第39話「サラミちゃん」

「お、お、大泥棒おおどろぼうってなんだよ──ッ!?」

 ​ジョージ叫びが、和室に響き渡った。


​(おお! ジョージの新しいジョブは大泥棒だったのかっ!)


 ​ジョージがなる可能性のある全てのジョブのスキルを所有している俺は、すぐにそれが当たりジョブだとわかった。


​「ジョージ、大泥棒は悪くないよ。面白くて良いジョブだ」

「ヒロ……そうなのかよ?」

「うん。ジョージが感覚で『イキなジョブ』って言ったのも頷けるよ」

 ​と俺が太鼓判を押すと、歌舞伎かぶき役者のような神さま──ゴエモンが、キセルをふかしながら得意気に鼻を鳴らした。


​「おうよ! オイラの大泥棒、卑下ひげしちゃいけねぇぜ?」

「はぁ……。そんじゃあゴエモンさん、この大泥棒は、どんなジョブなんですか?」


「聞いて驚くなよ? 大泥棒ってのは世界のありとあらゆるものを手に入れられるだ。シノビの道にも通じてるから、お前さん次第でイカした忍術だって使るようになるぜ!」


​「忍術! 確かに新スキルに載ってますね。そうか……これは中々ロマンのあるジョブかもしれねぇな!」


 ゴエモンの話を聞いて元気が出てきたジョージに、俺も補足する。

「もう一つの新スキルの略奪スナッチも便利だよ。相手の武器を盗んで無力化したりできるから」


 すると。ゴエモンがニヤリと笑い、チッチッチと人差し指を振った。


​「甘いなヒロ。武器だけじゃねぇぞ」

「え?」


略奪スナッチは大泥棒の真髄だ。自分が盗めると確信したものは、形があろうがなかろうが……なんでも盗める。逆に『無理だ』と思っちまったら、小石一つ盗めねぇのさ」


「……なるほど。使い手の認識によって効果範囲も変わるってことですか」

「あだぼうよ!」


​(形ないものを盗む……俺にはあんまりピンと来ない話だな。専門の神さまに聞いてみないとわからないこともあるもんだ)


​「ってなわけで、宝の持ち腐れにならねぇよう肝に銘じな。期待してるぜ、ジョージ!」



​◇


 ​それなら改めてゴエモンに礼を言って、俺たちは和室の出口へと向かった。


 いよいよお別れの時間だ。しかし──


​「ミャ〜オ」

​ トウマの足元に、赤茶色の子猫──サラミちゃんが、ピッタリとくっついて離れない。

 スリスリと頬を擦り付けながら、トウマを見上げている。


​(よっぽどトウマが気に入ったみたいだな)


 するとゴエモンが愉快そうに言った。

「おうトウマ。どうやらそいつは、お前さんと一緒に行きたいみたいだぞ?」

​「そうですか……ダメだよサラミちゃん。君はここの子だろ? 神さまに怒られちゃう」

「いや、そいつは神が飼ってるわけじゃないから問題ねぇぞ? 好きにしな」


 ​ゴエモンがあっさりと許可を出す。

 トウマが困ったように眉を下げて、しゃがみ込んだ。


​「連れていきたい気持ちは山々だけど……今は旅の途中だし、僕の生活じゃあ寂しい思いをさせてしまうから。……ごめんね?」


 ​トウマは名残惜しそうに、ふわふわの小さな体を抱きしめた。その瞬間。


 カッ──!


 サラミちゃんの体が淡い光に包まれたかと思うと──そのままトウマの胸の中へと吸い込まれていった。


「「「……えっ?」」」​

 ​俺たち三人が呆然とする中、ゴエモンだけがケラケラと笑っている。


​「どうしてもお前さんと一緒にいたいみたいだな。お前さんの魂の中で生きるってよ」

「魂……? サラミちゃんは、猫じゃなかったんですか?」

「ん? そいつは猫なんかじゃねぇよ。……まあ悪いやつじゃないから、仲良くしてやってくれ」


 ​トウマが慌てて自分の胸元を確認するが、傷一つない。


「なんだか、心がポカポカするよ……うん。サラミちゃん、僕と一緒に行こう」

 ​トウマは胸に手を当て、優しく微笑んだ。

 この状況をもう受け入れたようだ。いつもながら切り替えの早い男である。



​◇


 ​今度こそ玄関を開け、外に出る。


 そこに広がっていたのは──【神の国】のメインストリート。

 ガヤガヤと活気があって、相変わらず江戸の城下町のような雰囲気だ。


​「じゃあとりあえず、宿に行かないとな」

 俺のかけ声で、​三人一緒に石畳の道を歩き出した──その時。


​「──ん? あれって……」

 ​トウマが不思議そうに、少し先を指さす。

 その視線の先にあるのは茶屋の長イス。


 そこで二人並んで、ボーッとお団子を食べている、見覚えのある横顔があった。


 ​美しい金髪と、黒のおさげ髪。


​「あれって……ハルカとエマだよね?」

「……そうだな」


​(あの二人は【賢者】と【大聖女】になるために、俺たちと別行動で東京に行ったはず。なんでもう【神の国】にいるんだ──?)

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