薬師メシ〜追放されたけど、手に入れた訳アリの店が伝説のアーティファクトだったので、空飛ぶお店でもふもふやドラゴンとゆるっとスローダンジョン旅〜

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第1話 限界冒険者見習い、全財産をオールインしてしまう

―side ユノ―



「ユノ=フェイル。手をおきなさい」


 

 12歳の成人儀式の日。俺――ユノは、神殿の祭壇で輝く石に手を触れ、ジョブを授かるのを待っていた。

 今日まで5年間、冒険者になるべく冒険者見習いとして働いてきた。

 評判のあまり良くないクランだったが、ここまで一生懸命頑張ってきたのだ。

 少しは報われてもいいだろう。と言うか、この日授かるジョブをどれだけ皮算用してきたことか……ふはははは……もはや勝ったなガハハ……!

 俺が狙うのはもちろん大剣士や大魔導士だ。

 ――ピッカーー!

 目の前にウィンドウが表示される。

 

 

 ジョブ:薬師

 


「……え?」



 目の前が真っ暗になる。薬師……ハズレスキルだ。

 一般的にはポーションを売って生活するのだが、多くの場合、他の薬師もみんな似たようなポーションを作れるため、差別化ができず、安く商人に買い叩かれてしまうという。

 よっぽどのしっかりした大商会に雇われていたら別だが、そー言う雇われは競争倍率が高い。大体は、王立学園の卒業生や、大商会のトップにコネがあるかの二択である。

 つまり、このジョブで成功するのは無理ゲー。

 


「残念だが、冒険者向きではないな。地道に街で働く方が良いだろう」

 


 神官は少しだけ気まずそうに目を逸らす。

 わかってる。薬師は地味で、戦えなくて、派手さもない。

 教会だって全ての人を助けられるわけではないのだ。当然、教会にとって利益になるジョブを授かった者の方が優先だろう。つまり、教会にもお世話になれない。



「ユノ」


 

 恐る恐る振り返ると、背後から、聞き慣れた声がした。

 振り返ると、同じクランのリーダーのハッゲが腕を組んで立っている。

 


「ガハハハ……!残念だったなあ……!追放だ。うちは前線重視のクランだ。戦えないやつを抱える余裕はない」

 


 追放。あまりにもあっさりとした宣告だった。

 荷物は最低限。手切れ金もほとんど渡されなかった。

 仲間だったはずの連中は、誰一人として目を合わせてくれなかった。



 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 

 とりあえず礼をして神殿を出る。

 外は夏の日差しが白く光り、町人たちが行き交っていた。

 


「はあ……薬師か。どうしよっかな」


 

 冒険者見習いで薬草採取の依頼を受けていたため、薬草の名前はそこそこ知ってる。

 小さい頃に拾った薬学の本を読むのが好きだったから、嫌いじゃない。


 

「……とりあえず、商会は無理そう」



 さっきも言った通り、まともな商会はもう無理だろう。



「もういいか〜!ええいっ!ヤケクソだっ!商業ギルド行って有金全てを使って店買ってやる!」



 ブラックなクランで生活ギリギリのお金しか貰えず、長時間労働が日常的だったが、食費を削って将来武器を買うためにと思ってコツコツ貯めていたのだ。

 どーせ冒険者にももうなれない。

 どーせ買えたとしてもど田舎の店だろうけど、再びブラックな職場で働くくらいだったら、一念発起してそのお金で店を買おう。

 薬師としての経験も0、お店をやっている経験も0あまりにも無謀だがもはやどーでも良いや……ハハ……アハハハ……アハハハハ!

 変なテンションで商業ギルドへ行く。

 商業ギルドは、世界中の商人が協力して設立された団体である。

 団体のお偉いさんには世界中の王族や貴族、大商人などがいるため、冒険者ギルドと並んで、誰にでも平等でクリーンな組織として知られている。……まあ、俺が所属していたクランが酷かったように所属している全ての商会がクリーンなわけでは当然ないわけだけれども。不動産くらいは商会してくれるだろう。

 


「いらっしゃいませ〜……!?」



 俺がボロボロの格好をしていたからだろう。受付嬢がドン引きして二度見する。



「……失礼しました。どのようなご用件で?」



 だが、そこは流石に公共機関の受付嬢。すっと、ビジネスモードに切り替わる。



「承知いたしました。では、あちらの席でお待ち下さい。担当の者を呼んで参ります」



 丸いテーブルに向かい合うようにして2つ椅子が置いてある方に手をかざしていたので、そこへ向かう。



 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「お待たせしました。私が担当のアレックスです」



 数分後、メガネをかけた真面目そうな30代の男性が来てくれた。



「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。早速ですが、ユノさん。ご希望の条件とかはありますか?」



 俺は薬師として店を開こうと思っていること。その際の金額を提示する。

 


「ほーう……結構出せますね」

「頑張りましたから……」



 ええ。それはもう。ブラックなクランで、働きまくりましたから……



「ハハハ……苦労したんですねえ」



 アレックスさんは謎の同情をしてくれる。

 良い人のようだ。

 


「とりあえず、その条件ですと、こことか……こことかですかね」



 アレックスさんが慣れた手つきでパパッとピックアップしてくれる。

 確かにパッとみた感じ良さそうなお店だ。

 だが、俺は納得しない。

 というのも。



「どうせなら、限度額ギリギリが良いんですよねえ」



 そう、これは冒険者への未練を断ち切るための散財である。

 有り金は全部使う。

 ちなみにこの決断はきっと将来後悔するだろう。俺には分かる。バカをやってるという自覚は。

 


「そーですねえ……あっ!少々お待ちください!」



 そう言ってアレックスさんはどこかに行ってしまった。

 しばらくして戻ってくると、1枚の紙を持ってくる。



「ここ、ちょうどピッタリ限度額なんですよ。ただ……」

「買います」

「えっ……!?」

「買います。運命です」

「ええと……良いんですか?本当に」

「良いんです!ムムッ!」



 俺はドヤ顔してそう呟く。



「は、はあ……あの……一応説明しておきますと、ここは少し訳アリなのです。その……幽霊が出るみたいで」

「かまいません。決して幽霊なんて怖くないですから」

「そ、そうですか。さすが冒険者」



 なーんだ。たかが幽霊程度で訳ありなんてラッキー♪

 勝ったなガハハ……!

 この時の自分がどれだけ限界だったかを知るのはちょっと後のことである。



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