この物語は、
吸血鬼の使用人として育ちながらも「血がまずい」という理由で居場所を失い続けた少女・光莉の物語です。
彼女が求めているのは、単なる自己肯定ではありません。
「自分はここに居ていいのか」
「誰かにとって必要な存在なのか」
――その存在意義そのものを、彼女は渇望しています。
物語は、吸血鬼の令嬢・クリスカとの出会いによって動き出します。
しかしこの出会いは救済ではなく、
光莉が“役割を失った存在”として、それでも選ばれるのかを問い続ける関係です。
光莉は、
「使用人」という枠組みを超えて、
“自分は何者なのか”を見つけることができるのか。
彼女が与えられた価値ではなく、自分自身をどう定義するのか。
その行方が、この物語の最大の見どころだと思います。
夜行列車という閉じた空間で描かれる、吸血姫と使用人の穏やかなひととき。
刺激的な設定を持ちながらも、物語は終始静かで、温度のある幸福感に満ちています。
吸血という行為も単なる演出ではなく、信頼や甘え、お仕置きといった関係性の延長として自然に描かれており、二人の距離感がとても心地よいです。
列車の揺れ、暖房の空気、アイスの冷たさといった五感描写が、旅情と百合の雰囲気が良かったです。
過去の不遇を語りすぎず、「今ここにある居場所」を大切に描いた描写は好きですね。
静かで耽美な百合×吸血鬼作品を求めている方に、ぜひおすすめしたい物語です。
いわゆる昔ながらの吸血鬼ホラーの雰囲気が好きな方にはおすすめです!
「文体」で世界観があまりに強く創られているので最初は戸惑いがあるかもしれませんが、読み進めるにつれて、その世界観に自分が馴染んでいきます。
そして、この文体でなければ、この作品は紡ぎ出せないものだったのではないかと感じられるようになっていき、ふと、ページを離れると、「この世界」ロスになるような、それほどの強い空気を持った作品だと感じました。
この「文体」で世界観を創り出す手法は、よく見かけるものですが、本作に関しては、そのアプローチや切り込み方が斬新で、文学とも古典とも、そしてラノベとも文芸小説とも言えぬ、不思議な空間を漂わせます。
つまり「文体」自体が、「怪異」そのものであり、その「怪異」の中でだからこそ、吸血鬼という存在も自然な形で息づいていく……
「文体」というものに興味がある方にとって、一つの教科書になる作品ではないかと感じました。
これから旅が始まります。
とても楽しみです!