石の奥に入っていた箱です。

箱に入っていたのは手紙でした。

おかあさんの字で、

「テーブルの下から上を見てごらん」

と書いてありました。

おとうさんの字で、

「三人で作った、星空の絵は覚えているかい? 南の方に暖炉の星座も作ったのを覚えているかい?」

そして、おかあさんの字で書いてある通りに、テーブルの下から上を見ました。

「こんなところにお手紙があったなんて!」

テーブルの板のうらの真ん中にお手紙がはさんでありました。


『夜になったら、南の方に祈ってね。南の方は暖炉の反対側の窓の方よ。そしておとうさんとおかあさんがいる町の方なの。何かあったら祈ってね。祈りのは何でもいいのよ。

            マヤちゃんへ』

マヤちゃんは窓から祈りました。

「おとうさんとおかあさんと、あったかくくらせますように」

そう、と祈りました。

すると、暖炉の星座から、どんどん光が窓に入ってきました。

「まぶしい光!」

外は夜のはずなのに、とても明るい光です。

「おとうさんとおかあさんと、あったかくくらせますように」

もう一回、

「おとうさんとおかあさんと、あったかくくらせますように」

そう祈りました。

すると、誰かが光の上を歩いて来ます。

「おとうさんとおかあさんだ!」

星座の光はとおい地面の近くから、輝いています。

その光の上を、よいしょ、よいしょ、と大きな荷物を持っておとうさんとおかあさんが帰って来ました。

「おかえりなさい、おとうさん。おかえりなさい、おかあさん。メリークリスマス。おとうさん、おかあさん」

「ただいま、マヤ。大丈夫だったか?」

「ただいま、マヤちゃん。寂しい気持ちにさせて、ごめんなさい」

「もう一人ぼっちにしないで」

マヤちゃんはおとうさんとおかあさんに泣きながら抱きつきました。

おとうさんとおかあさんは町の人達の病気を治しにいったお医者さんです。

マヤちゃんにうつってはいけないと思っていたのです。

だからマヤちゃんは家でお留守番をして頑張っていたのです。

マヤちゃんは一人でもおとうさんとおかあさんとマヤちゃんで、いつもはいちご畑で働いて、いちごをそだてていたのです。

おとうさんとおかあさんが、きっと誰かの病気を治してくれる、と信じていました。

「町中の人達、みーんな治して帰ってきたわよ。でも、本当にごめんなさい」

「本当にごめんなさい」

おかあさんも、おとうさんもマヤちゃんにあやまりました。

「うん」

星座の光の行く先はマヤちゃんの家の暖炉でした。

消した暖炉の火が、

ボゥ、

とついてあったかくなりました。

マヤちゃんはききました。

「どうして、お手紙をしまったの?」

「お手紙はうっかり、ぬれてしまったり、もえてしまったらいけないでしょう?」

「そうだったのね」

でも、もう一つききました。

「どうして暖炉の星座に祈ったら、おとうさんとおかあさんが帰ってこれたの?」

「それはね。ぬくもりのある光にたよっていいですか、て暖炉の星座にお願いしておいたの。暖炉はぬくもりがあるからね」


クリスマスは、どの家族でも、あったかくなって会いたい人から祈りが届く夜です。

いつでも、どの夜でも、誰かが悲しい時は、誰でも助けていいのです。

誰かを悲しませていい理由は、どこの誰も、ありはしません。

誰かを悲しませてまで、何かやることも何一つありません。

それでも悲しいなら、星空を見て下さい。

星が必至に光っています。夜空一面に必至に光っています。

真っ暗な夜にどんなに小さくても、必至に光っています。

嬉しいなら嬉しいと笑っても、悲しいなら悲しいと泣いても、

あなたにかわりません。


マヤちゃんもおとうさんとおかあさんが帰ってきて、おとうさんはケーキ屋さんのおじさんからいただいたお鍋料理をそれぞれ温めました。

おかあさんはマヤちゃんを膝にのせて、マヤちゃんの話を聞いています。

「おとうさんとおかあさんと一緒に食べるいちごがあるよ?」

マヤちゃんのポケットから、マヤちゃんが一生懸命育てた、三つのいちごを出しました。

「一緒に食べよう?」

「おいしい!」

「おいしいよ!」

    「いちごと星に祈る少女」 おわり





















じゅうそう。重曹と書きます。

匂いを消したり、いつもしまっている、しめった服やくつが、かわいてきたりします。

料理をつくる時に、お肉料理にはお肉にじゅうそうの粉をまぶすとお肉が柔らかく、肉汁も出やすくいです。粉のままの活用方法は、お鍋の焦げ付きに粉を付けて取れやすくなったり、じゅうそうの粉と多いお水で煮ても、焦げ付きが取れていきます。


※暖炉の星座は実際に「炉座」という星座があります。12月23日にとても夜空の低い位置に、おおよそ南中になります。日本では、南よりの地域に行かなくては中々見られませんが、学校の星図表にのっています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いちごと星に祈る少女 カンガエル(?) @thinking0802

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る