転生
新宇宙創成歴398年――。
――暗い。
初めに意識が戻った時、感じ取れたことは真っ暗な場所だと言う事だ。
――ここはどこだ……?。
意識が戻るのとは裏腹に周りの情報が何も入ってこない。
おかしいな、体はあるはずなんだが……。
――私は……確か……。
【アクシオン】の試験運用中に整備士に撃たれて……それからの記憶が無い。
「奥様、お顔を」
「この子……が」
「はい、元気な男の子でございます」
看護師が赤ん坊をベットの上に横たわる母親に手渡す。
――誰だ、そこに誰かいるのか……。
目を開こうにも上手く開かない、真っ暗なままだ。
「可愛い……」
「はい!とても可愛い男の子です」
――男の子?私の事か?。
なんの話かはわからないが、だんだんと目が開くようになってきた。
「カナタッ!」
病室のドアが勢いよく開く。
「旦那様、病院ですのでお静かにお願いいたします」
「は、はい」
肩で息をするドアを開けた男に看護師が言う。
旦那様と言う口ぶりから考えるに誰かの夫なのだろう。
――旦那様?いったい誰の事……うっ!眩しいっ!。
薄っすらと開いていた瞼が開き、病室の光が差し込んでくる。
「カナタ!その子が……」
「ええ、ワタシ達の子よ」
銀髪の女性に抱きかかえられながら私は顔を合わせる。
誰だ?本当に、見覚えも無ければ心当たりもない。
(誰だ、この人たちは……それに、なんだこの体の違和感は……)
母親は抱きかかえた我が子の顔を夫である男に覗かせる。
「可愛いな」
「ええ、とても」
赤子を抱いた夫婦が優しく微笑む。
我が子の誕生の嬉しさをかみしめているのだ。
(ワタシ達の……子供?まさか、私に言っているのか?今年で三十路を迎える私にか?)
目の前にいる男女の言葉が何を言っているのかわからないが、私に向けられた言葉である事だけは理解できた。
「エイド、この子の名前もう決めているの?」
「ああ、この子の名前はメビウスにしようと思っている」
「ふふ、いい名前ね。由来はどんなのかしら」
「僕たち二人からの【永遠の愛】って言う意味なんだけど、どうかな?」
「素敵な意味よ」
「本当か!」
「ええ、ワタシ達二人の愛から生まれた子ですもの」
(何の話だ……!?)
楽しそうに会話する夫婦をよそにアクシオンは状況が理解できていなかった。
(とにかく、声を出して……ん?)
声を出して自らの意思を伝えようとしたその時だった、アクシオンは男の瞳に映る自分の姿を認識した。
(こ、これは……!)
瞳に反射した私の姿は全身をタオルに包まれた泣きわめいている赤子の姿だった。
(なんだこれは!?まさか……転生と言うやつか!)
転生、言葉だけは聞いたことがある。一度死んだ生物が新しい生命と共に生まれ変わる現象だ。
(あ、ありえない、転生と言うのは宗教やフィクションの話ではないのか!?)
宗教や創作、まれに死後の世界の話題なんかで転生と言う話は上がっていたが、そんな物気にしたことが無かった。
にわかには信じられないが私は転生と言うものを身を持って体験している。これは現実だ。
(と、とにかく私の、このゼネラル・アクシオンの存在を伝えなければ……!)
言葉は伝えられない。ならば行動で伝えるほかない。
(頑張るんだ私っ!頑張って体を動かすんだ!)
「ふふっ、可愛い」
「ああ」
(……ダメだ、この体では何もできない)
よく考えれば当然のことだ。生後数間もない赤子の行動の意味など理解に苦しむ。仮に理解できたとしても、それは意志に基づいてものではなく体調に基づいた推測でしかない。
(まあ、いいか。どうせ前世の私は死んだのだ、なら今世は別の生き方をしよう)
それはそれ、これはこれだ。
前世の肉体が死んで魂?と言う物が転生しているとするならば、今世では別の生き方をするのもいいかもしれない。
ただ、一つ気がかりな事がある。
(ジークとの約束、どうなったかな……)
前世で親友とした”約束”それだけが心残りだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます