第35話 疑惑のソロと、悪魔の囁き
地下六階層。クオンが放つ「鈍足」のデバフによって、コボルトの動きはもはや止まっているのも同然だった。それを着実に止めを刺し、時折ノクスが打ち漏らしを黒炎で焼き払う。
この完璧な連携により、探索効率はソロの常識を遥かに超えていた。
夕暮れ時の冒険者ギルド。換金窓口に魔石を差し出す。
「はい、一二万円になります。ご確認を」
「……よし。これで残金二四万。魔法の書まであと半分だ」
ホクホク顔で財布を仕舞おうとした、その時だった。
「――月神蒼真さん。少々お時間をよろしいでしょうか?」
いつも淡々と作業をこなす受付嬢が、少し真剣な面持ちで声をかけてきた。
ギルドの応接スペースで、首を傾げながら椅子に座った。
「あの、何か不備でもありましたか?」
「いえ、確認なのですが。月神さんは現在も『ソロ』で活動されている、ということでお間違いないでしょうか?」
「ええ、一応。……あ、この子たちも一緒ですけど」
リュックの隙間から顔を出すクオンと、肩にふんぞり返るノクスを見せる。受付嬢は困ったように眉を下げた。
「実は、ギルド内で少々不名誉な噂が流れておりまして……。月神さんが外部の業者から魔石をお金で買い取り、それを自分の戦果として提出することで『貢献度』を不当に稼いでいるのではないか、と」
「えっ!? そんなことしてませんよ。そもそも、そんなことして何か意味があるんですか?」
純粋な疑問をぶつける蒼真に、受付嬢は意外そうな顔をした。
「……月神さん。ギルドの貢献度は魔石の納品数で査定され、ランクアップや施設の優遇措置に直結するのですよ。冒険者登録時のパンフレットにも詳しく……」
「あ……読んでませんでした」
気まずそうに頭を掻くと、彼女は呆れつつも「そのお顔を見る限り、噂はただの噂のようですね」と苦笑した。
ギルドを出た瞬間、不愉快なほど聞き馴染みのある声が鼓膜を打った。
「よぉよぉ、魔石買いの『お坊ちゃん』。パパに買ってもらったポイントで、今日もいい気分か?」
そこにいたのは、近藤とその取り巻き四人だった。
「……近藤。魔石なんて買ってないぞ」
「白々しいんだよ! 俺たちの五人パーティですら一日の稼ぎは十万がいいとこなんだ。Fランクのソロが十二万なんて稼げるわけねぇだろ。なあ!?」
近藤の言葉に、仲間たちがニヤニヤと囲む。威圧的な空気が流れ、ノクスが『燃やしてよいか?』と喉を鳴らした瞬間――。
「おい、お前たち! ギルド前で騒ぎを起こすな!」
異変を察したギルド職員が、入口から鋭い声を飛ばした。
近藤はチッと舌打ちをし、僕を囲んでいた仲間たちに顎で指示を出す。そして、去り際に耳元でどろりとした声を残した。
「……絶対証拠を掴んでやるからな。ズル剥けにしてギルドから追放されるのを、震えて待ってろ!」
唾を吐き捨てるようにして、近藤たちは繁華街の方へと歩いていった。
ドッと疲れが押し寄せ、重い足取りで家路についた。
『ふん、矮小な人間どもよ。我が真の姿を見せてやれば、腰を抜かして這いつくばるものを……。蒼真、次はあやつらも纏めて燃やしてよいか?』
「ダメだよ。人間は燃やしちゃダメだってば。……クオンはどう思う?」
クオンはシルバーの瞳を細め、近藤たちが消えていった角を冷ややかに見つめていた。
「そうね……。主、面倒なら『消しますか?』」
「えっ?」
「わらわのデバフで意識を飛ばして、その辺の魔物の巣にでも放り込んでおけば、証拠も残らず処理できるけれど。主の手を汚す必要もないわ」
「もっと物騒だよ! 二人とも、絶対に手出しはしないでよ!」
大悪魔たちの「即時解決(物理)」を必死に宥めながら、僕は「ちゃんとパンフレットを読もう」と心に誓うのだった。
リザルト
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