資料集 ハイルベン王国―中央研究院 図書保管庫―b


        「ハイルベン王国」

      中央研究院図書保管庫内

      収蔵された公式調査資料


《中央研究院保管資料》

文書番号:HB-ARC/PH-03

分類:世界史/原初文明研究

件名:理念文明崩壊後における大陸構造および五行体系の形成過程

編纂:ハイルベン王国中央研究院・世界構造解析部

閲覧区分:準制限資料


概要

本資料は、理念文明崩壊後からハイルベン建国成立以前に至る期間について、現存する記録・遺構・口承・紋章反応測定をもとに再構成したものである。

特に以下の事項を対象とする。

・大陸構造の変遷

・五行信仰および原初紋章の分布

・氷河期以降の文明分岐

・各氏族成立過程

・紋章宿主の発生時期と断絶

なお、氷河期以前の事象については記録欠損が著しく、仮説を含む。


I.大陸構造の変遷について

1. 原初大陸仮説

複数の地質層・古文書・紋章片分布解析より、

現存する大陸群はかつて単一の巨大陸であった可能性が高い。

この時代は便宜上、「前氷河期世界」と分類される。

2. 氷河期と分断

前氷河期の末期、世界規模の寒冷化が発生。

これにより地殻変動・海進・地形断裂が連鎖的に起こり、大陸は複数に分断された。

現在確認されている主要大陸は以下の通り。

アルベール大陸(中央)

ルルゴア大陸(北西)

※他にも小規模大陸・群島の存在が推測されるが、本資料では割愛する。


II.自然信仰期と五行概念の発生

氷河期以前から、世界各地において

「五行」に類似した自然信仰が確認されている。

この段階では、神格・体系・組織は存在せず、自然現象そのものへの畏怖と祈りに近い。


III.第二文明期と五行体系の萌芽

第二文明期に入ると、記録・観測・象徴化が始まり、

五行は「体系」として整理され始める。

ただしこの時点では、紋章の継承法は未確立

宿主は不安定・一代限り、あるいは短期的な発現が多いとされる。

特記事項:大地の紋章

現存資料によれば、

第二文明期において「大地の紋章」は既に宿主を得ていた

とされる。

ただし以下は不明である。

宿主の名

活動期間

消失理由

その後の影響

地質変動との関連性が示唆されるが、公式には因果関係は認められていない。


IV.氷河期後の文明分岐

氷河期終結後、人類文明は明確に二方向へ分岐する。

A.理念文明圏(後のルルゴア大陸)

自然現象を観測・定義・記録する思想を発展させた地域。

世界を「理解する対象」と捉える

観測と理論を重視

五行信仰は次第に抽象化

最終的に理念紋章体系へ到達

この系譜は後に理念文明として完成するが、同時に世界から乖離していくこととなる。

B.五行信仰圏(後のアルベール大陸)

自然との共存を重視し、

五行を生活・祈り・共同体の基盤として保持した地域。

理念化や数理化は進まず、代わりに「継承」「儀礼」「血縁」が重視された。

この地域が、後のアルベール大陸である。


V.第三文明期:氏族の成立(アルベール)

第三文明期に入り、五行信仰は氏族制度として定着する。

氏族成立順(推定)

大地系氏族

 最も早く成立した。

 工芸・建築・記録文化を形成。

 ただしこの時点で紋章宿主は既に存在しない可能性が高い。

火・水・風・雷の諸氏族

 時間差をもって成立。

 それぞれ生活様式に応じた役割を担う。


VI.五大神族(後世の呼称)

氏族名    属性 主な役割

カルナ族   火  鍛冶・儀式・精神的象徴

リムナ族   水  祈祷・治癒・祭礼

トゥレン族  雷  戦士・巫的役割

バシュラ族  風  狩猟・移動

オルカ族   土  工芸・建築・記録


※この段階ではまだ「国家」ではなく、相互補完的な共同体群であった。


VII.炎の系譜に関する補足記録

炎の紋章は、五行の中でも特異な挙動を示す。

特徴

常に宿主を必要としない

長期間沈黙することがある

宿主選定に強い意思性がある

継承は不定期かつ断続的

カルナ族との関係

カルナ族の始祖は、炎の最初期の宿主であったとされる。

その死後、炎は直ちに次の宿主を選ばず

一定期間、カルナ族の中に「留まった」と記録されている。

以後、「宿主誕生 → 断絶 → 沈黙」を繰り返す特異な系譜が形成された。



史料上、最初に表舞台へ現れる氏族はカルナ族である。

以後、五行は再び歴史の前面へと引き出され、争いと再編の時代が始まる。


付記:未解明事項(研究者注)

氷河期直前に起きた大陸分断の真因

大地の紋章宿主の正体

紋章が「眠る」状態の正確な定義

炎が宿主を選ぶ基準の詳細

これらは現段階では推測の域を出ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る