第41話「協会の最高傑作」

 エマが即興で使った、優しい小鳥魔法。

 それを否定する冷たい声が、背後から聞こえた。


「くだらない魔法だな」

「くだらない魔法だね」


 ​振り返るとそこに立っていたのは、20代後半と思われる色白で黒髪マッシュヘアの青年が

 顔立ちも、背丈も、人をバカにしたような表情さえも──鏡写しのように瓜二つだ。


 ​そしてその二人の後ろには、異様な存在。

 全身が真っ白な人間と同じ大きさの魔導人形マリオネットが、三体立っていた。

 つるりとした顔に、ガラス玉のようなギョロリとした目だけがめ込まれている。

 無感情な瞳が、俺たちを見つめていた。


 ​その姿を見たエマが、苦々しげに呟く。

​「……ネイムさんに、セイムさん。お久しぶりですね……」


 ​二人は答えない。

 ただ無感情な瞳のまま、口元だけをニヤリと三日月型に歪めた。


​(これがあの、ネイムとセイムか……)


 ──ネイムとセイム。

 ​魔導師協会長の息子で『協会の最高傑作』と呼ばれる双子だ。

 恵まれた血統と才能を持ち、たった二人で埼玉県1位に君臨する【賢者】でもある。

 今回の全国大会での、ライバルの一つだ。


 ​二人はエマを見下し、鼻で笑った。

​「お前が『邪道』に堕ちるとはな」

「お前が『邪道』に堕ちるとはね」


「邪道……確かに協会の教えには反するかもしれませんが、芸術魔導マジックアーツは立派な魔法です」


 ​エマが気丈に言い返す。

 だが、二人はフンッと鼻を鳴らした。


​「話にならないな」

「話にならないね」


「哀れな出来損ないだな」

「哀れな出来損ないだね」


「一生、【賢者】にはなれないだろうな」

「一生、【賢者】にはなれないだろうね」


 ​どこまでも見下した口調。

 畳み掛けるような暴言の連打に、エマは唇を噛んで黙り込んでしまう。


​(この野郎……ッ!)


 ​今すぐコイツらを消し飛ばしてやりたいが……ここは【神の国】。

 冒険者の揉め事はご法度とされている。

 俺が爆発しそうな怒りを必死に抑えようと拳を握りしめた、その時。


​「──聞き捨てならないな」

 ​トウマが前に出た。


​「エマは出来損ないなんかじゃない。訂正してもらおうか」


 ​ジョージとハルカも同じ気持ちだろう。

 双子を強く睨みつけている。

 まさに一触即発といった空気だ。

 お爺さんがひょうたんを片手にオロオロと困っている。


 だが、双子は余裕の表情を崩さない。

​「訂正はできないな」

「訂正はできないね」


 ​そして同時に、ニヤリと笑った。

​「「──この続きは、大会で」」


 ​それだけ言い残した双子は、三体の不気味な魔導人形マリオネットを引き連れて、去っていった。




 双子が去ると、エマはがっくりと肩を落とした。

​「あの人たち、苦手なんですよね……」

「わかるわ。なんていうか……人間と話してる気がしなかったもの」


 ​ハルカが眉をひそめて同意する。

 俺も同じ気持ちだった。

 無機質で、精巧なロボットを相手にしているような……そんな不気味な感覚がした。


​「なんだってんだ、あの態度はよぉ! いけすかねぇ奴らだぜ!」

 ​ジョージが地面を蹴飛ばして憤る。

 それをお爺さんが、ひょうたんを抱えながらなだめた。


​「まあまあ、そう怒るでない。……あやつらからは、底しれぬ力を感じたぞ?」

「……お爺さんの言う通りです。性格は最悪ですが、実力は本物。紛れもなく天才です」


 ​エマが苦々しげに唇を噛む。

​「阿吽あうんの呼吸で放たれる無詠唱魔法に、彼らの意思通りに動く魔導人形マリオネットたち……その力に疑いはありません」


​(圧倒的な実力で1位に君臨している……。その点は、蒼穹そうきゅうの翼に通ずるところがあるかもしれないな)


 ​──すると。

 ゴク、ゴク、ゴク……プハァーッ!

 という、豪快な音が響いた。あたりに酒の匂いが漂う。

 ひょうたんの酒を飲み干した老人が、赤ら顔でニカっと笑った。


​「うぃ〜……。こりゃあ今年の全国大会も、面白くなりそうじゃのう。なんたって神たちの一年に一度の楽しみじゃからなぁ」

「お爺さん、飲み過ぎですよ?」

「カカッ! ありがとな、小鳥の嬢ちゃん。縁があったらまた会おうぞ!」


 ​老人は上機嫌に手を振ると、千鳥足でフラフラと路地裏の闇へと消えていった。


​(行っちゃった……。はぁ、なんかドッと疲れたな)


 ​富士山のふもとで【蒼穹そうきゅうの翼】に遭遇したり、特別室で神たちに囲まれたり、さらには変な双子に絡まれた。


 体感では数時間だが、地上では一週間。

 短い間に、色んなことがありすぎた。

 皆も疲れた様子で話している。


​「まずは僕たちの宿に入って、ゆっくり休もう。明日は本番だからね」

「そうだな。怒ったら腹が減っちまったぜ」

「そうね。温かいお風呂にも入りたいわ」

「私はもう、布団で休みたいです……」


 ​それから俺たちはやっとの思いで宿に辿り着いて、明日から始まる全国大会に備えたのだった──。



――――――――――――――――――――――――――――


あとがき


次回から全国大会!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る