鷹は蝙蝠を狙い、蝙蝠は鷹を食らう

鈴懸

第1話 蝙蝠のデュア



 東の大陸と呼ばれていた大陸の中央部、温暖な地に小さな町が一つすっぽりと入るかのような大きな石城があり、その東側に大きな王宮が建っていた。

 ここは人と人外と魔性、ケモノや多種多様な生き物が混在し、力のあるものが支配する弱肉強食の世界だ。



 その東の大陸の王宮に一際大きい城塔があり、昔から大コウモリの一族が住み着いていた。

 蝙蝠たちは王の天昇てんしょうとの契約で城内での食事(吸血)はしないことになっていた。

 そのため蝙蝠たちは夜な夜な街へ繰り出し食事吸血に出かけて行った。



 蝙蝠の一族を束ねる大コウモリには子供たちが複数いた。


 そのうちの一人、デュアは大コウモリの末娘だ。

 長い黒髪に黒い瞳、顔には少し幼さの残るちょっときつめの美人だった。

 妖力も強く、気も強い。男勝りで、ちょっと我儘な性格だった。

 歳の離れた兄姉きょうだいたちに可愛がられ、正にお姫様のように育てられた。



 今宵もデュアは他の蝙蝠たちと食事吸血に街へと飛び立った。

 頭から足先まで隠れる黒いマントを羽織り、夜の街へ静かに降り立つ。



「さてと、今日はどんな美味しい男にありつけられるのかしら?」


 デュアは美食家だ。不味まずいものは口にしたくなかった。

 鋭い嗅覚を頼りにデュアは美味しそうな匂いのエサを探した。



「…ん?いい匂いがする!」


 ディアがクンッと鼻を鳴らす。

 そして漂ってくる匂いの元を探した。

 街灯のない薄暗い石畳の上を歩き、通りの向こうに人影を捉えた。


「…あれか」


 デュアはニヤッと笑い、その人影にゆっくりと近づいて行った。


 そこに一人の若い男がいた。酒場で飲んできたあとなのか、少しほろ酔い気味だ。

 そして、男がデュアに気が付いた。


「へえ~、こんな時間に、こんな所で、いい女見っけ♡」


 男がフラフラとした足取りでデュアに近づいてくる。


 デュアは薄笑いを浮かべ、男に向かってスッと右手を出した。

 デュアの手から微かな香りがフワリと漂う。


 男が導かれるようにデュアの腰に手を回した。

 そしてゆっくりとデュアは男の首に顔を埋めた。

 ものの数秒、男がふらつき壁にもたれるようにズリズリと地べたに座り込んだ。


 男は意識を失っていた。男の首筋に小さな二つの噛み痕が残された。



「美味しい!久々のヒット♡」


 デュアはニッコリ笑った。久しぶりに美味うまいエサにありつけた。

 デュアは満足してその場をウキウキと去って行った。




 しばらくして男の瞳が開いて、男がニヤリと笑った。


「何だ、あれで満足なのか? カワイイねえ~」


 暗い街の石畳の上で、男は思い出し笑いを浮かべながら夜空を見上げた。







 東の大陸の軍隊には幾つかの隊があって、竜の子の葵偉雷きいらいが率いる隊は強さに定評があった。葵偉雷きいらいは軍のトップの柊雷しゅうらいの血縁だ。

 隊員は蒼雪そうせつを筆頭に妖魔の虎巻こまき紀鷹きおう鯰沁ねんしん蛇栖だすと少数精鋭部隊だった。



「ちょっと! 紀鷹きおう‼ 何、その噛み痕⁉」


 葵偉雷きいらいが隊員の紀鷹きおうの首筋に二つの小さな噛み痕を見つけたのだ。

 紀鷹きおうは鷹の妖魔で人間の血が混在していた。


「えっ? いや、夕べ街で飲んだ後に、いい女と会って、ちょっと食われてしまいました」


 紀鷹きおうがヘラッと笑った。



「笑い事じゃないよ!それ蝙蝠の噛み痕でしょ? どこで? 城内じゃないよね⁉」


 葵偉雷きいらいがキャンキャンわめく。



葵偉きいさま、街でですよ?」


「お願いだから、天昇てんしょうにバレないようにしてね? 城内での吸血は禁止!

 天昇てんしょう、今、うるさいから!」


 葵偉雷きいらい紀鷹きおうにお願いをする。



「了解!オレもあの女とのことで邪魔されたくないしな」


 紀鷹きおうがニヤッと笑った。



「へえ~、そんなにいい女だったのか?」


 虎巻こまきたちが興味津々に聞いてくる。



「まあな。すっげーうまそうな匂いがした。久々のエモノだ」


「なら、頑張れ!」


 嬉しそうに答える紀鷹きおうに向かって仲間の虎巻こまきたちが拳をグッと握って応援をした。





 数日後、紀鷹きおうは夜の街を彷徨った。蝙蝠たちが塔を飛び立ったのは確認した。

 きっとこの街に来るはずだ。紀鷹きおうは目星をつけていた。


 そして…。


「あの匂いだ。絶対にこの近くに居る!」


 紀鷹きおうはニヤリと笑い周囲を見渡した。

 そして、デュアも紀鷹きおうの匂いに気がついた。


「この匂い、この間の。居るのか⁉」


 デュアは美味しいエサにありつけると俄然張り切った。

 鼻をクンクン鳴らして、その匂いを辿った。

 そして、ゆらりと人影が動くのを見つけたデュアはニッと笑って、その人影に近づいた。



「あ!この間の美人! なあ、あんた…」


 紀鷹きおうが声をかけるのと、ほぼ同時にデュアは右手を出して紀鷹きおうの顔に近づけた。

 そしてフワッと香りが立ち、紀鷹きおうの意識がそこで途絶えた。




「…う~ん。毎回、これだとオレがエモノにありつけないな。どうするか?」


 道端で寝転びながら紀鷹きおうは夜空を見上げていた。

 紀鷹きおうの首筋にはしっかりと小さな二つの噛み痕が残されていた。


 デュアの香りを嗅いで意識が朦朧もうろうとなる。

 紀鷹きおうは純粋な人間ではないから、すぐに目覚めることが出来るが、これではお触りも出来ない。

 紀鷹きおうはやり方を考えた。





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鷹は蝙蝠を狙い、蝙蝠は鷹を食らう 鈴懸 @yoshinagi

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