第25話「栄光騎士団」

 その翌日。俺とハルカは、街の一等地にある栄光騎士団ナイツ・オブ・グローリーの拠点へと足を運んでいた。


 ​それは成金趣味という言葉がよく似合う豪勢な事務所だった。外壁は無駄に白く輝き、入口には二体のライオン像。

 ​案内された室内に足を踏み入れた瞬間、甘ったるい香水の匂いが漂ってきた。


「くっせぇ……」

 俺とハルカは思わず鼻をつまむ。


 ​その室内は、目がチカチカするほどに豪華絢爛だった。真っ赤な絨毯にキラキラのシャンデリア。壁には大きな絵が飾られている。


 成金趣味の極みのようなその部屋の中央。

 ​本革のソファに、ガタイの良い金髪の男がふんぞり返るように座っていた。

 北海道ランキング1位パーティ栄光騎士団ナイツ・オブ・グローリーのリーダー、勇者アーサーだ。


​ いつもの金色の鎧ではなくラフな格好。

 そのアーサーにピッタリとくっついているのは、露出の多いドレスを着た栄光騎士団ナイツ・オブ・グローリーの聖女ティナだ。


 さらに視線を移せば、別のソファでも男の聖騎士と魔法使いが、それぞれ派手な女を侍らせて、昼間から堂々とイチャついていた。


​(なんだここ。キャバクラか何かかよ……)


 ​聖女に葡萄を「あ~ん」してもらっていたアーサーは俺たちに気がつくと、面倒くさそうに声をかけてきた。


​「ようハルカと……荷物持ちか。アポも取らずになんの用だ?」

「わかるでしょ? 【白の盾】の件よ」

「…………あ? なんの話だ?」


 ​アーサーの頭にはてなマークが浮かぶ。

 すると、隣にいた聖女ティナがコソコソとアーサーの耳元に唇を寄せ、何かを囁いて教え始めた。


​(こいつもしかして、【白の盾】が亡くなったことを知らないのか……?)


 するとアーサーは取ってつけたような神妙な顔を作って話し始めた。


​「ああ……その件か。いやぁ、本当に残念な事故だったな」

​「ポーション切れって、どういうことよ?」

「さあ……ペース配分をミスったんだろ。新人にありがちな話だ」

​「いいえ! 映像も見たけれど、彼らが持っていたポーションは『無償で提供した数』よりも明らかに少なかったわ」


 ​ハルカは毅然として食い下がる。

 昨晩、俺もハルカと一緒に映像を確認したから間違いない。

 彼女は、悲惨な映像を涙を流しながら何度も見返し、彼らが使ったポーションの本数を数えていたのだ。


 ​しかしアーサーは、鼻でフンッと笑っただけだった。


「知らねぇよ。テンパって使い忘れたんじゃねぇのか?」

​「そんな様子じゃなかったわよ……ねぇ、アーサーさん。あなた本当に、【白の盾】にポーションを渡していたの?」

「あぁん? ……それはどういう意味だ?」


 ​アーサーの動きがピタリと止まり、不快そうに眉を寄せた。ドスの効いた低い声。

 部屋の空気が一気に張り詰めていく。


 しかしAランク冒険者の放つ威圧も、怒りに燃える今のハルカには通じない。


​「……実はここに来る前、提供リストに載ってる他の若手パーティにも確認してきたの」


 ハルカは懐から一枚のメモを取り出し、突きつけるように掲げた。


​「そうしたら、どのパーティも『そんな提供は受けていない』って言っていたわよ?」

「チッ…………」


 ​アーサーは何も答えない。

 一度大きく舌打ちをすると、つまらなそうに視線を逸らし、手元のグラスの中のワインを見つめ始めた。


​「ねえ……正直に話して? 私が毎日のように作っていたあのポーション……あれは一体誰が使っているの?」


​ハルカの悲痛な叫びが、広い応接間に響いた。


​(……さあ、どうするアーサー。これは流石に言い逃れできないよな?)


 しかし、返ってきたアーサーの反応は意外なものだった。


​「ていうかよ……ハルカお前、さっきから一体何の話をしてるんだ?」


 ​アーサーは突然キョトンとした顔を作り、わざとらしく首を傾げたのだ。憎たらしい困り顔で、呆れたような声を出す。


​「なあハルカ。もしかして、疲れてるんじゃないか? 俺は『ポーション提供』なんて、聞いたことないぞ?」

​「は? ……何を言ってるの? だって毎週、私が作ったポーションを回収に来て……それに、この提供リストだってあなたが……!」

​「ああ、その紙切れか?」


 アーサーはハルカが持つメモを、つまらなそうに顎でしゃくった。


​「そんなメモ、見たことねぇな。……お前が勝手に書いて、捏造したんじゃないのか?」

「ッ……!?」

​「あのさぁ。妄想も大概にしてくれよ? わけのわからねぇ難癖つけて、俺たちに迷惑かけるなよな?」


 ​アーサーが肩をすくめると、周りの取り巻きたちも「プッ」と吹き出し、クスクスと笑い始めた。


​「かわいそー、ハルカちゃんボケちゃったんじゃない?」

「自分から押しかけてきて捏造とか、痛々しいなぁ」


 ​そんな嘲笑の中、アーサーは何かを思いついたように、ニヤリと意地悪く口角を吊り上げた。


​「お前らさ、まぐれでダンジョンクリアしてランキングが上がってるからって、調子に乗るのはよくないぜ? まさかNo.1の俺たちを蹴落とそうとして、こんな冤罪をでっち上げるなんてなぁ……」

「なっ……!?」

「怖い怖い。落ちこぼれの嫉妬ってのは醜いもんだな」


 ​被害者は自分たちだと言わんばかりの、あまりにも身勝手な言い草。

 ハルカの肩が、ワナワナと震え始めた。


​「……ふざけないでッ!!」


 ​ハルカの絶叫が、広い部屋に木霊した。


​「嘘つき! 私のポーションだけじゃない、あの子たちの命だって……あなたが奪ったも同然じゃない! それを……よくもヘラヘラと……!」


 ​ハルカは涙で潤んだ瞳でアーサーを睨みつけると、大声で言い放った。


​「もういいわ! ギルドに行って、すべて話してくる! あなたたちの悪事も横領のことも、全部公にしてやるんだから──っ!」

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