紅華四季恋浪漫譚 綻春の章
浅葱ハル
二度目の春
1・あなたに初めて出会った日
ここは、和洋の文化が混在する
華族にふさわしい白亜の洋館は、春の陽光に照らされ、神秘的な輝きを放っていた。
その西にあるのは、白木の調度で統一された気品ある一室だ。
藤を模したステンドグラス越しに射し込むのは、淡く桃色に染まった光の筋。それが、少女の頬をほんのりと愛らしく染めていた。
白藤家の一人娘である彼女は、年相応の幼さと明るさを湛えた無垢な瞳で、彼を見つめていた。
とっておきの、薄桃のリボンが装飾されたワンピースの裾が揺れる。
昔からこの人と結婚するのだと、父に言い聞かされてきた。
それを綾乃は密かに、けれど確かに、待ち望んでいた。
綾乃の正面で、紅華帝国第二皇子・
歳は綾乃の一つ上、十一歳。黒髪の間から覗く、焔のような紅い瞳が優しく揺れる。
彼の豆だらけの硬い手のひらは、剣術の鍛錬の証。目の下の濃い隈は、歴史や外交などの勉学を積む不断の努力の証だ。
一つ年上の許嫁は、頑張りすぎてしまう少年だった。
その隣に、いつか、堂々と立ちたい。
「殿下、大好き」
「……照れるなあ」
綾乃の小さな声に、雅臣は照れくさそうに呟いた。
七年後。
同・白藤邸。
時を経ても調度が整ったままの、白木の間だ。
冬の陽光がステンドグラスを透過して部屋を満たしてもなお、そこは寒々しい空気に支配されていた。
白藤綾乃、十七歳。
癒しの魔力を操り、「氷の華」の異名を持つ令嬢だ。
白地に銀の刺繍を見事にあしらったワンピースが、綾乃の高貴な気品を引き立てている。
冷たい白銀の瞳が、隠しきれない嫌悪を纏って、目の前の男を刺し貫いていく。
将来、この人と結婚するようにと命じられていた。
それが、綾乃は嫌でたまらなかった。
十八歳の紅華帝国第二皇子・雅臣は、派手な金髪を揺らし、困ったように曖昧に笑っている。
初めて、面と向かって顔を合わせた許嫁。
誤魔化すような態度も、軽薄に見えるその表情も、綾乃はどうしても気に入らなかった。
雅臣の紅い瞳を見つめていると、頭の片隅が疼き出す。
その瞳の恐ろしさと美しさを、深く知っている気がした。
しかし、綾乃には雅臣と一度も会話すら交わした記憶がない。
彼とは初対面。その、はずなのに。
絶対零度の視線を受けた彼の瞳は、なぜだか、果てない哀しみを湛えているように見えた。
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