第32話 ごちそうパーティ その2
ひとしきり笑った北斗は、笑われて拗ねている4人の機嫌をとりつつ次の食材の用意に取り掛かっていた。
「そんなに笑わなくても……」
「本当です。恥ずかしい…」
「東雲さん、意地悪」
「酷いです」
「あはは、すまんすまん。あんまりにも可愛らしいやり取りをするものだからつい、ねえ。ありゃ……そう不貞腐れなさんな。美味しいものは他にも用意しているから機嫌を直してくれないかい?」
まだ少し笑いが残る声のまま北斗が4人の目の前に置いたのは肉が盛られた皿。
調理はしてあるように見えるそれに揃って首を傾げるフォルトゥナだったが、すぐに北斗が解説を始めた。
「これは
「わあ……!!」
「お、美味しそうっ……でもこれ、ミノタウロスよりももっと高級なんじゃ…」
「少なくとも中層エリアの上部では聞いた事ないモンスター、です」
「もしかして、下層エリアの?」
「正解。下層エリアに出現するモンスターだよ。ミノタウロスも下層エリアだけど、下層の最初の方に出現するからこっちは名前は聞いたことあったのかもしれないねえ。値段的にはまあ、お察しの通りってことで。……そんなに萎縮しなさんな、俺が笑っちまったお詫びって言っただろう?遠慮せんで食べてくれ」
促されてようやく恐る恐る手を伸ばす4人。
「あっ、柔らか、美味しい…!」
「んんんっ……!!!なんでこんな旨みぎゅうぎゅうなの…?!もう駄目だ、私普通のお肉に戻れません…!!」
「んぐんぐんぐ」←口いっぱいにローストビーフを頬張っている。
「東雲さんは私たちをどうしたいんですか……??」
「普通に美味しいものを食べてもらいたいってだけだケド??なんでそんな俺が何かやらかしているみたいな目で見るんだい?」
俺は本心から美味しいものを食べてもらいたいだけなんだが??
遺憾であるといいたげな表情になる北斗を他所に4人はローストビーフに舌鼓を打っていた。
ローストビーフ以降も大量のダンジョン食材(下層エリア産が主の高級品ばかりということをフォルトゥナの面々は知らない)を満喫し、満足げにお茶を飲んでまったりしている4人の前に北斗が何かを持ってくる。
それは、宝石で作られたと言われても信じてしまうだろう果物の盛り合わせだった。
「綺麗…」
「これ、絶対にお高いやつ……」
「美味しそうだけど、値段気になる…」
「東雲さん、これは…?」
「
慣れた手つきで果物の皮を剥き、食べれる状態にしていく北斗とは裏腹に皮や種が本当の宝石で高級フルーツ並みの絶品と知り、4人はわずかに青ざめつつも味が気になり手を伸ばした。
「マスカット、凄く甘い……見た目はエメラルドみたいなのに実は柔らかくて、僕、これ好きです」
「いちごが酸っぱくない……??こんなとことん甘いなんて…いちごの形をしたルビーにしか見えないのにっ……!!」
「葡萄、凄く甘いし、香りも凄くいい。こんなの食べたら、グレープ味のものとか食べても美味しく思えなくなっちゃう」
「梨がこんなに瑞々しくて甘いのにシャキシャキ感もきちんと残ってて…他の果物も、このまま食べてもジャムやコンポートにしても美味しそうですし…私たちの味覚は完全に東雲さんに壊されてしまいました、ええそれはもう完膚なきまでに」
「いや風評被害」
俺の純粋な気持ちをなんだと思ってるわけこの子達は?
年下の子達の味覚破壊して楽しむ愉快犯とでも思ってるのかい?
理人達からの評価に頭を抱えつつ、しっかりと後片付けやもてなしをこなしてゆく北斗。
理人達に背を向けていたから本人は知らない。
背後から4人にガン見されていたことなど。
今日の北斗は食材を扱ったりするからと袖が邪魔にならないようにジャージにパーカーというかなりラフな格好をしている。
もとより背丈が高く無駄なく鍛えられた肉体を持っているのも相まって、和装ではわかりづらかったスタイルの良さを強調している今日の格好。
北斗に憧れと、無意識ながらそれ以外の感情も抱いている4人にとっては自然と目が惹きつけられる状態になっていた。
当の本人は視線には気づいているものの、皿を洗ったり料理するイメージが無さすぎて驚かれているのかなあと斜め上のことを考えていたが。
「あの、今日は本当にありがとうございました。しかも、果物の宝石まで下さるなんて…」
「理人達はこれからまだまだ成長するし、前に色々わけたって言っても先立つものは必要だろう?気にしなさんな」
日も暮れ始めた頃、今日の果物から採れた宝石を全て手土産に持たせてから北斗は玄関で見送りをしていた。
どこまでも申し訳なさそうにする4人にカラカラと笑いながらも宝石を渡さないという選択肢は無いらしく、有無を言わせない雰囲気を纏っていた。
北斗からすれば、どこまで行っても自分が迷惑をかけたのだからという認識はぶれないらしい。
「まあ、そうさなあ。もし貰いすぎているっていう意識がどうしても消えないっていうなら、4人がもっと深いところに潜れるようになって安定して稼げるようになったら俺に返してくれればいい。俺にとっちゃ、それで十分だよ」
「……なら」
ずい、と突如として理人が北斗へと距離を詰めて顔を覗き込む。
その行為に北斗は目を白黒させていたが、他の3人も止める気配はない。むしろ理人の行為に満足げにしていて。
「なら、沢山稼げるようになって、東雲さんがもういらない、勘弁してほしいって言ってもやめてあげないくらいにお返ししますので。今から覚悟、しておいてくださいね」
にっこりと満面の笑みを浮かべてそう言い切った理人は、北斗に頭を下げてから3人と共に帰って行った。
後に残されたのは呆気にとられた北斗のみ。
「……なんだか、巨大な地雷を踏み抜いた気がするんだが……気のせい、ってことには、出来ないだろうねえ……」
理人達の瞳に宿っていた言い表せない感情の色。
それが近い将来自分に何かしらの形で還ってくるだろうことを北斗は知らない。
否、あえて考えないようにしていたというのが正しいかもしれない。
自分もあちらも探索者。明日をも知れぬ身であることは変わりないからこそ、深くは考えないようにしていた。
この考え方こそ、感情の答えから逃げている証拠なのかもしれないが。
「ま、俺は俺のやりたいようにやるだけだし、それはこれからも変わらないってね。何をするつもりかは分からんが、せいぜい驚かせて見せておくれよ?」
後日。
北斗が何かと理由をつけてお返しからのらりくらりと躱わすかもしれないから、と誓約書のようなものを持って理人達が家を訪れることに驚かされる北斗なのであった。
あとがき
お正月ローストビーフを食べたのでついつい登場させてしまった。後悔はしてません、ローストビーフ美味しかった。
そして何故か理人くん達フォルトゥナからも何やら不穏な空気が?
私が書くとどうしても含みのある空気にしてしまう……こんな展開が大好きなんです、許してくださいませ。
そしてそして、評価、フォロー、応援誠に有難うございます!!!!!
嬉しすぎて嬉しすぎて……本当に感謝です。
どうか、お正月休みの隙間時間にでものんびり楽しんでいただけたら幸いでございます。
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