何もかもを失くしてしまった君だけど
澪
プロローグ あの日が始まりだった
『じゃ、また登校日な!』
『ん、旅行楽しんできて』
その会話を最後に、
旅行中、乗っていた飛行機が事故に遭ったから。
乗客288人、乗務員と操縦士で13人、計301人を乗せた飛行機は、成田空港を発着した後、エンジントラブルで中部国際空港に胴体着陸、その際に19人が亡くなり、怪我人も多数でた。
亡くなった方の中に、識斗の家族がいた。識斗の両親と弟が。
識斗自身も、大怪我を負い、病院に搬送されたらしい。治療のおかげで命は助かったけれど、識斗は記憶を失ってしまった。
俺がそれを知ったのは、ニュースと病院からの連絡だった。
『ここで速報です。先程、台湾に向かっていた成田756便が中部国際空港に胴体着陸しました。現在、機体が炎上しています。この便には乗客乗員合わせて301名が乗っており、現在消火活動と共に怪我人の搬送が行われています』
夕方、何気なくつけていたテレビのニュース速報。
酷い事故が起きたんだな、としか思わなかった。それと同時に、識斗って、何時の飛行機だったっけ、とも。
そして少し経って聞こえてきた、固定電話の着信音。
「はい、
『藤田医科大学病院です、
──病院。ドクンッと、心臓が跳ねる。
嫌な予感がする……
「えっと、親族というか身元保証人、ですが」
『そうですか。折識斗さんが事故に遭われました。重体です。こちらに来ることは可能ですか』
「識斗が!?もしかしてっ!飛行機の……?」
嫌な予感が、あたった。当たって欲しくなかった、のに。
『はい。お住まいはどちらでしょうか?』
「東京、です。あの、識斗だけ、なんですか?怪我、したのって」
『いえ……他のご家族は、もう……ですが、識斗さんは手術を終えて
……あの、優しいおばさんとおじさんが、憎たらしけどなんだかんだ構ってしまう、あの
「そう、ですか。あのっ、僕まだ中学生で……親も今日は夜勤、で。でもすぐ行くので、だから、」
『落ち着いてください。まずは親御さんに連絡を。また、追って連絡致しますので。お名前と電話番号をお聞きしても?』
「は、い。えっと、名前が、金井瞬で、電話は─── です……お願いします……」
電話が切れた。
僕は何をすればいい?何が出来る?
あっ、電話、しなきゃ。母さんに、電話、しなきゃ。
震える手で、スマホを起動する。母さんに電話をかける。
プルルルルルプルルルルル
『もしもし、
母さんの仕事は、看護師。小児病棟の、看護師だ。ギリギリ仕事終わったくらいなのかな?スマホ見れたんだから。
「かあ、さん。識斗たちが乗ってた飛行機、事故ったって。病院から連絡、来て、」
『えっ!?
識斗のとこのおばさん達は2人共施設育ちで、保護者が居なくて。2人の先輩で友達だった母さんが2人の身元保証人だった。
だから1番不安になるのは母さんだろうな。
ごめん、母さん。悲しい知らせばっかり、なんだ。
「識斗は、手術終わってICUで、他のみんなは、もう、」
『っ、ほんと、に?』
「うん。母さん何時に帰ってくる?早く識斗のとこ行きたい」
ショックなのはわかってる。けど、まだ識斗は生きてる。だから、少しでも早く識斗に会いに行きたい。
『今日は、準夜勤だけど、帰らせてもらえるか聞いてみる。どこの病院だって?』
「場所は分からないけど、藤田医科大学病院?ってとこだって」
『藤田医科大……愛知県か……新幹線で行く。今なら自由席あるから、東京駅行ってて!休みもぎとってくるから!』
「わかった、父さんに連絡しなきゃだよね?」
『瞬できる?』
父さん、今日何番だっけ?多分夜勤かな?
「うん。今日当直だっけ?」
『そうよ。明日は休みだっては言ってたけど』
「わかった、メールしとく」
『よろしくね』
電話を切る。
父さんにメールをする。
『父さん、識斗たちが飛行機事故に遭った。識斗は手術終わってICU、他のみんなは亡くなったって、連絡きた。藤田医科大学病院にいるって。母さんが早退して一緒に行ってくる。明日病院、来れたら来て』
ひとつひとつ、文字を打ち込む度に、現実を突きつけられる。
気づけば、頬が濡れていた。気づかないうちに泣いていたんだ。
もう、あの家族を揃って見れるのは、笑いあえることはないんだ。
さっき父さんに送ったメールに、既読の文字はないし、当然返信もない。父さんは救急救命医、そりゃスマホなんて確認しないだろう。
でも、先に病院に行かなくちゃ。
財布とICカードとスマホと、あと何がいる?
結局、財布とかとモバイルバッテリーとか、母さんの身元保証人証明みたいなやつとかをリュックに入れて、家を出る。
バスで駅まで向かう途中、母さんにメールした。
家を出たこと、父さんにメールしたこと、身元保証人の紙も持ってきたこと。
すぐに既読がついて、早退できて、明日明後日と休暇をもらったと返事が来た。母さんの勤務先から東京駅まではそれほど遠くない。
だから俺が駅に着くのと同じくらいに着くみたいだ。
改札をぬけて新幹線のホームに行く。母さんがちょうど着いたとメールしてきたところだった。
東海道新幹線、新大阪行に乗り込む。
「識斗、すぐ行くからな……!」
何もかもを失くしてしまった君だけど 澪 @mio_dream
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