第18話 初コラボ、無双、緊急事態 その3

「あー……流石に想定外、だな」


黒炎龍と対峙した時も九尾の狐と対峙した時も表情ひとつ帰ることがなかった北斗の声が少しばかり強張っている。

それは隣に立つ水琴も同様で、冷や汗を馴染ませながら彼女の武器である双剣を握った。


「……ミコさん、帰還石は?」

「ごめん、今日は持ってきてないんだー……あめっちがいれば普通に帰れると思って……ごめんね、ボクが残るから、あめっちは逃げて……」

「んなバカなことする訳ないでしょうに。来ますよ」


水琴の腕を掴み後方へ飛ばずされば古代龍の口から放たれた火焔がダンジョンの床を一瞬にして溶岩に変えた。


「成程、ね……ブレスに触れたら即消し炭、ゲームオーバーか」


助けは期待出来ない。

よしんば深層エリアを探索できる探索者が空いていたとしても1人か2人。かといって救援に来たところで古代龍に対抗できるかはわからない、というか多分出来ない。

じゃあ、水琴と共に古代龍を討伐するか?

否、そんな代償がデカそうなことを出来るわけがない。下手すりゃ揃って古代龍の腹行きだ。

水琴を庇いながら攻撃を避けるだけになっている北斗の頬を古代龍の攻撃が掠めた。

咄嗟に顔を捻ったから擦り傷で済んだものの、もしも反応が遅れていれば顔面が半分消え去っていたことだろう。


「あめっち!?」

「平気ですよ、この程度」


でもこれ以上ここに水琴を残しておくのは危険すぎるな。このまま避け続けるのもジリ貧だ。

クランマスターである水琴に何かあれば路頭に迷うのはクランのみんな。

なら……。

北斗はとあるものをアイテムボックスから取り出すと水琴に握らせ、彼女が何かを言おうとするのを遮って突き飛ばした。


「あめっち………!!」

「帰還石発動。ま、後は任せてくださいや」


水琴の姿が完全に消えた事を確認し、北斗は古代龍へと向き直る。


「待たせたねえ、トカゲ野郎」


ガギン。

古代龍へ肉薄した北斗の一撃はあまりにも鈍い音と共に弾かれた。もちろんその肌には傷一つ刻まれていない。

続け様に幾度も斬撃を与え続けるがようやく鱗一枚がひび割れた程度。


「いやはや、流石は深淵エリアの化け物。コレだけやって鱗一枚かい」


飄々と言ってのけてはいるがその目は厳しい。

おそらくなんとか割った鱗もしばらくすれば完全に元通りになるだろう。

かといって手段としては攻撃を喰らわせ続けるしかないのも事実。


「……いや、まだ早いか。もう少し足掻かせて貰おうかね」


斬る。

斬る。

斬る。

剣戟の跡が遅れて視認される、いわば神速とも表せるであろうほどの速度で太刀を振るい鱗を割り続ける。

結果右腕の付け根の部分が少しばかり脆くはなったものの斬り落とすには至らず、それどころか振るわれた右腕によって頬にもう一撃攻撃を喰らう。


「っとと……こりゃ、本当に厄介だねえ……」


少しばかり低くなった声に僅かな焦りが滲む。

流れる血を煩わしげに拭い、間髪入れずに再び脆くなった部分に斬り込むが、与えれた傷は人間でいうと指を紙で切った程度の浅いもの。

それでも、と今度は傷を与えた部分に集中的に斬撃を繰り返し与え続け、苦心の末ようやっと右腕を斬り落としたのだが…。

ボコリ、と斬った断面が盛り上がり流血は止まり、僅かずつだが細胞が再生し始める。


「マジかあ……流石深淵エリアモンスター、反則技すぎるでしょ」


思わず口をついて出た声の情けなさに笑いが浮かんだ。

いやあ、何度か深淵エリアを覗いてちょっかいかけたことはあるけどここまでとは思わなかったわ。古代龍が存在するっていうのは諸外国のダンジョンの情報から聞いたことはあったけどまさかここまでのだが化け物なんてねえ。

まあ、ここで撤退させてくれるほどお優しくはないだろうし、やるしかないんだけどね。

三度飛びかかり、再生途中の傷口をさせるものかと滅茶苦茶に斬りつけていく。

何度も、近距離の攻撃ゆえに全身が血塗れになることも厭わずに。

その結果か、しばらく経つ頃には古代龍の右腕は再生しなくなり鮮血が滴るばかりになった。

これで、まずは一本。

このまま続けさせてくれれば御の字だが……そうはいかないか。


「そりゃ、腕を斬り落とされちゃ怒るわなあ…?」


空気を劈くほどの咆哮。

地面すら震わすそれに北斗がバランスを崩した瞬間、古代龍の尾が鋭くうねり、彼の左腕を捉えた。


あ、これやば。


脳がそう判断し腕を引っ込めようとするも間に合わず。

ぶち、と何かが千切れる音が耳に届き、遅れてあったはずのものが無くなっている事を認識する。

北斗の左腕が宙を舞い、地面に無造作に叩きつけられた。


「あー……やられた。尻尾だけでこの威力とはねえ……」


取り乱すことも痛みに動きが鈍るでもなく、極めて冷静にアイテムボックスから紐を取り出し左腕を縛り止血を施す。

腕やられるのいつぶりだ?随分と久しぶりでちっとばかし反応が遅れたなあ。

普通であれば痛みで気を失ってもおかしくないというのにどこまでもいつも通りな北斗に、古代龍はまるで気味の悪いものを見たといいたげに唸り声を漏らす。

きっと今まで見てきた人間は即死か、みっともなく喚き回るだけだったのだろう。目の前の異物北斗が理解出来ない、は本当に人間なのかと。

羽虫のように惨めに逃げ回ることしか脳のない矮小な存在ではないのかと。


「はは、戸惑ってるねえ。そんなに俺という存在が理解出来ないかい?」


ゆらり。

止血を終え立ち上がった北斗の体はふらつくことなく真っ直ぐに立っており、腕を一本持って行かれた後とは思えないほどに自然体だった。


「ただ俺もちぃっとばかし頭にはきてるもんでねえ。……ここから少し本気で遊ばせて貰おうか」


──スキル『剣豪』、発動。

北斗が纏う雰囲気が一変する。

まるでその身こそが刃であるかのような鋭さを持ち、その瞳は血のように紅く。


「理解できるとは思えんが冥土の土産に教えてやろうかね。俺のスキルの一つ、『剣豪』。スキルを発動している間は全ての能力値が20倍になるとんでも技だよ。まあ、代償もあるんだが……まあ瑣末な事よ」


一歩北斗が近づけば、一歩古代龍が後退る。

理解不能、存在拒否。

目の前のこの羽虫は、本当に人間なのか。

その動揺を表すように古代龍は正確無比さをかなぐり捨ててブレスを放ち、尻尾を縦横無尽に振り回す。

スキル発動前であれば、確実に北斗も数発は喰らっていただろう。むしろすでに行動不能になっていてもおかしくは無い攻撃の嵐。

しかし、一撃も当たらない。

擦りすらしない。

何故、何故、何故!!!

古代龍は本気で理解出来なかった、ダンジョンで生を受けてからというものこんな事態は起こりえなかった。

人間は矮小な存在、地を這う虫も同然だから。

人間は自分古代龍に敵うはずがないのだから。

自分はそう在るべく形作られた存在なのだから、敗北を味わうことなど無いのだと。

そう理解していた、驕っていた。

だのに、目の前にそれら全てを否定する存在がいる。

コレは、なんだ?


「はは、理解出来ないって目をしてるなあ?」


北斗が愉しげに笑う。

口元しか見えていない筈なのに、その身が放つ絡め取らんとするほどの殺気にさらに一歩、古代龍は後退りをしていた。


「おっと、逃げてくれるなよ?」


ざり。

床を踏み締める音が大きく響く。


「楽しいのはこれからだろう?自分だけ楽しい想いをしてさよならは酷いじゃないか」


薄暗い空間の中、北斗の紅い瞳だけが爛々と輝く。

その紅がひたと見据えてくるだけで古代龍は金縛りにあったかの如く動くことが出来ない。

初めてと言っても過言ではない『恐怖』という感情が脳内を支配する。

何故だ、この人間が恐ろしい、理解不能であることが恐ろしい。

逃げなければ、元いた場所へ、帰らなければ。

さもないと。


「さて、それじゃあ……」


死合うとしようや。

白刃が煌めいた。














あとがき


今まで通りすんなり倒すのもなぁというのと、深淵がやばいということを伝えたかった話。

でもよく考えたら無自覚最強だから無双の方がいいのか?いやでももう2匹やばいのをあっさり倒してるし…と葛藤した結果こんな感じになりました。

さて、北斗くんはここからどうなるのか?楽しみにお待ちください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る