丁寧な生活をしたかった。だから、ヨガマットを敷きっぱなしにする事にした。
二八 鯉市(にはち りいち)
朝活、白湯、ヨガ。とても丁寧な生活だ。
きっかけは、腰痛になってしまったことだった。
昔、「うっひょぉおスクワット楽しいぃいい!」とスクワットにハマっていた頃になって以来の腰痛だった。
結果から言うと腰痛の原因は、転職をして作業内容・環境が変わったことだったのだが。
接骨院に通ううち、あらゆる先生に、
「いや、これやばいっすね」
と言われる骨盤の持ち主だったことを知った。
ということで、ヨガを再開した。
もともと、「なんか暇だしちょっと今日丁寧な生活したいからやるかー」ぐらいにやっていたヨガだったが、習慣にしていくことにした。
だが。
ヨガって、生活に根付かない。
『1日10分でいい』と思う自分が居るのと同時に、『10分って意外と時間とれないんだよなー、スマホでショート動画見たいじゃん』と思う自分も居る。
だから、ヨガと言うものは私の生活には中々根付かなかった。
だが、身体の柔軟性の為に『すべきである』という事も重々承知だった。悩む日々。そしてある日、気が付いた。
「これあれじゃないかな、やっぱり買った方がいいんじゃないかな。ヨガマット」
A●azonで貯まっていたポイントを使って購入した。
こうして税込3000円ぐらいで、丁寧な生活の道具を一つ手に入れた。
***
さて。
ヨガマットが届き、
「ふんふんこういう手触りね」
と色々試す私の頭の中には、一つ、ちょっとした不安があった。
「これで長続きしなかったらマジで3000円が無駄になる」
そう、こういう時に形から入るとロクな目にあわないという人生経験は苦く残っている。
どうやったらヨガを続けられるだろうか。
苦肉の策、日々の思案の先にたどり着いた答え、それは。
「なんか多分、毎朝10分やらなきゃってのが苦痛なんだよな」
「むしろ1分でもやったら偉くない?」
「いやでも、1分の為だけにヨガマットを敷いたり片付けたりするの流石に苦痛すぎんか」
「……いや待てよ。」
「ていうか、ヨガマットっていちいち片付けなくてもさ。敷きっぱなしにしといたらよくね?」
それは、逆転の発想であった。
***
今日も、朝が来る。
目覚ましのアラームを5分早くセットすることにした。
私はとんでもなく朝が弱い人間なので5分でも長く寝ていたいタチなのだが、たった5分でも早く起きると、心にゆとりが生まれるのだ。
そうして新鮮な朝の空気、日光を浴びながら、まずは白湯を淹れる。
電気ケトルが沸くまでの間に顔を洗い、美容マスクを装着。
この美容マスクの装着目安は1分とある。
素早くタイマーをセット。
そして1分だけ、ヨガをやる。
ヨガへの移行はシームレスである。
何故なら。
床に、ヨガマットが敷きっぱなしだからである。
ぴぴぴぴ、とタイマーが鳴るので1分のヨガを終える。
正直、ヨガを1日1分やったところで効果があるのかないのかは微妙なところではある。科学的に検証すると「いや、うーん……」かもしれない。
ただ。
ヨガ、やってるのである。
1分だけど、やってるのだ。
そして私はマスクを外し、白湯を飲む。朝日を眺める。今日も朝を迎えられたことに感謝し、仕事が無事に終わり1日を終えられることを祈る。
こうして紡いでいく丁寧な日々は、私にひとつの新たな気付きを与えてくれた。
敷きっぱなしにしたヨガマットは、ごろごろしながらスマホでショート動画を観るのに丁度いい、という事を。
<終>
丁寧な生活をしたかった。だから、ヨガマットを敷きっぱなしにする事にした。 二八 鯉市(にはち りいち) @mentanpin-ippatutsumo
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