第7話 さらった子に懐かれた!?





「……助けてくれて、ありがとう?」


 私に抱かれている女の子はそう言って首を傾げた。その拍子に銀髪のサラサラな髪が揺れ、アメジスト色の瞳が見えた。

 なんと神秘的な色合いの組み合わせを持っている女の子なんだろう。


「……私は、あなたをさらったのよ。お礼はおかしいのではないかしら?」


「でも、お姉さんはあの男とは違うわ。私に危害を加える気はないみたい。」


「……わからないわよ?だって、私人間じゃなくて魔族だもの。」


「なんとなくそんな気はしていたから問題ないわ。」


 女の子の言葉に私は目を見張った。

 今の私の姿は人間と遜色ない姿のはずだ。見た目だけでは判断ができないはずなのに。

 

「そんなに驚かなくていーよ。私ね、人の心が読めるの。だから、いろんな人にさらわれそうになるのよ。」


 女の子はそんなことを言った。

 どこか諦めに似たような雰囲気をその言葉に感じた。


「私も人の心が読めるわ。一緒ね。」


「だから私を助けてくれたの……?」


「だから、助けてないわ。あなたをさらっただけ。あなたのその髪がとっても綺麗だったから。近くで見たらもっと綺麗ね。そのアメジスト色の瞳もとても綺麗だわ。とても神秘的でずっと見ていたくなる。」


「……お姉さんにならさらわれてもいいかもしれない。私、ライラックっていうの。お姉さんの名前を教えてくれる?」


 ライラックと名乗った女の子は少しだけ頬を染めてそう言った。

 そう言えば、魔族になってからまだ名前をつけていなかったということを思い出した。黒猫と私、二人だけだったから、別に名前なんていらないと思っていた。

 でも、知り合う人が増えれば名前は必要になる。

 私の名前は安居紗耶香。

 でも、それは人間の時の名前。愛着はあるけれど、この世界では相応しくないような気がした。

 だって、私はこの世界では魔族なのだから。

 

「……私の名前は、サーヤよ。」


 人間だった頃の名前に愛着はあるから、少しだけ名前をもじってみた。案外いいかもしれない。

 

「サーヤお姉さんね。これからよろしく。そっちの黒猫ちゃんの名前は?」


 言われて考える。

 黒猫のことも特に名前なんて決めていなかった。本人も好きなように呼べばいいと言っていたし。

 

「……好きに呼んでいいと言っていたわ。」


「……?サーヤお姉さんは黒猫ちゃんと会話ができるの?すごいわ。私は、人間の心しか読めないの。動物と心を通わせてみたかったのに、中途半端よね。」


 そう言ってライラックは寂し気に笑った。

 この子、さっきから随分寂し気に笑うなぁ。

 まだ10歳かそこらだろうに。

 そのくらいの年頃の子は無邪気に笑っていればいいのに。

 

「大丈夫よ。この黒猫は特別だわ。きっとライラックとも会話をしてくれるわ。そうよね?」


「に?にゃー。」


 私とは会話をするくせに、黒猫は棒読みのような鳴き声を上げた。


「ねえ、サーヤお姉さん。黒猫ちゃんに名前をつけてあげてよ。だって、ずっと一緒にいるんでしょう?一緒にいるのに名前をつけないなんて寂しくない?」


「……一緒にいるから寂しくないわ。でも、名前をつけるのもいいかもしれないわね。ライラックはなんて名前がいいと思う?」


「私じゃなくて、サーヤお姉さんが決めてあげて。サーヤお姉さんの黒猫ちゃんなんでしょう?」


「それもそうね……。」


 私の黒猫というのはちょっと変だけれども。

 えらいえらーい神様が私のお供としてよこした猫だけど。

 

「……クロロって名前はどうかしら?」


「その名前とってもいいわっ!どこかの悪の親玉の名前みたいでとっても可愛いっ!!」


 ライラックはそう言って手を叩いて笑った。

 その笑みは年相応に無邪気で私は嬉しくなった。

 って、ライラックの可愛いの基準ってなんかおかしいような気はするけど……。


「クロロ?」


 確かめるように名前を呼べば、

 

「私はクロロです。名前をつけてくれてありがとう。これでえらいえらーい神様から言われていたことが一つ叶えることができました。」


 そう答えた。

 クロロがしゃべったことにライラックは目と口を丸くして驚く。

 

「しゃべった……。」


「そう、クロロはしゃべります。だから、ライラックとも会話できるわ。」


「よろしくライラック。私はクロロです。」


 子供をさらったはずが、なぜだか仲間が増えたのだった。


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