第3話

「好い加減にしろよテメェッ!!」


ダン、と足を強く踏み締める。

コンクリートで出来た地面が陥没、罅が割れていく。

相手の怒りを受けて楽しそうにしながら、折原刃は更なる挑発の言葉を掛ける。


「あぁ、そうそう、退職金の話っすけど……あんたらの命で勘弁って事で」


人差し指を一本立てて、折原刃は怪人達に向けた。

それが、バルバコア・ナインの怒気を殺気に変化させるのに十分だった。


「……あァ、分かった、分かったぜこのクソがァ、裏切りかガキィッ、上等だァ、我らに歯向かうモン、全部敵だァ!!殺してやるよ新入社員ッ!!」


黒スーツ、白シャツ、両手で掴んで全てを破り捨てる。

鋼の如き硬い肉体を剥き出しにして、バルバコア・ナインは敵を見据えた。

彼の本性剥き出しに、折原刃は肌で脅威を感じながらも、後に引く真似はしない。

後ろには、自分の味方をしてくれる事に対して疑問を浮かべる彼女の姿が其処にあった。

かち、かちかち、と、両手の皮膚からカッターナイフの刃を突き抜けて戦闘準備を整える。


「それはこっちの台詞っすよォ!!バーベキュー先輩よォ!!」

「バルバコア・ナインっつッてんだろォがァァ!!」


首筋、手首、足首、関節の間から、ぎちぎち、と骨格が変化する音が響き出す。

引き締まる筋肉が拘束を解いて、皮膚の隙間から繊維が生え揃う。


「「被貌・襲蝕マスク・レイドォ!!」」


高らかに叫ぶと共に鮮血が散る。

皮膚から大量の繊維が肉体を覆う。

肉体を浸蝕する細胞が、徐々に怪人としての姿を形作る。

そうして、人の姿であった両者は怪人へ変貌を果たした。


折原おりはらじん

怪人形態名称ピカレスクネーム・『ブレイカル・エッジ』。

D-コア階層『初層』

D-コア中核『折刃のブレイカル・エッジ』

概要:体内で生成されるカッターナイフを放出するスキルである。


獅子吼ししく万武ばんぶ

怪人形態名称ピカレスクネーム・『バルバコア・ナイン』。

D-コア階層『第七階層』

D-コア中核『刺殺のバーベキューロッズ』

概要:体内で生成される串を排出し操作するスキルである。



変身、変化を遂げ。

折原刃は対象を、下位怪人諸共切り捨てた。

廃工場の中には大量の黒い血液が充満し、噎せ返る臭いで溢れる。

四肢を切断されたバルバコア・ナインは立ち上がる事も出来ずに叫び続ける。


「分かってんのか、クソガキィ!!大総統様のご命令に背く行為だぞッ!!」


その声は命乞いに等しい。

けれど、言っている事もまた事実。


「何れ、世界の全てを支配する方のお言葉、即ち、お前の行為は全世界を敵に回すと言う事ッ!!」


今、現在。

この秘密結社と言う悪の事業に対して、勢力を拡大させているのが『エンダーテイムレスメイン総合秘密結社』と呼ばれる彼らが属する企業である。

何れは世界を統べる事も視野に入れ、拡大をし続ける。

そうなれば、何処にも逃げ場など無いのだ。

それを理解した上で、盾突いていると言うのか。


「それを了承の上、承知の上で啖呵切ってんのかァ!!」


両手から無数のカッターナイフの替刃を噴き出しながら。

ブレイカル・エッジは拳を硬く握り締め直した。


「おーおー、でかく出やがって、世界、世界と来たか、ハッ」


確かに相手は強大だ。

ただ一人の少女の為に、それらを相手にする覚悟があるかなど。

そんなもの、言うまでも無い事だ。


「ならテメェは乗る馬を間違えてやがるぜ、このお嬢は俺の上に乗った」


自らの指を立てて、それを己に向けて、高らかに宣戦布告を行う。


「世界上等、大総統上等ッ、なんせ、テメェらは、この俺をッ敵に回したんだからなァ!!」


世界が敵ならば、相手は自分が敵である。

傲岸不遜にも程がある台詞に、バルバコア・ナインは声を殺した。

背後に座り続ける彼女は、その言葉で大きく目を開き、心からの安堵の息を漏らす。


そして、大きく腕を振り上げるブレイカル・エッジ。

一筋の脆く鋭利なカッターナイフの刃を、躊躇う事無く、バルバコア・ナインの頭頂部に向けて振り下ろす。





「こンのッ!!くそが/

         /き、がァァ!!!」





一撃で上から下に向けて両断すると共に、バルバコア・ナインの生命が断たれた。

声を荒げながら、肉体に残る情報を他者に解析されぬ様に、自動爆破機能が発生。

細胞が爆発物に変化し、一斉に肉体を爆破して霧散した。



「退職金、有難アザァすッ!!」



勝利宣言を口遊むと共に、折原刃は声を荒げた。

下位怪人が、中位怪人を倒したジャイアントキリング。

それを果たし、ゆっくりと折原刃はレアン・リンネの元へ向かう。

烈しい爆発の熱と光を背にしながら、変身を解除した折原刃は傷だらけの手をレアン・リンネへ向けた。


「……良いの?わたし、捨てられたのに」


自分について来て良いのか、そう聞くレアンに、折原刃は笑う。


「ならオレが拾うだけっすよ、こんな上玉、捨てるなんてアイツら見る目ねぇな」


軽口を叩き、レアンは彼の手を取った。

頬を赤く染め、一筋の涙を流しながら、それを見られない様に俯きつつ。


「どっか、組織の目に入らん所に逃げますかね……車もあるしよ」


遺体を運んで来た車のバンに視線を向けた時、冷静にレアン・リンネは告げた。


「ガソリン、無いから使えないんじゃないの?」


あぁ、と。

そういえばそうだった、折原刃は失念していた。



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