わかりやすい
5月も半ばに入ったある日、伊織とみおと3人で
食堂の2階で勉強していた私は、ぼんやりと窓の外を見ていた。
風に揺れる新緑の葉を眺めながら、ため息をつく。
ふと、視線を逸らせば見覚えのある背中を見つけた。
(あれって……)
身を乗り出した時、
「2人とも、手が止まってるよ〜」
「私はもう課題終わったよ。みおは?……て、先に終わらせてたんだっけ」
「そうよ。あ、しいちゃん。どこ見てるの、課題はー終わってる」
「えっ?課題はもう終わらせたよ」
慌てて窓から目を逸らし、プリントを持ち上げて見せた。
そんな私を怪しむように伊織が顔を覗き込んてくる。
「何見てたの?」
「な、なんでもないよっ!?」
パタパタと手を振った時、ポンと肩に手が乗った。
「よっ。こんなことで何してんだ?……課題?」
振り返ると、光留先輩が楽しそうに笑っていた。
私はびっくりして手に持っていたプリントを落としてしまった。
「来週提出の課題があるのでそれを終わらせてました」
「へ〜、偉いじゃん。小暮、この子も友達?」
光留先輩が伊織を見て首を傾げた。
「逢坂伊織です」
「逢坂さん、ね。よろしく」
「神楽坂先輩は授業終わりですか?」
「ん、四限終わり」
「お疲れ様です」
落ち着かなくて、手に持っていたペンを筆箱にしまう。
輝瑠先輩の顔を見られなくて、視線がぎこちなく動いた。
「あ、」
「おーい、神楽坂。行くぞ」
輝瑠先輩が何か言いかけた時、売店の傍で彼を呼ぶ声がした。
「おー。……じゃ、またな小暮」
私を見てニコッと笑い輝瑠先輩が歩き出した。
その後ろ姿を見つめていると、頬をつつかれた。
「わかりやすいねぇ」
伊織とみおが、私の顔を覗き込んでニヤニヤしている。
「へっ……?」
何が、という前に伊織が食堂の出入口を指差した。
じっと見つめれば、階段を降りていく輝瑠先輩が見えた。
(あ、あれ……)
ドクン、ドクンと心臓が跳ねるのがわかった。
どうしてだろう。輝瑠先輩を見ると、心臓がうるさくなるのは。
ただ、彼のことが気になっているだけだ。
部活の先輩として尊敬もしている。
だけどー。
(それだけの理由で、心臓がうるさくなるわけない)
ドクン、ドクンと高鳴る鼓動を聴きながら拳を握りしめた。
憧れ 冬雫 @Aknya
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