第22話 対峙
しばらく、にらみ合いが続いた。
実力が拮抗しているために、下手に動くことが出来ない。
イズレが苦々しげに呟く。
「はあ。人の初陣を邪魔して楽しいですか?」
「……初陣」
そうだった。
イズレは、歳の離れた妹だ。あやめとは六才離れている。
今のイズレは、東條家の女が祓魔師としての初陣を迎える適齢期だ。
「ごめん。でも、あの子は祓わせるわけにはいかない」
「はあ? アヤカシを祓わないだけじゃなくて、庇うとか……おかしいんじゃないの」
イズレが素早く、短刀を納めた。
そのまま、流れるように巫女服の懐に右手を突っ込む。
「悪いけど、荒っぽくいきますよ。巻き込まれたくなかったら、そこどいて!」
(い、いけない!)
イズレの懐から出てきたのは、短筒と呼ばれる銃だった。
祓魔に適した銀の弾に、東條の血を塗りつけてある。込められている銃弾は六発。
少しも躊躇せずに、イズレは短筒の引き金を絞った。
狙いは──あやめの背後にいるルシャとユキさんだ。
いや。
放った銃弾が、あやめに当たっても構わないとすら思っているのかもしれない。
「……っ」
たん、と銃声が響く。
ルシャとユキさんが隠れているジャングルジムを庇うように、あやめは大きく手を広げた。
『何をしやるか、あやめ!』
「おねえさんっ」
二人の悲鳴が聞こえる。
あやめは思わず瞼を強く閉じた──のだけれど。
「え……?」
痛みはない。
背後にいるルシャたちにも、異変はなさそうだ。
そして、何より奇妙なのが──イズレからの追撃もない。
あやめが目を開けると、そこには。
「うちの助手に、ずいぶんなことをしてくれるね」
「た、龍彦さん!?」
気障なパナマ帽に生成り色のスーツ。
梅雨の夜闇に、楢崎龍彦が立っていた。
短筒を構えていたイズレの腕を、背後から捻り上げている。
「あやめ君は、本当に見ていて飽きないね」
龍彦が微笑む。
イズレが驚愕の表情を浮かべている。
「な、 なんなの、誰ですか!?」
「ええっと……お互いの自己紹介をする気分じゃないかな」
龍彦は背広のポケットから、名刺大の紙を取り出して──中空に放り投げた。
「あやめ君、目を閉じて」
「え」
言われたとおりに目を閉じた瞬間。
イズレの悲鳴が聞こえた。
「きゃあ!」
「閃光符だよ……さあ、こっち!」
「は、はい!」
龍彦に腕を掴まれて、あやめは走り出す。
温かくて、大きな手だ。
龍彦は気づかないうちに、ルシャを小脇に抱えている。
路地を走り、イズレから逃げる。背後から、よろめきながらも追ってきている足音がする。準備を万全に整えた祓魔師の追跡能力は高い。逃げ切れるだろうか、とあやめは不安に駆られる。
『まったく、世話が焼けるのう……ほりゃ、こっちじゃ』
ユキさんがあやめたちの前に躍り出て、路地の先で宙返りをした。
青い光が、あたりを照らす。
カクリヨに繋がる、青鳥居だ。
「ありがたい!」
龍彦が、青い鳥居に飛び込んで消えた。
腕を引っ張られて、あやめもその後に続く。
ゆあん、ゆあん、と視界が揺れる。あやめはぎゅっと目を閉じる。
(逃げきれた……?)
どきどきと不愉快に暴れる心臓を抑えて、あやめは後ろを振り返る。
すでに背後には、カクリヨの夕日に照らされた景色が広がっていた。
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