第33話「アーサー、死す」
アーサーがツバを飛ばしながら叫ぶ。
「ティナァ! 突っ立ってねえで早く
「わ、わかってるわよッ!」
焦った様子のティナが慌てて詠唱をしようとするが、それよりも早く──フロアに凛とした声が響いた。
「──させません」
エマは優雅に、力強く。
勝利への詩を詠み上げる。
「空を染め 煌めき翔ける 蒼き棘 天をも穿つ 万の瞬き
──【芸術魔導・
刹那。ダンジョンが青一色に染まった。
空を見上げた相手の魔法使いエルドが、「なッ!?」と息を呑む。
先ほどエルドが防いだのは、千の槍。
しかし今エマの頭上に展開されたのはその10倍──文字通り、空を埋め尽くす万にも届こうかという無数の水槍だ。
──それらが一斉に。
意志を持った豪雨となって
「エルドォ! ガードしろぉッ!!」
「は、はいっ! おお主よ、御身の愛し子を守りたまえ。聖なる盾よ、不浄を拒絶する鎖となさん──【
脂汗を流す魔法使いエルドが、自慢の防御魔法を展開。無数の光の壁が繋がり、強固なバリアとなる。だが。
──ズドドドドドッッ!!!
「ぐ、ぁぁぁぁぁッ!?」
ケタ違いの轟音がバリアを叩く。
水の槍の量と勢いが強すぎ、バリアの修復が追い付かない──バリバリバリッッと硬質な音と共に、【
「ば、かな……ッ!?」
驚愕に目を見開くエルドの体を、止まない水の槍が容赦なく貫いていく。
「ぐぬほおぉぉおお!!?」
屈辱の表情を浮かべたまま、エルドが光の粒子となって霧散し、消滅した。
水槍の勢いはまだ止まらない。
「アーサーさんッ!」
聖騎士クライヴが巨大な盾を構え、アーサーをかばうように飛び出る。
しかし、強化されたエマの魔法の前には、金ピカに輝く自慢の装備も紙同然──盾ごと体を貫かれ、蜂の巣になっていく。
「ぐうッ……お逃げ、ください……ッ!」
クライヴは自身を肉壁としてアーサーを守り──そのまま光の粒子となって消滅した。
「キャァァァァッ!?」
水槍はほぼ同時に、後衛にいた聖女ティナにも襲い掛かっていた。彼女も華奢な体を貫かれ、蜂の巣となって消滅していく。
──しかし、消え去る間際。
ティナは最後の執念でアーサーへの
「任せたわよ……ッ!」
ティナの杖から放たれた最後の光が、一人生き残ったアーサーに吸い込まれた──。
◇
仲間を全て失い、荒野に一人取り残されたアーサー。その目にはドス黒い怒りと狂気が宿っていた。
「やってくれたなァ……雑魚どもがァァ!」
聖女ティナの最期の
「
アーサーを包むオーラと、地面を覆っていた影の全てが、彼の持つ聖剣に収束──漆黒に染まった剣から、渾身の一撃が放たれた。
「俺は真の勇者だ! 精霊に選ばれし者なんだッ! 集え聖なる輝き、邪悪を断つ十字の道標となれ──【
先ほどよりもさらに巨大な闇の十字架。
──前に出たのは、勇者
赤い髪をなびかせる彼は静かに聖剣を構えると、アーサーを真っすぐに見据えた。
「精霊に選ばれたとか、選ばれてないとか。そんなことは関係ない──その勇姿で世界に希望をもたらすのが真の勇者だ──っ!」
トウマの口癖であり、信念の叫び。
言葉と同時、その体が青く光り出した。
光は魔力の高まりに合わせて緑色となり……やがて先ほどと同じ赤色へ。
だが、変化はそこで止まらない。
ハルカの歌声による
赤いオーラはさらに輝きを増し──神々しい金色へ変化。
それでもさらに、力は高まり続ける。
“なんだこのオーラ”
"光りすぎワロタ"
“カッコいい!!”
“激アツ確定演出”
"いけー!!!"
大盛り上がりのチャット欄の中、トウマは七色に輝く──虹色のオーラを身に纏った。
「アーサー! 潔く引退してもらうぞっ! 集え聖なる輝き、邪悪を断つ十字の道標となれ──【十字虹光斬】!!」
放たれた渾身のグランドクロスは、七色に輝く巨大な光の十字架だった。
アーサーの漆黒の十字架と真っ向から衝突する。
───ズガァァァァンッッ!!!
爆音。しかし、拮抗したのは一瞬。
虹色の光は闇を一方的に食らい尽くし──勢いそのままにアーサーへと直撃する。
「うわぁぁああ!! 俺は選ばれしッ!? やだ! いやだあぁぁぁぁああああ!!!」
醜い断末魔が、ダンジョンに響き渡る。
アーサーは汗と鼻水でグチャグチャになった情けない顔のまま虹色の光に飲み込まれ──跡形もなく消滅していった。
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