【短編】便意ラブストーリー

和泉歌夜(いづみかや)

本編

 ヤバイ。死ぬほどトイレに行きたい。僕の直腸は早くも脱糞の警鐘を鳴らしていた。


 このままでは着衣の中で用を足すことになる。そんなことはあってはならない。


 特にこの場面では......。


 僕の目の前に幼馴染の花音かのんがいる。場所は屋上。時は放課後。そして、二人っきり......この後に起こることは一つしかない。


「あの......えーとね。その......ここに呼び出したのは......その......」


 花音は顔を赤らめながらモジモジとしていた。一方、僕は別の意味で顔を赤くしながらモジモジしていた。


 花音、分かってる。僕に告白するんだろ。前々から気づいていた。だけど、今はトイレに行きたい。こういう時はドキドキするけど今の僕は別の意味でドキドキしている。


「あの……実は……好きなの」

「ぼ、僕も好き好き好き! 付き合おう!」


 即答で返した。ここで返事を渋っていたらいつ終わるのか、分からない。


「じゃ、じゃあ、明日から幼馴染じゃなくて恋人という事で!」


 僕はすぐに階段の方に向かおうとした……が。


「待って」


 花音が僕の腕を掴んだ。危うく緩みそうになったが必死に踏ん張って彼女の方を向いた。


「な、なに?」

「恋人になったなら……することあるでしょ?」


 花音はそう言って瞳を閉じた。その瞬間、僕は新たな試練の到来を感じた。


 しまった。キスを求められている。もしも普通の状態だったらキスどころかその先まで行きたいが、今はフレンチキスだけで漏れてしまいそうだった。そしたら最悪だ。何もかも終わる。


「か、花音。キスはその……家でしよう」

「え?」


 花音はなぜか顔を真っ赤にしていた。


「も、もうっ! いきなりそれは早すぎるよ。まだ心の準備が……」

「ごごごめんね! じゃ、じゃあ、いつかやろうね! それじゃ!」


 これ以上はもう限界だった。今まで踏ん張ってくれたお尻の筋肉がサイレンを鳴らしていた。


 もう駄目だ。早くトイレに行かないと。


 僕はなるべくお尻に刺激が来ないような歩き方で階段を目指した。


「待って!」


 しかし、花音に背後から抱きしめられてしまった。


 その瞬間、僕の理性が弱くなったと同時にお尻の筋肉も緩んだ。


 パンツの中で何もかもが出た後、静寂が流れた。


 花音は何も言わなかったが、静かに離れたことは間違いなかった。




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【短編】便意ラブストーリー 和泉歌夜(いづみかや) @mayonakanouta

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