第17話 初コラボ、無双、緊急事態 その2

「いやぁ、1人でも大丈夫だけどあめっちがいると段違いで楽ちんだねぇ!!うちのクランに来ない??それか私とパーティ組まない??」

「俺は1人で気ままにやるのがいいので、せっかくのお誘いですが謹んでお断りしますよ」


雅といい、なんですぐにクランだパーティだに誘うのかねえ。

オリハルコンゴーレムを粉々に砕き、壁にめり込ませ、床に串刺しにしつつこんな会話をしている2人に、コメント欄のガチ恋勢も次第に勢いを無くしていた。

配信が開始されてからまだ30分足らずしか時間経過していないのだが、すでに2人によって金属塊にされたゴーレムの数は2桁になる。

当初水琴が必要としていたオリハルコンはとっくに集まっているのだが、北斗との戦闘が楽しくなってしまった水琴と元々付き合いはいい北斗のコンビによってモンスターの大蹂躙が繰り広げられている形になっている。

今も炎地獄犬フレイムヘルハウンドの群れを道端の石を蹴り飛ばすくらいの気軽さで薙ぎ倒している真っ最中だ。


「でも、ミコさん。お目当てのオリハルコンは集まったんでしょ?なら、少し短いですが配信切り上げても……」

「何言ってんのあめっち!こんなに楽しいんだからまだまだやるよ!視聴者のみんなもモンスター薙ぎ倒すとこ見たいよね?」


“正直こんなにモンスターを蹴散らす配信って少ないから見たい”

“ミコちゃんが心底楽しそうなので、雨月さんどうかもう少しお付き合いお願いします”

“ミコちゃんがわがまま言うこと滅多にないのでどうかまだ付き合ってやってくださいませ”

“ゲーム見てるみたいで楽しいからまだやって欲しいわ”

“というかミコちゃんが本気で楽しんでるの伝わったからかガチ恋勢が大人しいんでこのまま蹂躙続行でおなしゃす”


いや、なんか何人か水琴の保護者混じってないかい?ガチ恋勢が黙っているのは俺も助かるが。

…‥まあ、やる事もないし付き合いますかねえ。

流れるコメントを見て軽く肩をすくめ、太刀を握り直し水琴を見る。


「そんじゃあ、付き合いますよ。何階まで行きます?」

「本当!?やったあ!じゃあねぇ……300階!」

「いや配信1時間しか枠取ってないんだからそれは無理でしょうが。いけて250階ですよ」

「えー!うー、仕方がないかぁ。じゃあ250階目指してれっつごー!」


グイグイ、と北斗の手を引き先へ進む水琴の後を苦笑しながらついて行く。

いくら俺ら2人が揃っていても300階に行くのには30分じゃ足りないってのに……こりゃテンション上がりすぎてそこのところがすっぽ抜けてるんだろうねえ。

……ん?お、あれは。


稲妻牛エクレールカウ、ですねえ」

「おおお!あれがドロップするチーズ、すっごく濃厚で美味しいんだよね!沢山狩って行こう!」

「いや買い物か」


北斗のツッコミも虚しく、それこそ自身が闘牛のように稲妻牛の群れに突っ込んでゆく。

コメント欄は北斗の言葉に賛同したようで、


“買い物www”

“女子の買い物に付き合わされてる人のソレwww”

“ナイスツッコミw”

“狩って行こうの言い方が完全に買って以降のノリなのよwww”


の状態である。


「ですよねえ……確かにあの牛のチーズが美味いのは認めますけど一回でドロップするのがそれこそお店で見かけるでっかいチーズの塊レベルの大きさなんだが……え、全部食うの?」


“ぜwんwぶw”

“あかん雨月の中でミコちゃんが食いしん坊キャラ認定されてまう”

"き、きっとクランのみんなでわけるんですよ、うん”

“ミコちゃんに変な疑いをかけるな!”

“ミコちゃんはそんなことしない!”

“あー、厄介勢が息吹き返しおった”


思わず口をついて出た言葉にガチ恋勢がコメントに現れるも北斗は無視、その上水琴が大量のチーズの塊を持って帰ってきたものだからまた消えていった。


「あめっちー!たしかアイテムボックス使えたよね?私のマジックバッグもういっぱいだからこれいーれーて!」

「構いませんが……こんな大量にどうするんです?」

「えっとね、チーズフォンデュでしょ、グラタンでしょ、チーズケーキに、ドリアに……とにかくたくさん作る!」

「食いしん坊か」


そこからもフリーダム水琴は止まらない。

オークジェネラルを発見すれば、


「おにくー!!!!」


と突進してゆきオークジェネラルの首を刎ねて瞬殺。

邪眼魚イビルアイフィッシュ(マグロみたいな見た目の真っ黒なモンスター)を見つければ、


「大トロ中トロカマトロー!!!!」


とその巨大に飛び乗り脳天に剣を突き刺して〆る。

翡翠蜂エメラルドビーを見かければ、


「蜂蜜だ!」


ともはや食料確か見ていない発言を連発しつつ巣まで追いかけていって蜂蜜と蜂の巣を強奪。

翡翠蜂に至っては下層エリアモンスターの中でも珍しく温厚で瓶一つ分程度の少量の蜂蜜を採取する程度なら怒りすらしないのに全て奪ってきたものだから大群が水琴を襲っていたほどだ。

全て切り伏せられていたが。


「……翡翠蜂に同情しますわ、こりゃ」


目の前の水琴無双(食材をドロップするモンスター限定)を見ながら呟けば、


“同感”

“モンスターっていうのはわかってるのに、なんか、なんかもう…可哀想”

“というかミコちゃんがこんなに配信そっちのけで行くの珍しい”

“雨月がいるからでしょ?”

“だからなのか、配信放置してるからほぼ雨月のチャンネルの配信みたいになってて草”

“チャンネル主不在配信www”

“というか、雨月もやろうと思えば出来るんでしょ?”


である。

いや出来るけども。出来るけども温厚なモンスターを殲滅しようとは思わんが??

心外です、と否定している間にも肝心の水琴は巨大蟹に目標を移していて。


「かにかにかにー!!!蟹鍋!!」


と瞬殺していた。

水琴ってこんなに食いしん坊だったか?

やれやれと肩をすくめつつ差し出されたドロップ品は全て収納していく北斗。

そちらも大概規格外だとコメントが流れたがスルーする。水琴のコレよりは普通でしょうに。

瞬く間に階層を進んでゆく2人は、すぐに250階に到達していた。


「ええー!もう250階?もっと進もうよー、もう少し進んだらクラーケンとかコカトリス出てくるのに?!行こうよ行こうよー!」

「だからもう少しで配信時間終わるんですってば。耐久配信するわけでもなし、今回は我慢しなさいな」

「やだやだー!イカ食べたい鶏肉食べたいー!」

「我慢!」


“コラボというか母と娘の買い物風景見てる気分になってきたw”

“お菓子買って!ダメ!のやり取りにしか見えんw”

“雨月ママや”

“雨月ママー、僕もお肉食べたい”

“最初は噛みついてたけどこの光景見たら嫉妬心とか無くなったわ、育児お疲れ様です雨月ママ”


「いや誰がママですか。こんな大きい娘持った記憶ないですが??」

「おー!いーじゃんいーじゃんあめっちママ!って事で行こ!」

「行きません!」


なおこの会話、水琴がまたしても突っ込んで行った鎧熊アーマードベアの巣の中の大群を殲滅しながら行っている。

このいとも容易く行われるえげつない行為に、視聴者達はすっかり慣れてしまったらしく誰もツッコむ事はしなくなっていた。慣れって恐ろしい。

ジビエ!と喜ぶ水琴を尻目に軽く頭を抑えながら、そろそろ配信を終了させようと口を開き掛け……ヴン、というナニカの起動音のようなものに遮られた。


「え」

「今のは……」


瞬時に警戒体制をとる2人。

そしてすぐに足元に燦然と煌めく何かの陣……罠を見つけて飛びのこうとするが一足遅かった。

輝きを増したソレは既に発動しており、2人を目が開けていられないほどの光が包み込む。

次に目を開けた2人の目の前に広がっていたのは、どこか禍々しさを感じるだだっ広い空間。


“2人とも大丈夫!?”

“今のなんなの?”

“まさか罠??”


「あちゃあ……これって」

「完全に罠、引きましたね。しかもここは深層エリア………しかも深淵エリア一歩手前ってとこでしょうか」


2人の言葉にコメント欄がさらに騒つく。

深層エリアというだけでも危険なのに深淵エリアの手前とくれば危険度はさらに増す。

すぐに通報を、と動き出すコメント欄。

その中に、不穏なコメントが流れる。


“いつもはミコちゃんこんなことないのに、今日はどうして罠にかかっちゃったのかな??もしかして、雨月が嵌めたの……?”


最初こそそんなことない、雨月はそんなことしないと擁護が溢れていたが、水琴の配信でいつもと違うとすれば雨月がいること。

次第に雨月が水琴を罠に嵌めたのでは?という雰囲気が流れ出し、一斉に雨月を疑うコメントで溢れる。


“雨月の仕業なの?”

“確かにそんなユニークアイテムあってもおかしくないけど……”

“こいつやっぱりミコちゃんを害する気だったんだ!”

“いや、そうと決まったわけじゃないじゃん?”

“でもミコちゃんって罠にかかった事ないのに”


成る程ねえ……?

雨月が目を細め、否定するために口を開く……よりも先に水琴が動いた。


「あめっちはそんなことしない!!大体さっきだってボクと一緒に鎧熊倒してたんだよ?片手は太刀を握ってたし、もう片方の手は鞘を握ってた。そんな状態でどうやったらそんなユニークアイテム使えるのさ!」

「ミコさん……」

「それにボクはこの配信が始まる前にあめっちのスキル全部見せてもらってる!魔法系のスキルが無いことも確認済み!だから絶対にあめっちじゃない!」


憶測で人を疑って傷つけないで!

ずっと笑顔だった彼女が怒りに顔を歪めながら声を荒げる様を見て、コメント欄もほんの少しずつだが鎮火を見せ始める。

だが、北斗を悪としたいらしい相手は怯まない。


“もしかして脅されてるんですか?ミコちゃん可哀想。その人ユーフォリアの時もそうやって脅してたらしいですし”


こんなことを宣った。

水琴はさらに憤って言葉を続けようとするが、北斗がそれを止める。


「どうやら何としてでも俺を悪人として世間的に抹消したい方がいるご様子。でも残念、今ミコさんが言った通り俺に魔法系スキルはありませんし、脅してもいません。そもそも、クランマスターを脅すなんて事できるはずがないでしょう?俺みたいなソロがそんなことすればすぐに潰される」


こつ、こつ。

足音を響かせながら宙に漂う配信カメラに近寄る。


「そもそも、どうして俺が嵌めたという考えに至るのでしょうか?脅したなんていう憶測じみたものをさも真実のように言えるのでしょうか?」


にこり。

少しも笑っていない目でカメラを見据える。


「まぁここまで言いましたが俺自身をなんと言われようが別に気にしてないんですわ。でもね?貴方の大好きなミコさんがここまで言ってるのに執拗に言うもんですからちっとばかし腹に据えかねまして。……ああ、それとも」


ミコさんのファンっていうガワを被った俺に害をなしたいだけの第三者なんですかね?

北斗のその言葉に、本当の水琴ファンらしい善良な面々は確かに疑うまでが早すぎる、まるでわかってたみたいだとコメントを流す。

ガチ恋勢達は雨月を疑うコメントに乗っかっているが、大好きなミコがここまで言っている、の言葉に鎮火気味。

さて、どう出てくる?


“まぁ、ここでお前ら死ぬからこっちの正体知ることないだろうけどwコレも捨て垢だし”


嘲笑うようなコメントが打ち込まれ、刹那。

背後から再び眩い光が放たれた。

2人の顔色が変わり、勢いよく背後を振り返る。

ドシン。

鈍く、大地を震わせる足音。

鈍色に輝く肉体が闇から現れる。

閉じられていた紅の瞳が開かれ、2人を見据えた。


「──古代龍エンシェントドラゴン


深層エリアなぞ生ぬるい、それ自体が災害に匹敵する。

深淵エリアにしか存在しないはずの正真正銘の化け物が、2人の目の前に鎮座していた。








あとがき


私短スパンで北斗くんを強敵と戦わせすぎですね?

ちょっとほのぼの回にして次から緊急事態にするはずがなぜかこんなことに。

ですがご安心を。なぜなら、北斗くんですので。


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