肉体に『Dコア』を埋め込まれた主人公、怪人系ヒロインの為に進化する。最弱のスキル持ちが第一章終わりで最強へ進化する。現代ファンタジー

三流木青二斎無一門

第1話





この世界の死体の隠語は『ダンジョン』である。

死亡した人間の状態ダウン・バージョン』・『身元不明の遺体ドゥ=ジョン』。

以上の二つの名称をダブルミーニングしたのが『ダンジョン』であった。







「はぁ……はっ……」


微かに息を荒げる少女の姿。

其処は街から離れた工場の内部。

決して食品や部品を作る為の工場では無い。


「もう、少し……」


彼女の声と共に、床に転がるマネキン人形に手を翳す。

冷めた肌、硬直した肉体、姿は人形、しかしそれは人間の生命活動が停止ダウン・バージョンした遺体。


此処は、人間を加工する為の製造工場であり、そして彼女……レアンは製造機器だった。


人間の遺体に彼女の体内で生成されたヴィラン細胞を注入する事で硬直した肉体の中心に向けてヴィラン細胞が開拓を行い、肉体の奥に生成されるディープコア……通称D-コアを生成する。


D-コアが発現すると、新たな細胞である『ヴィラン細胞』が生成され、死後硬直した肉体を『ヴィラン細胞』が適応しやすい環境へと変化を遂げる。


時間が経過すれば『ボディダンジョン』は、栄養を求め出し、死亡した肉体を活動させる様に蘇生をさせるのだ。


それが、怪人と呼ばれる新生物『ピカレスク』の生成までの手順であった。


「は、ぐッ」


その場に倒れるレアン。

黒い髪を揺らし、憔悴した表情で膝を突く。

体力の消耗が激しく、彼女の姿は怠け者の様に映った。


「……もう終わりですか?まだ、二体しか怪人が作られていませんよ?他の死亡した人間ダン=ジョンも腐り始めている、折角の素体を無駄にするつもりですか?なあオイ」


苛立ちながら、目の細い男が告げる。

近くには灰色の髪をした男も居た。

少女の行動に、同情の様なものを感じているらしい。


(あーあ、カワイソーに……少しくらい休ましゃ良いだろうが)


呟きながら、男はスーツ姿の目が細い男に近付く。


「バーベキュー先輩、少し休ませましょうよ」


このままでは効率が悪いと、上司に助言をしようとした最中。

振り向き様に、目で追えぬ程の素早い拳が男の頬を殴った。

その一撃を受けて、男は吹き飛び、工場の中で止めていた車のバンに衝突する。

約、十五メートル程の飛距離であった。


「私の名前はバルバコア・ナインと言いましたがね?殺すぞ餓鬼ィ……と、失礼」


口の悪さに謝罪を口にしながら、その男、バルバコア・ナインは睨みを効かせる。

男はゆっくりと立ち上がりながら、車の方に視線を向けた、衝突した際に、車に傷が出来ていた。

深い傷だからか、ガソリンが周囲に流れていた。


「あー……すんません、バルバコア先輩、オレのせいで、ガソリンが流れちまった」


かち、かちかちと。

掌から大量の血を流しながら、男の掌を貫通して伸びる、大振りのカッターナイフの刃。

忌々しいと思いつつ、ガソリンが充満した中で作業する事は危険と判断したバルバコア・ナインは舌打ちをした。


「作業は一時中止、ブレイカル・エッジくん、責任を持って掃除をしておきなさい」


二つ返事で了承するブレイカル・エッジと呼ばれた男、踵を返してバルバコア・ナインが鼻をハンカチで抑えながら離れると、彼は舌を出して悪態を吐く。


「俺の名前は折原おりはらじんだっつうの……っと」


車のバンには遺体処理用の掃除用具も入っていた。

なので、折原刃はモップとバケツを取り出してガソリンを掃除しようとした時だった。


「んあ?」


目の前には、少女が立ち尽くしていた。

蜘蛛の様に細い黒髪。

豊満な肉付きをしている。

だが、衣服の合間に見える多数のアザ。

彼女の表情は何処までも曇り切っていた。


「……なんで、たすけてくれたの?」


彼女の消え入る声色に、折原刃は鼻で笑う。


「べっつに……」


じっ、と見つめる彼女の視線に、折原刃は再度答えた。


「オレは元々は人間だった、けど、あんたが俺を怪人に変えて生かしてくれた、本来死ぬ筈だった命、生かしてくれたアンタを助けるのは道理じゃねぇのか?」


そう言いながらモップを使いガソリンの掃除を行う。

ザッ、ザッ、と音を鳴らしてガソリンを吸収してバケツに突っ込む。

それを作業として何度も繰り返す。


「……だったら、余計な真似しないで、わたしなんかに関わったら、不良品扱いで処分されちゃう……わたしが救った命なら、最後まで、救われていてよ」


刺のある言い方だった。

だがそれは彼女なりの助言であり、彼女なりの救済であった。

自分に関われば、嫌な目に遭ってしまうぞ、と言う危険を報せる言葉。


「へいへい、分かってますよ、あんたの為じゃない、俺が気に喰わないから言っただけ……知らねぇ?オレ、生意気言える位には強いんだぜ?」


極めて前向きな言葉に、しかし彼女は笑う事はしなかった。

ただ暗い表情のままで、


「……だったら、私より長生き出来るね」


何処か深い意味を持つ言葉を口にしながら、レアンはその場から離れた。

彼女の歩く仕草は次第に、朧気な足取りであり、今にでも転んでしまいそうで見てられない。

そして案の定、レアンは何も無い足場で躓き倒れ掛けた。


……寸での所で、折原刃が彼女の体を強く抱き留めた。




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