第17話「ダンジョンボス」

「──ありがとう、ハルカ」


 聖女遥歌ハルカからの莫大なMP供給を受けたのは勇者燈真トウマ。その全身が力強く、青白い光に包まれていく。

 そして光は強さを増しながら緑──やがて赤色へと変化。


​「──知っているかい? 勇者固有スキルには、魔力を込めれば込めるほど威力が高まるものがある」


 ​トウマは地面を蹴って、群がるワイバーンたちに向かって走り出し──そのまま大きく跳躍した。

 見据えるのは盗賊丈志ジョージが作った肉に群がっている約20体のワイバーン。

 赤い光に包まれたトウマは宙に舞ったまま、光り輝く聖剣を頭上へと掲げた。


​「集え聖なる輝き、邪悪を断つ十字の道標となれ──【十字紅光斬グランド・クロス】!」


 ​詠唱とともに、真横へ一閃。

 そして立て続けに、縦への一撃。

 ​縦と横に伸びる斬撃が空中で交差して──巨大な光の十字架が現れた。

 十字架はそのまま落下し、ワイバーンたちをその輝きの中に飲み込んでいく。


 ──ドゴオオオオオッッッ!!!


 ​轟音と、視界を白く染め上げる閃光。


 ハルカの【大祝福ハイ・ブレッシング】による支援を受けて放たれた聖なる一撃は、7階層の強敵たちを断末魔の声すら上げさせることなく──跡形もなく消滅させた。



​────────────────


名前:燈真トウマ

ジョブ:【勇者】

レベル:59 ↑up

HP:4,250 / 4,250 ↑2,400up

MP:1,150 / 1,150 ↑600up


【ステータス】

STR(筋力):380 ↑220up

VIT(耐久):450 ↑240up

AGI(敏捷):340 ↑180up

DEX(器用):280 ↑140up


​【スキル】

剣術A、シールドバッシュ B、挑発C、魔法耐性C、ヒール、聖剣解放エクスカリバー十字聖光斬グランドクロス、英雄のカリスマ(中)、直感


────────────────



​「おっしゃあ!」

 地面に着地したトウマを見て、ジョージがガッツポーズをしながら叫ぶ。


​「7階層も無事クリアですね」

 魔法使いエマが杖を払いながら、いつものジト目でクールに呟いた。


​(皆ナイス! ここまでは攻略も視聴者数も順調だな)


 ​勢いに乗っている希望の灯リバティファイアのダンジョン初制覇を狙った配信ということで、なんと同時接続者数は3万人を突破している。

 俺はアパートの自室から、万能カメラ通して皆に語りかけた。


​『皆、次の8階層がボス部屋だよ』

​「ボス部屋……【ミラージュ・リッチ】か。自分のコピーと戦うとは変な感じだが、強さはそこまででもねえって話だもんな?」


 ジョージが自分の短いヒゲを撫でながら、どこか楽しそうに言った。


​「それでもBランクパーティーが撤退したほどの相手だ。油断せずにいこう」


 トウマが冷静に声を掛ける。

 みんなは装備を素早く点検してポーションでステータスを整えると、8階層へと続く最後の階段を降りていった。



​◇


 ​古びた扉をギィ、と押し開けたその先。

 そこは、先ほどのジャングルとは全く違う───暗く静まり返った、巨大なドーム状の空間だった。


 ​天井はなく、まるで宇宙空間のように無数の星が瞬いている。

 床は鏡のように磨き上げられた黒曜石で、みんなの姿を不気味に映していた。


 ​その広間の中心に一体のモンスターの姿がユラリと浮かぶ──ボロボロのローブを纏う身長3メートルほどの巨大な骸骨。

 ボスの【ミラージュ・リッチ】だ。


 ​ミラージュ・リッチが骨だけの指を掲げてパチリと鳴らすと、奴の周囲の空間が歪み、やがて4枚の巨大な鏡が出現した。


 ​鏡の表面が波打ってトウマ、エマ、ハルカ、ジョージの姿をそれぞれ映し出すと──鏡の中から皆と瓜二つの「コピー」がヌルリと歩み出てきた。


​(聞いていた通り。まずはこのコピーを倒さないとな)



 ​そして戦闘が始まった。

 ​ジョージのコピーが短剣を構えて、本物のジョージに斬りかかる。

 だが、その動きはどこかぎこちない。


「へっ、見かけ倒しかよ!」

 ​ジョージがコピーの攻撃を、余裕を持って避ける。


「体が同じでも知識とアイテムがなくちゃな! 『麻痺蜘蛛の糸』と『重り石』を……【アイテム合成──拘束ボーラ】!」


 ​ジョージの持つ素材が一瞬で加工され、両端に重りのついたロープが生成される。

 彼はそれを自分のコピーに投げつけ、動きを封じると──バランスを崩したその胸に、迷いなく短剣を突き立てた。


 ダメージを受けたジョージのコピーが、光となって霧散していく。

 ​それを見たハルカのコピーが、慌てて回復魔法を詠唱しようとするが、


「──させない!」


 ​トウマがその隙を見逃さなかった。

 疾風のごとく間合いを詰め──聖剣がコピーハルカを両断した。


​「仲間の姿を斬るのは、あまり良い気はしないな……」

「私も、すごく複雑な気分よ……」

 と、複雑な表情のトウマとハルカ。


​「ですが、もうすでに敵はあと二人。私とトウマさんのコピーだけです……なんとかなりそうですね」

 エマが冷静に戦況を分析する。誰もが勝利を確信しかけた───その時だった。




 ​残ったトウマとエマのコピーが、攻撃を仕掛けるでもなくスッと後ろへ下がる。

 そしてミラージュ・リッチの前に立って、盾になるような動きを見せた。


 ​そしてリッチが、再び骨の指をパチリ──すると、奴の周囲に今度は5の新しい鏡が出現した。


 ​鏡の中に映るのは、希望の灯リバティファイアではない。


 屈強な装備に身を包んだ五人の冒険者──先日このダンジョンに挑戦し、撤退したBランクパーティー【ウォリアーファイブ】の姿だった。


​「まさか、ストックを出せるのかっ!?」

 トウマが信じられない様子で叫ぶ。


​(なっ……ミラージュ・リッチに、コピーの? そんな情報、聞いてないぞ……!)


​「召喚される前に、あの鏡を叩くんだっ!」

​「お任せです──【ファイアランス】!」

 トウマの指示にエマが即座に反応し、鏡を破壊しようと炎の槍を放つ。

 ──だがそれを防いだのは、エマのコピーだった。同じ無詠唱の火魔法で相殺され、爆風が視界を遮る。


​「くっ……間に合いません──っ!」


 ​そしてついに、五人のコピーが鏡の中から完全に召喚されてしまった。

 戦士たちのコピーが、ズラリと並ぶ。


​「チッ……だけどオリジナルほどの強さはねぇんだろ? 返り討ちにしてやろうぜっ!」

 ジョージが短剣を構え直し、威勢の良い声を上げる。


(そうだジョージ。予想外ではあるけど、コピーの性能はそこまで高くない。皆ならこのくらいは問題ないはずだ……!)


 希望の灯リバティファイアの皆が気を引き締めて武器を構えなおした、その時。



 ​───ドクンッッ。



 ​ダンジョンそのものが巨大な心臓のように、大きく一度だけ脈を打った。


 ​その直後。グラグラグラと、立っているのもやっとのような凄まじい揺れがフロア全体を襲い始める───。


​(これは……ダンジョンパニックの前兆じゃないか。一体どうなってるんだっ!?)

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