第2話 未来が二股に分岐した日

大学の中庭で三方向から告白フラグが爆発した、その直後。


 私は——硬直していた。


 ローレンスは花束を差し出したまま固まり、

 新は耳まで真っ赤になり、

 背景では「なにこれドラマ?」みたいな視線が突き刺さる。


「えーっと……その……みんな、いったん深呼吸しよ?」


 そう言った瞬間。


 スマホがブチッと嫌な音を立てて、画面が黒くなった。


【エラー:恋愛分岐が同時発生】

【現在、未来は“二本の可能性”に分裂しています】

【どちらかを確定させてください】


「分裂って何!? 私の人生そんなシステム分岐するタイプだったの!?」


 画面には二つのタブが表示される。


A:新ルート


【幼なじみ。告白寸前。

ただし“あなた自身が進行を妨害”しています】


B:ローレンスルート


【秀才。あなたに好意を表明済み。

ただし“未来変動が激しく安定しません”】


「いやいやいや、どっちとか決める以前に、なんで私が邪魔してるってことになってるのよ!」


「美波? 本当に体調大丈夫か?」

と新が覗き込んでくる。慌ててスマホを背中に隠す。


「だ、大丈夫!!」


 しかしローレンスも一歩詰め寄る。


「美波さん、今日こそ言わせてください。

 僕は、あなたが——」


「ストーーーーップ!!!」


 未来予知アプリが警告を連打する。


【Aルート:告白発生まで5秒】

【Bルート:告白発生まで5秒】

【同時告白は世界線衝突の原因となります】


「世界線衝突って軽く言わないで!? 私の人生クラッシュしないで!?」


 もうパニックだ。


 私は無意識に、自分のスニーカーで地面を蹴った。


 逃げ出したいわけじゃない。

 ただ——このままじゃ二つの未来が同時に私にぶつかってくる。


「美波!!」

「美波さん!!」


 二人の声が重なった瞬間。


 再びアプリの画面が変わった。


【あなたの現在の行動:“逃走”】

【世界線の揺らぎを検知】

【第三の未来が生成されました】


「第三!?」


 タブが増えた。


C:独立ルート(NEW)


【恋愛から離れ、自分自身の選択を優先】

【現在、あなたの選択傾向:このルート】

【他キャラの恋愛フラグが混乱中】


「ちょっと待って。

 私、そんな“キャラ崩壊みたいなルート”選んでないんだけど!?」


 混乱している私を追って、

 スケボーを抱えた新が走ってくる。


「美波! 言えてなかったけど……

 オレ、お前に——」


 その瞬間、ローレンスも追いつき、肩で息をしながら叫ぶ。


「僕だって……今日こそは伝えるつもりで……!」


 ——未来予知アプリが震える。


【危険:恋愛三重交差点】

【この先“重大イベント”が起こります】


「重大ってなに!? また分岐!? ゲームオーバー!?

 どれもイヤなんだけど!!」


「美波!」

「美波さん!」


 二人が同時に手を伸ばしてくる。


 スマホが震える。


【あなたは次の10秒で、3つの未来のうち“どれか”を強制選択します】

【選択しない場合……自動決定】


「自動はやめてぇぇぇ!!!」


 そこへ突然、

 建物の陰からひょっこりと現れた人物がいた。


「やっぱりバグってたか。《NEXTVUE》の恋愛アルゴリズム」


 白衣にパーカーを着た、妙に軽そうな青年。

 指先には私たちのアプリとそっくりの端末。


「あなた……誰?」


 青年は笑う。


「開発者だよ。

 君の“未来予知バグ”、直しに来た。」


 その瞬間——未来の分岐タブが、

全部ひとつの光の塊になって弾けた。

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