あの日聞いた音の正体を僕らはまだ知らない

@harutosoutome07

読み切り

登場人物(計5人):


カナエ(高校生。音に敏感な少女。好奇心旺盛)


ユウト(カナエの幼なじみ。寡黙で誠実)


アスカ(カナエの親友。明るくて行動派)


リク(ユウトの友人。ムードメーカー。ちょっとビビリ)


精霊の声(倉庫に宿る“音”の記憶)






ここは秘密基地 床には一斗缶、壁の脇に錆びたチェーンが垂れている。そんな埃っぽい倉庫にカナエがゆっくり入ってくる。


カナエは周囲を見回しながら

「ここ、昔ユウトとよく来たっけ……。あの時の音、まだ残ってるかな。」


カナエは一斗缶を軽く叩く。カンッと全体に響く音。


「この音、変わってない。」


すると後ろからユウトが入ってくる


「カナエちゃん……勝手に入ったらダメだって、アスカが言ってたじゃなか。」


カナエはユウトの方へ振り向いてにっこりと笑い


「でも気になるんだもん、この倉庫。ねえ、ユウトも覚えてるでしょ? ここで秘密基地ごっこしたの。」


「……ああ。」


カナエが一斗缶をリズムよく叩くと、チェーンが揺れて音を立てる。


カナエは驚いて


「えっ? 今のは……偶然?」


するとアスカが外から呼びかけた!


「ちょっとー! カナエ! ユウトもいるのー?」


アスカとリクが倉庫の中に入ってくる


アスカはあきれながら


「なにやってんの?アンタたち こんな埃まみれのとこで!」


リクはチェーンを見てビクッとしたあと怯えながら


「うわ〜、なんか出そう! オバケとか、怖いな〜。」


カナエはアスカに言った!


「上から急に音が鳴ったの! この一斗缶とチェーンで、なんか呼ばれたみたいな……」


するとアスカはカナエに対して


「は〜、また始まった。カナエの“音オカルト”モード。」


アスカたちはカナエにあきれながらも付き合うように話した。

そのとき、照明が一瞬落ち、低く“声”が周りに響く


精霊の声は低く優しく私たちに言った


「音の鍵を奏でし者よ――目覚めのときは来た。

あの音が消えてから、どれほどの時が流れたことか……私は、君たちの足音をずっと待っていた。」


一同、息をのむ


リク

「……今の、誰の声……?」


カナエは真剣な表情でみんなに言った


「みんなやっぱり、この場所には“なにか”があるんだよ。」


まるで音の世界に入ったことを暗示するかのように周りが少し青白く変わり、みんなは静かに辺りを見回した。


「イヤイヤイヤ、ほら、誰かのいたずらってことは? ほら、屋根にスピーカーとか仕込んでて――」


アスカはカナエの言葉をあり得ないと思い、勢いよく否定した。


しかし、ユウトは首を横に振って


「スピーカーの音じゃないよ!響き方が違うもの。」


そう言われるとリクは床の一斗缶から一歩下がり


「ねぇ、本当にオバケなんじゃない? 帰ろうよ。俺、音楽室のベートーベンも怖いのに!」


みんなに帰ることを提案した。


しかし、カナエは一斗缶を見つめながら


「……違う、これは怖い感じじゃない。優しい……懐かしい……音。」


カナエ、再びリズムを刻むように一斗缶を叩く。チェーンが共鳴し、再び声が響く


精霊の声がまた響き


「記憶の音を奏でよ……その場所は、かつて子どもたちの夢の庭……君たちの笑い声が、私の中に灯をともす。これが生きているということなのだろうか。

音の記憶は、時を超えて――」


そう聞こえた瞬間、周りがほんのり暖かい色に変わる。そして4人の記憶が交差する


するとユウトがみんなに向けて


「ねぇ、覚えてる。カナエが作った“音の楽団”。」


そう、ぼそっとつぶやいた


するとカナエは目を輝かせて


「そうだ! 廃材とか缶とか集めて、ここで演奏してたの。リクがタンバリン係で、アスカは……指揮者!」


アスカはぽんっと手を叩いて


「そうだそうだ! でも私、すぐリズム無視して踊り始めてたよね!」


リクは笑いながら


「ユウトはさ、ずっと缶叩いてたくせに最後に「うるさい」って言って帰ったじゃん!」


ユウトはちょっと照れて

「……あのときは、恥ずかしかっただけ。」


するとみんなは少し笑う


「もしかして――この場所って、私たちの“音”を覚えてるのかな。」


カナエがそう考えると精霊の声が柔らかく


「その通りだ。君たちの音が、この倉庫の命となった。だが、まもなくここは――壊される。」


皆、顔を見合わせる


するとユウトが口を開き


「そういえば……再開発で、この辺り全部、取り壊されるって聞いた事ある。」


そう言って再開発の為にここが壊される事を思い出した。


その事を聞いたアスカはショックを受け


「そんな……こんな大事な場所なのに。」


それを聞いたカナエは決意を込めてみんなに向けて提案した


「だったらさ、最後にもう一度――ここで音を鳴らそうよ!みんなで」


リクはカナエに向けて不安そうに


「でも、演奏って……楽器なんてないよ?」


するとカナエはリクに向けて自慢げに


「あるよ!ここに………一斗缶も、チェーンも、廃材も全部、音になる。」




秘密基地の周りに一斗缶、チェーン、木の棒などを持つ4人が自然に配置につく。カナエが一斗缶の前に立ち、静かに言う


カナエ

「ここで、もう一度あの時みたいに――みんなで音を鳴らそう。」


アスカが木の板を拾ってリズムを取り始める

リクは金槌を叩き、ユウトはチェーンをゆっくり揺らす中でカナエの一斗缶のビートを中心に、段々と“演奏”になっていく。テンポが上がり、音が重なっていく


周りが暖かくなるような感じが出て、倉庫が“生きている”ような空間に変わっていく

途中で一瞬、みんなの動きがぴたりと揃い、静寂が訪れる


すると精霊の声が静かに、感謝をこめて


「……ありがとう。君たちの音は、ここに確かに息づいた。

この場所は、もう役目を終える。

けれど――音は、君たちの中に生き続ける。

なぜなら、音は別れであり、そして新たな出会いなんだから。」


照明がふわりと金色に変わる。まるで光が舞っているような色になっていく


ユウトは小さく小さな声を発し


「……さよなら、秘密基地。」


リクは鼻をすすりながら


「うぅ……こんな感動するとは思わなかった……」


アスカは落ち着いた表情で


「でも、「音は別れで、そして、別れは出会いなんだ。」って私聞いたことがあるんだけど」


カナエは頷き


「うん、またみんなで“音”が鳴る場所を私たちで作ろう。」


みんなが倉庫の外に出てくる。空はまるで朝のように明るい


そんな中でリクが皆に向け


「ねぇ、俺たち、バンドやろうよ! “一斗缶カルテット”とかどう?」


そう提案するとアスカは


「却下、私そこまで好きじゃないもの。それにバンド名 センスあるようで微妙!」


ユウトはぽつりと

「でもさ、またみんなで集まろうよ!」


そうつぶやくとみんな一瞬止まった


カナエは微笑んで


「この音の正体は……たぶん、私たちの時間そのものだったんだ。……音は別れで、そして出会いなんだね。」


4人の笑顔と、倉庫の扉が静かに閉まる音が静かに響いた。




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