第42話「開会宣言」

 翌日。

 ここは【神の国ダンジョン】の1階層。

 陸上競技場のようなフロアに、希望の灯リバティファイアは立っていた。


 ​神々が全国大会のために作った、10人以上が入っても免疫反応が起こらない特殊ダンジョンだ。

 全国大会はこのダンジョンで、命の危険のない魔力アバターを使って行われる。


 俺は大会参加者用の宿から、万能カメラを操作してその様子を撮影していた。


 ​開会式を控え、続々と参加者が集まってくる。観客席には、既にたくさんの神々で満員御礼だ。


 そんな中で、​【大泥棒】になったジョージと【大聖女】ハルカが、楽しそうに周りをキョロキョロしている。


​「ねえジョージ、あっち見てみて。あの大きい人」

「あれは熊本県代表の【もんクマ】だな、熊の獣人……生で見るとすげえ迫力だぜ」


「あっちには、黄色い熊もいるわね……?」

「あれは千葉県の【ドリーム・カントリー】の戦士だな。隣にいるネズミの獣人がパーティの勇者だ」


「じゃあ、あの可愛い子たちは?」

「おおっ! アイドル冒険者の【なないろクローバー】じゃねぇか! 俺ななクロ好きなんだよ!」


「詳しいわねジョージ。……あの遠くから、こっちをチラチラ見てるイケメン執事は?」

「うん? あれは……わからねえな? 初めて見た冒険者だぜ」


​(あ、それアルだ)


 ​俺の友達の真竜アル(イケメン若執事)も、無事ダンジョン入りできたみたいだ。


 さっき連絡があったが、彼も入った瞬間に特別室に呼ばれて大変だったらしい。

 俺の名前を出してなんとか見逃してもらえたとか。


​(アルのやつ、約束とおり皆を遠くから見守ってるな。えらいえらい)


 ​と、その時。

 エマが「あっ」と小さく声を漏らした。


 その​視線の先──フロアの入口にいたのは、埼玉県代表。

【協会の最高傑作】ネイムとセイムだった。

 相変わらず、不気味な白い魔導人形マリオネットを三体引き連れている。


 ​二人は希望の灯リバティファイアに気づくと、鏡写しのように口元だけをニヤリと吊り上げた。


​「今日も『邪道』の臭いがするな」

「今日も『邪道』の臭いがするね」


「出場したって恥をさらすだけなのにな」

「出場したって恥をさらすだけなのにね」


 ​トウマが険しい表情で前に出る。

 だが、すかさず魔導人形マリオネットが間に割って入った。


​「すぐイライラしちゃって、下品だな」

「すぐイライラしちゃって、下品だね」


「類は友を呼ぶ、ってやつだな」

「類は友を呼ぶ、ってやつだね」


 ジョージが「なんだとぉ……?」と腕をまくった──​その瞬間。


 会場の雰囲気が、ガラリと変わった。

 ​冒険者たちの視線が、フロアの入口に一点集中する。


 そこに現れたのは、東京都代表。

 全冒険者の頂点に君臨する生ける伝説──【蒼穹そうきゅうの翼】だった。


 ​ワァァァァァッ!!

 観客席の神々から、割れんばかりの歓声が上がる。


​ すると、今まで希望の灯リバティファイアを煽っていたネイムとセイムが、うっとりした顔でそちらを向いた。


​「マーリン様……相変わらず美しいな……」

「マーリン様……相変わらず美しいね……」


「『邪道』と知り合いと思われたら困るな」

「『邪道』と知り合いと思われたら困るね」


 ​二人はフラフラと吸い寄せられるように蒼穹そうきゅうの翼の方へ歩いて行った。


​(あいつら……大賢者マーリンに話しかけて……あ、無視された)


 ​マーリンは双子に一瞬だけニコッと微笑んだだけで、立ち止まることもなく通り過ぎてしまった。

 それでも二人は、目をハートにしてニヤニヤしていた。


​「なんだよあの態度の変わりようは……?」

「気味が悪いわね……」

 とジョージとハルカが呟く。エマが苦々しげに理由を教えてくれた。


「魔導士協会にとって、【大賢者】マーリン様は神にも等しい存在ですからね……」



 ──​昔々。


 詠唱の隙が大きい魔法使いは、パーティ内での地位が低く、見下されがちだった。

 そこに彗星のごとく現れたのが、マーリンだ。彼女は見る者を圧倒する「無詠唱魔法」を駆使して、数々のダンジョンをクリアしてみせる。


 ​それが魔法使いの地位向上のきっかけとなったらしい。


 吹けば飛ぶような弱小団体だった、当時の魔導士協会は、マーリンをお手本とした戦闘スタイルを体系化・推進することで、今の地位を確立したのだという──。


​「だからあの二人にとっても、マーリンさんは信仰対象のようなものなんです」

「ほーん。……神を見て目をハートにするのもどうかと思うけどなぁ?」

 ​呆れるジョージをよそに、蒼穹そうきゅうの翼は真っ直ぐに競技場の中央へ向かう。


 トウマの父である​勇者フーマは、前だけを見て、トウマの方は一切見ていない。

 マーリンと【不死のカメラマン】ヒデオも同じように、前だけを見て進む。

 ……普通のおっさん【大僧侶】サンゾウだけは、他の冒険者に愛想よくペコペコと挨拶しながら歩いていた。


 ​やがて彼らが会場の中心に辿り着く。


 それと同時に──ボンッ!


 冒険者たちの前方に、青い炎を纏った巨大な老人の神、デウスが現れた。

 広い会場に向けて、マイクも使わずに話し始める。


​「冒険者諸君、全員集まったみたいだのう。それではこれより……」


 ​すぅぅぅぅぅうぅぅうぅ……。

 デウスが大きく息を吸う音が、競技場全体に響き渡り……


​「──ダンジョン全国大会を!!!!! は・じ・め・ますッ!!!!!!!」


​(──声デッカッ!?)


 ​鼓膜が破れそうな開会宣言と共に──ダンジョン全国大会が、幕を開けた。

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