🐔 トリさん、クリスマスのシャケ革命! ~ ​聖夜の食卓に革命!チキンを奪う鳥現る!? ~

月影 流詩亜

第1話 聖夜の侘しさ、そして「王道」

この作品はフィクションです。


─ 実際の人物・団体・事件・地名・他の創作ドラマには一切関係ありません ──


 ​12月24日、夜の十一時


 ​Web小説サイト・カクヨムの物書き、ペンネーム月影つきかげ、五十㊙️歳。白髪交じりの短髪に、しわの増えた目元。ボロアパートの六畳間に、彼は作務衣姿で胡座をかいていた。


 ​窓の外は冷たい雨が降っている。雪ではないところが、いかにも師走の千葉らしい。月影は電気ストーブの前に陣取っているが、壁が薄いせいか、ストーブの熱も虚しく、部屋全体に冷気が停滞している。


 ​彼の目の前には、薄暗い部屋の中で光を放つスマートフォン。

 老眼には厳しいが、慣れた指先でフリック入力し、歴史・時代小説の最新話の校正を行っている。


 ​「……うむ。『血の匂いのする時代だというのに、風流を気取る余裕などあるものか』

 この一文は、信長の非情さをよく表しているな」


 ​ そう独りごちて、月影はスマートフォンの画面を指でスクロールさせた……疲労がどっと押し寄せる。

 歴史・時代小説をカクヨムに投稿し続けて早数年。 新しい技術に馴染めずPCは諦めたが、スマホならどこでも執筆できると、このスタイルを貫いている。


 ​フゥー、と深く息を吐き出す。


 創作の道は孤独だ、特にこんな夜は……

 ​世間はクリスマス・イブ、ネットニュースを見れば、若者たちの華やかなパーティーの話題で溢れかえっている。

 月影にとって、年末の祭りごとは、三十代の頃の徹夜続きの料理人時代を思い出す、忌々しい記憶でしかない。

 ​だからこそ、彼は今日、ささやかな抵抗の儀式を準備していた。


 ​「良し、戦は一時休戦だ」


 ​スマートフォンを脇に置き、月影は机の上に目をやる。

 ​そこに置かれているのは、スーパーの惣菜コーナーで閉店間際に割引シールが貼られていた骨付きのローストチキン、一本。そして、陶器の徳利と猪口に入った、二級品の熱燗あつかん


 ​「ふふ。俺の時代の聖夜は、これで十分だ」


 ​ 月影はチキンを手に取った。

 冷たいが、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

 チキンは、若者だけの食べ物ではない。

 この歳になった男が、誰にも邪魔されず、静かに酒を飲み、チキンをかじる。

 これこそが、この老練な自称小説家にとっての、最高のクリスマスの王道だった。


 ​ローストチキンにがぶりとみつこうとした、その瞬間だった。


 ​ ビュオオオオオ!!!


 ​窓の外から、けたたましい風切り音のような轟音が響いた……ただの風ではない。

 何か、巨大で、重いものが高速で羽ばたいているような音だ。

 ​ボロアパートの木枠の窓ガラスが、ガタガタと激しく震え出す。


 ​月影は驚いて動きを止めた。


「……何事だ? このアパートが風で倒れるというのか?」


 ​そして、次の瞬間、奇妙な現象が起こる。

 ​チキンの横に置かれていた、徳利の中の熱燗が、突然「グツグツ……」と低い音を立て始めたのだ。

 まるで、誰かに強力なマイクロ波を浴びせられているかのように、湯気が濛々と立ち上る。


 ​「むっ? 熱燗が……沸騰している?」


 ​月影が湯気の向こうに目を凝らすと、障子に巨大な鳥のような影が、ぴたりと張り付いていた。

 影は分厚く、外の街灯の光を完全に遮断している。


 ​「狐狸の類か! それともぬえの仕業か!?」


 歴史​時代小説家らしい、やや大仰な言葉で月影は身構える。彼は無意識のうちに、脇に置いていた木刀(時代考証用)に手を伸ばした。


 ​その時、影が窓に触れた。


 ​ カチーン!!


 ​電子音のような、それでいてコミカルなギミックが作動するような金属音が部屋の中に響き渡る。


 強烈な閃光と共に、月影は思わず目を閉じた。



 ​ ── 続く ──



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