第26話「告発」
「あなたたちの悪事も、横領のことも、全部公にしてやるんだから──っ!」
ハルカの宣言を聞いても、アーサーは動じる様子を見せない。むしろ手にしたワイングラスを傾けながら、ニタニタと笑っていた。
「いいぜ? ただし、ギルドが信じるのはどっちだろうな? 北海道No.1の俺たちか、落ちこぼれのお前たちか?」
「ッ……! 行くわよヒロ!」
ハルカは俺の手を引くと、勢いよく部屋から出ようとする。
(今すぐにでもボコボコにしてやりたいけど……今はハルカを支える方が大事だな)
部屋を出る直前に一度だけ振り返ると、アーサーは爬虫類のように冷たく、何かを企むような薄汚い笑みを浮かべていた───。
◇
それから数十分後。
「緊急で報告したいことがあるんです!」
ギルドに入るやいなや、ハルカがカウンターに身を乗り出し、必死の形相で訴える。
しかし──
「あっ、ハルカさん……」
いつもなら笑顔で対応してくれる受付嬢の反応が、妙によそよそしい。
ふと周りを見渡すと、ラウンジにいる冒険者たちから俺たちに向けられる視線も、何かがおかしい。
蔑み、嘲笑、敵意……そんな冷たく刺すような空気が、ギルド全体に漂っていた。
「……ここではなんですから、奥の部屋へどうぞ」
と、受付嬢はひどく気まずそうな様子で、俺たちを奥の相談室へと案内した。
◇
個室に入っても、重苦しい空気のまま。
俺たちが席につくと、受付嬢は躊躇いがちにタブレットを取り出し、俺たちの前へと差し出した。
「あの……報告というのは、やはりこの動画に関する話でしょうか?」
「動画……?」
画面に映っていたのは、ついさっきまで見ていた顔──
背景はさっきの趣味の悪い部屋ではない。
会議室のような質素な場所で、黒いスーツを着た彼らが神妙な顔つきで深々と頭を下げていた。
『視聴者の皆さん、緊急のご報告があります……今日は、今まで隠していたある秘密をお話しいたします』
画面の中のアーサーは目にうっすらと涙を浮かべ、沈痛な面持ちで語り始めた。
『実は私たち
「……は?」
アーサーが自らポーションの事業について話し始めたことに、予想外すぎてハルカが驚きの声をあげる。
『あくまでも慈善事業として、公にはしていませんでした。……そしてその配布役を、協力者であった
アーサーは悔しげに唇を噛み、頬に大粒の涙をこぼした。
『ですが、【白の盾】が全滅した事件で判明したのです。彼女に託した大量のポーションは、新人たちには一本も届いていなかったということが……ッ!』
「な、なにを言っているの……?」
ハルカが狼狽する。事実と正反対のことを言われているのだ、混乱するのは当然だ。
『そのポーションはどこへ消えたのか? ……皆さん、不思議ではありませんか?
アーサーの声のトーンが、悲しみから怒りを帯びたものへと変わる。
『答えは残酷なものでした。彼らは、新人へ配るはずだったポーションを換金して……その汚れた金で、自分たちの装備を買い漁っていたのです!』
「なっ……!?」
アーサーの言葉にハルカが息を呑む。
(これは……先手を打ってきたってわけか)
つまりアーサーは、自分がやっていた悪事をそっくりそのままハルカのせいにして公表したわけだ。
なぜ今まで事業を公表していなかったのか? →「アーサーが謙虚だから」
なぜ新人にポーションが届かなかった? →「ハルカがネコババしたから」
なぜ
一見、筋が通っているように聞こえる。
何も知らない視聴者からすれば、アーサーの嘘を信じてしまう可能性は十分ある。
『ハルカはそれがバレるのを恐れたのか、先ほど俺たちに口止めを要求してきました。……もちろん、俺は断りました』
アーサーがカメラを見据える。
『ギルドに調査を任せていては、彼らはその汚い金を使って高飛びするかもしれない。……俺は【白の盾】の無念を思うと、それが許せない!』
声を張り上げ、カメラを指差すアーサー。
『だから俺は、彼らに最後のチャンスを与えます。アバターを使用したダンジョンバトルです!』
『もし君たちが、その強さは横領した金で買った「メッキ」ではないと言うなら……俺たちに勝って証明してみせろ!』
『もし俺たちが勝ったら──君たちには罪を認めてもらう。そして
『逃げないでください。これは公開裁判だ。ニセモノの勇者が、精霊に選ばれた真の勇者に勝てるのか? その身をもって証明してみせろッ!」
……動画はそこで終わっていた。
コメント欄は、アーサーへの賞賛と俺たちへの罵詈雑言で埋め尽くされている。
"ハルカ最低だな"
"だから急に強くなったのか"
"アーサーの優しさに泣ける"
"恩を仇で返すとか最低だな"
"横領した金でイキってたのかよ"
"はやく解散しろ"
"成敗してください! 応援してます"
(ひでぇコメント……。こいつらは
盲目的な正義感ほど厄介なものはない。
しかしそのコメントたちは、優しいハルカを絶望させるのには充分だった。
「嘘……なんで……どうして……」
ハルカはガクンと肩を落とした。
真実が数の暴力によって捻じ曲げられてしまう。理不尽な現実を前に、彼女の心は限界を迎えていた。
「私はただ、私の作ったポーションで誰かを救いたかっただけなのに……っ」
ハルカは顔を伏せると、声を上げて泣き始めた。俺はその震える背中を支えながら、画面の中のアーサーを睨みつけた。
(だけど……これは、悪い展開じゃない)
なぜなら向こうから勝手に、ダンジョンバトルという派手な舞台を用意して、大勢の観客まで呼び集めてくれたわけだ。
俺たちはそこで、全てをひっくり返してやれば良い。
(ハルカの想いを踏みにじりやがって……。絶対に許さないぞ……)
俺はハルカの背中をさする手に力を込め、言い聞かせるように呟いた。
「……ハルカ、逃げる必要なんてないぞ。どっちが真の勇者なのか、全世界に見せつけてやろう……っ!」
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