第5話 初戦闘、初覚醒。

「な、何やってるのイオリちゃん!? 早くこっちへ……!!」


「母さんは来るな!!!」


 叫ぶと母さんがビクリと体を震わせた。その隙にカマキリ亜幻ファントムに向かって走る。


「うああああああああ!!!」


「ギィ……?」


 よし。大声を上げたからか、亜幻は俺しか見ていない。アイツの意識を母さんから引き剥がせた。


 今の俺は子供だ。アイツは化け物。普通なら絶対敵わない。だけど、俺にはアレ・・がある。


 視界の隅に蒸気が見える。俺の関節から湧き起こる水蒸気が。


 あの無能力を宣告された日から4年。自分なりに能力と向き合った。そして俺はある事・・・に気付いた。感情が昂った時、俺は自分の限界を超えた力が発揮できることに。あの能力を使えば子供の姿だって……!!


「ギィィイイイイ!!」


 カマキリ亜幻が右腕を構える。さっき見たヤツの動きを思い出す。あの鎌を振るって空間が歪んだ数秒後、離れた場所にいた人達が深い傷を負っていた……という事は、あの攻撃は真空の刃のような力のはず。範囲が広い刃は左右どちらに逃げても避けられない。


 だったら……!!


 俺はアイツの狙いを人のいない方向に誘導しながら、ヤツの鎌攻撃のタイミングを測る。


「ギィ!!!」


 カマキリ人間が鎌を振るう。歪む視界。俺は、体勢を低くして地面を蹴った。


「嫌ぁアアアアアアアア!!?」


 母さんの叫びが聞こえる。俺は死ねない。死んだら母さんと父さんが悲しむ。だけど……母さんが死んだりしたらもっと嫌だ!


 俺は……死なずに母さんを守って見せる!!


 俺の頭上で甲高い音が聞こえ、とてつもない風圧が吹き荒れる。瞬間、背後で金属が叩きつけられるような音がした。横目で見ると、案内板が真っ二つに引き裂かれているのが視界に入る。


 よし、母さんを庇った時と同じだ。アイツの斬撃は薙ぎ払った腕の軌道に沿って放たれる。それが分かれば対処もできる……!!


 すぐさま立ち上がって走り出す。怖いとか、逃げたいとか、色んな感情がぐちゃぐちゃだ。だけど、今俺が何もしなかったら母さんが……それを思うと、俺の体はまだ動いた。


 全力で走って亜幻の足元に飛び込み、全身のバネを使って大地を蹴る。俺の膝関節から蒸気が沸き起こり、大地を蹴る足に力をくれた。


 脳裏に父さんと組み手をしている時の言葉がよぎる。


 ──いいか一織? お前は子供だ。普通に戦えば亜幻には勝てない。もし万が一亜幻と遭遇してしまったら。逃げる事ができなかったら……どんな事をしてもいい。躊躇わず攻撃しろ。


 人の形を模した亜幻は人と同じ急所を持つ。人体の急所を突くんだ。顎、頸動脈、みぞおち、腱……どこでもいい。それを突く事が自分を守る事につながる。


 イメージしろ。父さんが教えてくれた技を……!!


 地面を蹴った反動を利用して飛ぶ。周囲の粒子が俺の体に吸い込まれる。瞬間、全身の関節という関節から水蒸気が湧き上がる。あの感覚。力が使える感覚だ。



「うおおおおおお!!」



 意識を右脚に集中。カマキリの顎めがけて空中で横に回転するように蹴りを放つ。視界の隅で水蒸気が螺旋の軌道を描いているのが見えた。


 俺が今出せる全力。その一撃がカマキリ亜幻ファントムに──直撃する。


「ギアアアアアアアア!?」


 顎に直撃した蹴りでカマキリの顎を砕く。そのままヤツの体を巻き込むように、亜幻を地面に叩き付けた。


「ギイ゛ィィイイイイイ!?」


 カマキリ亜幻が血走った目で俺を睨み付ける。ヤツが立ち上がりながら左腕を薙ぎ払う。今の攻撃で弱体化したのか、不可視の斬撃は空間の歪みによる斬撃だとハッキリと視認できるようになっていた。


 斬撃は俺の腰の高さ。今度は下を潜って避けられない。不可視の斬撃を飛んで避け、周囲を走る。ヤツは、俺を追うように不可視の斬撃を放ち続ける。背後で聞こえる金属音。様々な物体が切り裂かれる音。俺は、全力で駆け抜けながら、攻撃のチャンスをうかがう。


 耐えろ。ヤツが隙を見せるまで……!


「ギイイイイイイ!!!」


 何度目かの斬撃を飛んで避けた瞬間、空中にいる俺を狙ったようにさらなる斬撃が襲いかかる。左右の鎌による二連斬撃。空間の歪みに背筋が凍る。空中で無理やり体をのけ反らせると、前髪が斬撃に切られ、空を舞う。危なかった……。


 カマキリ亜幻は怒り狂い。両手を高く掲げた。


 大技を使うつもりか?


 カマキリ亜幻の両腕に大気が集約されていく。感覚的に、あの粒子が溜まりきるまで次の攻撃は来ないと思えた。ヤツを倒すなら今しか無い!


「うおおおおお!!!」


 着地と同時全力で駆け抜ける。


 全力だ……! 後の事は考えるな!! ここでアイツを仕留める……!!


 駆け抜けながら全身の関節から水蒸気が噴き上がる。次の斬撃が来る前に跳躍。今まで出した事のない超加速でカマキリ亜幻のみぞおちに蹴りを叩き込む。


「ギアアアアアアアア!?」


 カマキリ亜幻が地面を滑るように転がり、壁にぶつかって止まる。俺はその様子を着地した姿勢のまま見ていた。ビクビクと痙攣するカマキリ亜幻。ヤツは何度か立ちがろうとしたけど、やがて動かなくなった。



「はぁ……はぁ……」



「今のうちだ! 異能協会を呼べ!!」

「に、逃げた方がいいって!!」

「子供が戦ったんだぞ! 大人の俺らがビビってどうすんだ!」


 遊園地の中がが大混乱に包まれる。その中心で、俺は肩で息をしていた。


「あぐっ!?」


 全身に電流のような痛みが走り、膝を付いてしまう。無理しすぎた……頼む。動くなよ亜幻ファントム……。





「ギィィ……ッ」




 カマキリ亜幻がバチリと眼を開く。まだヤツが生きていた事に固まってしまう。ヤツは、顎から血をボタボタとこぼしながら血走った目で俺を睨み付ける。


 どうする? もう動けないぞ……。



「ギ、ギ、ギィィ……!! ギアアアアアァァァァッ!!!」



 絶叫。カマキリ亜幻の周囲に何重もの歪みが生まれる。アスファルトや鉄骨にまで斬撃が直撃し、周囲はズタズタになっていた。これ以上暴れさせたらマズイ。俺が何とかしないと。


「ギィ!!」


「しまっ……!?」


 周囲に気を取られてしまった瞬間、カマキリ亜幻は背中の羽を開いて突撃し、俺の首に鎌の裏側を押し当て、壁に叩き付けた。


「ぐっ……!?」


「ギアアアアアァァァァッ!!」


 カマキリ亜幻は、左腕で俺を押さえ付けたまま、右腕の鎌を薙ぎ払う。複数の歪みが生まれ、周囲に斬撃が飛ぶ。ヤツは、俺に見せつけるように広範囲の攻撃を放った。


 母さん……っ!?


 周囲で様子を伺っていた人達が一斉に逃げ出す。カマキリの攻撃に巻き込まれていないか必死に母さんを探す。すると、人の波に飲み込まれながらも母さんは、俺に向かって必死に手を伸ばしていた。


「イオリちゃん!! イオリちゃん!!」


 ……良かった。母さんは無事だ。


「……ギアアアアアァァァァッ!!」


 カマキリ亜幻は、俺が怯えていない事に怒りを感じたのか、その狂気に満ちた眼を俺に向けて来た。カマキリの顔面が目の前に迫る。怖い。だけど、今は俺しかいないんだ。俺がやらなきゃ……! なんとかコイツの手から逃げないと。


 必死に頭を回転させている時、カマキリの背後にあるもの・・・・が見えた。



 あれは……。



 カマキリに気付かせないように俺は、ヤツの顔面に頭突きを放った。


「ギアァッ!!?」


 激昂したカマキリ亜幻は、人間の口に牙が生えたような口を大きく広げ、俺の肩に喰らい付く。


「ぐうううう……!?」


 顎を砕いたおかげで噛みちぎられはしない。だけど、痛いのは間違いない……俺の中にいる子供の自分が泣きそうになる。それを必死で大人の俺の意識が支える。泣くな俺、母さんを守りたいんだろ? 今は耐えろ。


「ギィィ……!!」


 顎では俺を殺せないと悟ったカマキリ亜幻が、俺を殺そうと鎌を振り上げる。一切目を逸らさない。その腕が振るわれようとした時──。


「おい」


 声がした。よく知っている声。安心する声。その声にカマキリ亜幻が気を取られた瞬間、その首筋、頸動脈に蹴りが叩き込まれた。


「オラァッ!!」


「ギッ!?」


 声ともならない声をあげ、カマキリが空中に浮き上がる。俺を掴んでいた腕が離され、俺は地面に落ちた。スローモーションのようになる世界。そこで正面に目を向けると、空中に浮かぶ男を捉えるように、スーツ姿の人物が脚を天高く上げていた。


「俺の子に何してやがるっ!!!」


 スーツの人物──父さんは、怒りの形相で男に踵落としを叩き込む。長年培われた技術の結晶。光を放つ鋭利な一撃。地面に頭から直撃したカマキリは、俺があれほど倒すのに苦労したカマキリ亜幻は、アッサリと霧になって消え去った。


「異能協会だ!! 動ける者は手を貸してくれ! 怪我人の応急処置をする!!!」


 人々が父さんの声で混乱から立ち直り、1人、また1人と怪我人の元へ駆け寄っていく。父さんが警備員達に指示を出す。その光景をぼんやりと眺めていたら、不意に誰かに抱きしめられた。振り返ると、母さんが泣きながら俺を抱きしめていた。


「イオリちゃん……良かった……良かったぁ……」


 母さんから香る甘い匂い、それに安心した瞬間、俺の意識が朦朧としてくる。いつの間にか側に父さんがいて、頭を撫でてくれる。意識を失う瞬間、俺は父さんにこう言われた気がした。



 がんばったな。と。




◇◇◇


 一織が巻き込まれたカマキリ亜幻の事件はニュースに取り上げられ、瞬く間に世間に知れ渡った。


 人混みの只中に亜幻が現れたという事実。大きな被害が出た事に日本中が震撼した。


 しかし、それと同時にもう一つのニュースも取り上げられた。


 たった6歳の少年が亜幻と戦ったというのだ。そして、彼の決死の戦いによって、怪我人こそ出たものの、かろうじて死者を出さずに済んでいた。


 異能協会の意向によって少年の素性は明かされなかったが、世間はこぞって一織の素性を調べようとした。物珍しさで調べる者から、一織の秘密を解き明かそうとする者まで。



 しかしそんな中、世間が彼に向ける好奇の目と異なる視線を向ける者がいた。



「見つけましたわ。わたくしの運命の人……!」



 渋谷から少し離れた高級住宅街。その一画にある屋敷で、1人の少女がモニターを見ていた。


 年齢は一織と同じ頃合いか。長い黒髪を揺らしながら、彼女が深くため息を吐く。


『母さんは来るな!!!』


 彼女の視線の先には、一織がカマキリ亜幻に向かって走り出す映像が。異能協会より共有された記録映像。本来なら一般人が閲覧できない情報を、彼女は目にしていた。


「子供の身で次元震度3の亜幻ファントムに立ち向かうなんて……怖かったでしょう、恐ろしかったでしょう……それでもなお誰かを守ろうとした純粋なる想い、素敵ですわ……!」


 少女は胸に手を当てハラハラと涙を流す。その潤んだ瞳には確かな熱がこもっていた。


葵璃朱アリスお嬢様。ご機嫌がよろしいですね」


「当然です。私と同じ年齢で第一級異能者になり得る人材を見つけたのですもの」


 両手を頬に当てた少女はウットリした目で画面を見つめる。その瞳に、少年の後ろ姿が映されていた。


「黒川。この方の身辺調査をなさい。徹底的に。必ず見つけ出すのです」


「では、異能協会上層部に掛け合ってお嬢様を彼との接触係にして頂きましょう」


「どういう事ですの?」


 黒川と呼ばれた女性は不適な笑みを浮かべる。


「お嬢様が一目置かれる者であれば、必ず協会も評価しているはず。異能資格試験の推薦状が出るでしょう」


「なるほど! それを私がお届けすれば……ふふっ、出会いの口実は完璧ですわ〜! くれぐれもよろしく頼みますわね! 黒川!」


「はっ!」


 黒川は背筋を正すと、部屋を後にした。


「待っていて未来の旦那様・・・・・・! 葵璃朱アリスが必ず貴方をお迎えに上がりますわ!」


 それは、異能協会で知らぬ者はいない少女であった。


 若干6歳でありながら、第一級異能者「雷姫らいき」の二つ名を持つ少女、白金しろがね葵璃朱アリス。彼女は決意を込めた瞳で想いをたぎらせる。



 名も知らぬ少年への想いを。




―――――――――――

あとがき。


次回、事件の影響で記者に追い回される一織の元に謎の少女が……!しかもいきなりプロポーズされて……?


 面白かった、先が気になると思われましたらぜひ⭐︎⭐︎⭐︎評価をお願いします。お手数おかけしますが、作者のモチベが爆増しますので……どうかどうか、よろしくお願いします……!!


⭐︎⭐︎⭐︎評価はこの次のページの「⭐︎で讃える」よりお願いします!

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徒手空拳の怪物異能〜現代異能バトル世界に転生した俺、努力しすぎて人類最強の英雄になってしまう〜 三丈 夕六 @YUMITAKE

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