第8話 家を探しながらお婆さんの荷物を奪ってしまおう!




「ライラックもいるし、そろそろ家が欲しいわねぇ。」


 私とクロロだけなら野宿でも全然平気だが、子供のライラックが仲間になった。ライラックに野宿を強いるのは酷というものだろう。

 私とクロロは魔族だが、ライラックは人間の子供なのだから。

 それに、野宿は全然平気だが、たまにはふわっふわのベッドで横になりたいという欲求もある。


「じゃあ、家を探しに行こうよ。」


「そうね。ライラックはどんな家がいいかしら?」


「……?私は自分の部屋があって、ベッドがあって毎日ご飯が食べれればそれ以上は望まないわ。」


 ライラックはしばらく考えた後、そう答えた。

 意外にもライラックは子供らしくなくどこか醒めているように思える。


「そうねぇ。できれば広い家がいいわね。」


「それなら、私がいい家を知っているわ。」


 クロロがそう言った。

 クロロは時折なんでも知っているというようなことを言い出すから不思議だ。いつも一緒にいるのに、どこで情報を仕入れてきているのだろうかと不思議に思う。


「そうね、案内してくれるかしら?クロロ。」


「もちろん。私についてきてちょうだい。」


 クロロが案内する家が気に入らなければまた別の家を探せば良い。ひとまずはクロロお勧めの家に向かうことにした。

 その途中に大きな荷物を重そうに抱えてよたよたと歩いている老婆を見つけてしまった。

 手に持っているのはどうやら食材のようだ。


「サーヤはあのご老人が気になるの?」


「……家があっても食材がなければ何も食べられないじゃない。」


 ちょうどいいかもしれない。

 あの老婆の持っている大量の食材を奪ってしまおう。

 無理矢理奪うのは可哀想だから、騙してしまおうかしら。


「えっ……荷物を奪うの?あのお婆さんから?」


 ライラックはビックリしたように目を丸くした。


「そうよ。だって私は魔族だもの。悪いことをしないとね。」


「でも……。」


 ライラックはなにか言いたそうにこちらを見てくる。けれど、それ以上は何も言わなかった。

 私はクロロと並んで老婆に近づく。

 柔和な顔をしている老婆が私たちの方を振り向いた。


「こんにちはお婆さん。」


「こんにちは。まあ、可愛らしい子を連れているわね。」


「はい。この黒猫はクロロといいます。一緒に旅をしているんですよ。」


「そうなの。そちらのお嬢さんは?」


「この子はライラックといいます。孤児のようなのでこの街で一緒にしばらく暮らそうと思っています。」


「そうなの。」


「お荷物、重そうですね。家までお持ちしましょうか?」


 世間話をしつつ、私はそう切り出した。

 老婆から荷物を預かって、適当なところで老婆から離れてクロロお勧めの家に行く予定だ。無理矢理奪うのではなく老婆から荷物を預けてもらうように仕向ける。


「まあ。ありがとう。でも、とっても重いわよ。」


「大丈夫ですわ。こう見えても私とっても力持ちですもの。ほほほ。」


 風の魔法で荷物を浮かせてしまえば、重さなんてなにも感じない。


「じゃあ、お願いしてもいいかしら?」


「ええ。もちろん。お預かりいたしますわ。」


 老婆は荷物を持つことに疲れていたのだろう。すぐに私に持っていた大量の食材が入った荷物を渡してきた。私はその荷物を持つふりをして風の魔法で浮かせた。

 見た目からすると私は重い荷物を何食わぬ顔で持っている風に見えるだろう。


「まあ。あなた本当に力持ちなのね。」


「ふふふ。それにしてもお婆さん一人にこんな重い荷物を持たせるだなんて、家主は何を考えているのかしら?」


 気になっていたことを私は口に出した。

 こんな重い荷物を老婆に持たせて平気な顔をしている家主の顔が見てみたいものだ。


「家主は私よ。一人暮らしなの。」


「えっ。どうして?一人でこんな食材を食べきれないのではなくって?」


 老婆の言葉に私は驚いた。まさか、この大量の食材を一人で食べきるというのだろうか。

 どう見ても成人3人で食べても一週間はあるような量だ。


「待っているのよ。出て行ってしまった娘夫婦が帰ってくるのを。」


「……そうですか。」


 この老婆はなにか悲しい思いを引きずっているのだろう。

 出て行ってしまった人の分まで重い食材を買い込むなんて相当なことだ。

 深い深い悲しみが老婆にはるのかもしれない。

 ……本当にここで食材を奪ってしまってもいいのだろうか。

 そんな気持ちが浮かんでくる。


「あっ!ここにゃっ!!」


 そんな時、急にクロロが一軒の家の前で声を上げた。

 どうやら老婆と話しているうちにクロロお勧めの家に着いてしまったようだ。

 適度なところで老婆からこっそり離れる予定だったのに、気づけば老婆と話し込んでしまっていた。


「まあ、クロロちゃんは私の家を知っていたの?」


 老婆はそう言ってふわりと笑った。


 ……え?老婆の家がクロロが言っていたお勧めの家ですって!?

 つまり私は老婆の荷物をタダ単に運んであげたってことにならないっ!?

 ここで、私が荷物を持ち去るのはかなり不自然だし。というか、クロロの言う家はこの老婆の家だし。行き先の目的がなくなってしまったではないか。


「重い荷物を運んでくれてありがとう。よかったら家にあがってお茶でもいかがかしら?」


 あまりの出来事に戸惑っていると老婆からそう提案された。

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