「戻してきなさい。」



笑顔をひきつかせながら、声を荒げずにお母さんは僕に言った。

胸元に抱いているユキメ(雪女に名前をつけた)はそんなお母さんの言葉を聞いて不安になったのか、僕の服をギュッと掴み見上げてくる。



大丈夫だよ、という言葉の代わりにユキメを撫でながらお母さんを見る。




「お母さん。調べたんだけど`雪女`は大事にすると手もかからなくて、よく懐くらしいんだよ。」



僕の言葉に、調べてまでちゃんと育てる気はあるのかと目を丸くするお母さんと、何を考えてるのか腕を組んでうんうんと頷くお父さん。




「この間の猫と違って、調べてまで飼おうとしてるんだ。認めてやってもいいんじゃないか?」




お父さんからの助け舟に、つい目をキラキラさせて

「僕、ちゃんとするから!」とユキメを抱きかかえてるのも忘れて身を乗り出す。


ギュっと締め付けちゃったのが不快だったのか、腕の中でモゴモゴと蠢くユキメに「あっごめん」と腕を緩める。



緩めた腕から、いつもご飯を並べるテーブルにぴょんと飛び乗るユキメ。


もう、痛かったんだからね!と言わんばかりに全身で僕に抗議をする。



「ハッハッハッお母さん、この子もよく坊やに懐いてるじゃないか。ちょっと苦しくされても仕返しをしないし、面倒見るならいいんじゃないか?」


そんな僕達を見て、お母さんはため息を吐いて

「…ちゃんと面倒見るのよ。」と苦笑いしながら了承してくれた。


こうして両親公認の元、ユキメがいる生活が始まったのだった。








しかし、僕達は思い至らなかった。

なんで`雪女`がパソコンで調べてすぐ飼い方なんてものが出てきたのか。

周りに犬猫以外に何かを飼ってる人なんていないのに、人間みたいな生物を僕みたいな小学生が飼うことを両親がどうしてすぐ了承したのか。










「もし、こちらで丙種特異体、【雪女】の幼生体を飼育していると通報を受けて訪問したのですが……あぁ、そちらが【雪女】ですね。早急にこちらに引き渡していただけると幸いです。」










突然訪問してきた、スーツを着た偉そうなお兄ちゃんが、僕が抱きかかえているユキメを見ながら手を差し出して来ても、『どうして?何この人?』と疑問しか浮かばなかった―――。

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