世界中でただ一人、幸福な私は
長月瓦礫
世界中でただ一人、幸福な私は
世界中でただ一人、幸福な私は誕生日を迎えた。
今日は私の誕生日、それだけで幸せだ。
プレゼントをみんなで持ち寄って、みんなで遊んで、ケーキをみんなで食べる。
たったそれだけ、それでいい。
「お誕生日おめでとう!」ってみんなから言われるだけで嬉しい。
今日は私の誕生日、きっといい日になる。
そう思っていたのに。
「……」
冷蔵庫を見た私は、一度閉めた。
もう一度開ける。卵がない。
とりあえず、ケーキだけでも作っておこうと思っていたのに。
私は冷蔵庫の戸に手をかけたまま、思わず崩れ落ちた。
「嘘でしょ……」
本題に夢中になってて、頭から抜け落ちていたかもしれない。
今から買いに行くしかないだろうか。
まだ材料を測り始めただけだし、大丈夫か。
コートを着て、扉を開けた瞬間、彼が立っていた。
私と同じ色の目をした、大好きな彼だ。
「あれ、どうかしました?」
「……早いですね」
「まあ、暇だったので来ちゃいました」
嬉しそうに笑って、私を抱きしめた。
冷たい手で私の頭を撫で、どこか満足そうな顔でじっと見つめてた。
冷たい風が玄関から抜けてきて、部屋の熱を奪っていく。
「うん、これにしてよかった。よく似合ってる」
いつの間に、髪飾りを付け替えていたらしい。
髪につけていたバレッタを握らせる。
「まあ、他にもいろいろあるんですけど。渡せるものはいまのうちに、ね」
リボンらしい何かが手に触れる。
子どもの頃、つけていたのを思い出す。
「あ、そうだ。卵を買いに行かないと……」
「ハイ、なんかそんな気がしたので。買ってきました。
まあ、後は適当にお菓子とか。酒は他の連中が持ってくるでしょうし」
彼は卵のパックを私に手渡された。
なんという偶然だろうか。この人には本当に敵わない。
「ありがとうございます。
これから買いに行こうと思ったんです。
助かりました、本当に」
「そりゃ、よかったです。
思っていた以上に早く来ちゃったみたいなので、なんか手伝いますよ」
ようやく玄関を閉めて、コートを脱ぐ。
「これからケーキを作るところだったんです。
もう準備はできているので、あとは混ぜるだけです」
「言ってくれれば、買ってきたのに」
不思議そうに首を傾げている。
このやり取りも毎回、やっている。
「これくらいは自分でやりたいじゃないですか。
他のみんなも何かしら買ってくるんでしょう?」
「いや、あの人たちは酒飲む口実が欲しいだけだと思うけど……まあ、いいか」
二人きりなのも今だけだから、その時間も楽しまないと。
私は彼の背中を押しながら、キッチンに向かう。
世界中でただ一人、幸福な私は 長月瓦礫 @debrisbottle00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます